第百四十五話 人間側
決戦の日まで、もうすぐ。
人間側の話になります。
ゼロの最終宣告から、五日目。あと二日で戦争が始まるルーディア国には、様々な顔触れが見えていた。
会議をするための部屋、それぞれの代表が集まっており、ここにいる者が、これからの戦争をする時のリーダーとなる者だ。
まず、ルーディア帝国の皇帝が号令を出す。
「皆は、見知った顔ばかりだが、知らない人もいるだろうから、発言する時は自分の名と所属する国を言ってほしい。
私はルーディア帝国、ラード・エクステ皇帝。これから魔神ゼロからの最終宣告をしてきたことに話し合いたいと思う」
五日前に、全ての街に魔神ゼロから映像が流れたことから、始まった。
「サーズ国のダリュグ国王から話があるそうだから、聞いてほしい」
「俺がダリュグと言う。サーズ国が魔神ゼロの配下が攻められたことだ。魔神ゼロの配下がどれくらい強いのか、少し説明しておこうと思ってな」
「同じく、サーズ国で聖騎士長をやっているレクス。私も実際に戦った経験から話したいと思います」
攻められていない国の代表も来ているのだから、魔神ゼロがどれだけ危険なのか、説明しなければならない。
「まず、白い化け物のことからだな。先兵の存在で、数はわからんが同じ姿をした化け物が何体か攻めてきたことから、おそらく魔神ゼロが作った戦闘員だろうな」
「その実力は、一体だけで私達の聖騎士三人に匹敵します」
ザワッと身体を揺らす者もいた。さらに、聖騎士三人がいても殺しきれなかったと説明で魔神ゼロのことを知らない代表は青ざめていた。まさか、たかが先兵なのに、それだけの実力を持っていたとは思わなかっただろう。
ここで、皇帝から追撃が入る。怖がらせても仕方がないと思うが、舐めてかかっては足手まといになってしまう。だから、知っている全てを話すことにしたのだ。
「次に、幹部と言われる者がいます。その幹部は白い化け物とは比べにならないほどの実力を持ちます。実際にも、その幹部と戦った勇者がいます。まず、魔神ゼロの拠点だと思われた場所に勇者を五人送り出しました」
クロト達との戦いのことだ。勇者達から全て話を聞いている。これから話す皇帝も信じられない思いがあるが、本当のことなので、他の国にも言っておかなければならない。
「勇者達からの話では……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「う、嘘だろ!?」
「名前と所属」
「あ、すいません! エルーン国で勇者をやっているナオキと言います。さっきの話は……」
「うむ、信じられないかもしれないが、全ては本当のことだ」
「…………」
幹部は三人いて、その二人は勇者二人ずつで戦っていたがいい勝負をしたようで、残りの一人、クロトは勇者が五人もいても負けそうだったという。最後の最後に、勇者カズトが奇跡を起こさなければ、負けていたのは間違いなかったのだ。
そんな幹部がまだ知っている中では、あと五人はいる。
レイ、フォネス、マリア、シル、ヨハンのことだ。全員は、カズトパーティが出会ったことがあるので知っていたけど、もしかしたら他にいるかもしれない。
「そんな化け物の軍隊がここに来るのかよ……」
「ああ、だから勇者達も全員に来てもらっている。魔神ゼロが脅迫してきたのもあるが、全戦力で待ち構えないと勝てない」
それだけの化け物が来るなら、その化け物に対抗出来る人物、勇者をぶつけるしかない。
「聖アリューゼ皇国で勇者をやっているフミオです。そういえば、『雷獣の勇者』、タカオ先輩はいないのですか? 何か知っていることがあれば、聞きたいのですが……」
「ああ……、それはこれから話そうと思っていたことだ」
「えっ?」
今度は、ルーディア帝国が攻められていたことを話すことに…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうでしたか……。あの人は命を懸けて、ここを守ったのですね」
「ああ、幹部を一人だけで倒したのだ。惜しい男を亡くしたと思う」
皇帝でさえも、タカオが守りたかった者がカズトだけだったのは知ることがなかったから、街を守った結果に見られるのも仕方がないだろう。
話を変え、集まった戦力の確認に入る。
「ここにいる勇者は23人……、他に聖騎士、竜騎士も全て合わせて200万人か。これだけ集まるとは、殆どの国が魔神ゼロが脅威だと判断しているようだな」
「エルジア国で騎士長をやっているラドエムです。先程の映像は誰が出来ますか? 私は今までの前例にないことをやってきたゼロと言う者は、こちらにはない能力を持っていることと判断しています。さらに、勇者を隠していた場合の対処方法から、その場にゼロ本人がいなくても街を壊せると言っているように聞こえました」
「確かに、魔神ゼロの実力と能力は未知数。幹部より下というのはありえないことから、この戦力は過剰ではないと判断すべきだろう」
未だにも、ゼロの戦力も未知数であり、少ないよりも多過ぎる方がいいだろう。何せ、人間側の将来が懸かっているのだから。
「さて、その戦力を持って、作戦を話し合おうじゃないか。向こうがどんな戦法で来ようが、それらに対応して行けるように考えなければならない。いいな?」
皇帝が、ここにいる皆の姿を見ながら言う。ルーディア帝国、サーズ国、聖アリューゼ皇国を中心に、他の十一国が目で示し合わせて了解する。
そして、二日後に世界初の大戦が始まるのだった…………