第百三十八話 天魔の方舟
第四位大天使が魔王ゼロに破れ、箱庭を乗っ取られたとセラティムから聞き…………
「第四位大天使が破られたのはわかったが、箱庭ってなんだ?」
カズトは意外と冷静だった。いや、魔王ゼロならと予測したからかもしれない。しかし、箱庭と言われてもピンと来なかったので、セラティムから説明して貰った。
「成る程、天界は一つだけではなく、大天使がいる領域が箱庭と呼ばれていて、それがいくつかもあると言うわけか」
「はい。天界は別の世界だと思ってくればいいです」
箱庭は大天使の権限により、創造された一つの世界なのだ。それが、魔王ゼロによって乗っ取られた。
「クロトが言っていた『ダンジョンに戻らない』の言葉はそういうことだったのか……」
つまり、魔王ゼロは始めから天界を乗っ取ることまで考えていたということ。勇者達はそう予想した。
「ええと、箱庭は大天使の権限がないと乗っ取りは出来ないんだよな? 魔王ゼロはどうやったんだ?」
「いえ、そこまではわかりません。この情報を伝えて下さった天使は乗っ取られる前に天界から逃げ出したので、詳細はわかりません」
「そうなのか、その情報を伝えてくれた天使とは?」
「彼女はルーディア帝国にいます。詳しくは向こうで話しますので、今は休息を取りなさい。特に貴方はね」
今の状態ではゆっくりと話せないだろう。現にカズトはタイキに肩を借りており、目には見えないが、全員の中ではカズトが一番危険な状態なのだ。
カズトは神之能力『救済神』を不完全な状態で発現したのだ。さらに、寿命を半分も犠牲にしており、”聖救剣”の効果を受け付けていない今は、まだ一人で立てていない。
セラティムが言った通りに休息が必要だろう。
「私が転移させますので、集まりなさい」
セラティムはルーディア帝国に転移するために、転移陣を拡げ、全員の姿をここから消していく…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
乗っ取られたと言われた箱庭では…………
「メロン、どう? 何か問題があったら言うんだぞ?」
「うんっ! お兄ちゃんの為に頑張るよー!」
ゼロとメロンと呼ばれた少女は一つの部屋にいた。メロンとは、元メタトロンだった少女で、メタトロンから抜きとって、メロンと名付けた。
メロンは前の記憶が無くなっていて、さらにゼロと戦っていたことも覚えていないらしい。だが、ゼロに助けられたという感覚だけはわかったらしい。
メロンが眠れる少女で、それを助けたのが王子役のゼロ。メロンはそう認識していると言う。
そのメロンが何を頑張っているのかは、触れている光の球体にある。
「問題はないなら、成功だな」
「お兄ちゃんは凄いねっ!! 私がこんな大きな物を操れるようになっているし!!」
メタトロンの力を抜き出されたメロンは何も力がないただの少女になっている。記憶も無くなっており、聖女だった時の力も消えている。
なら、少女は光の球体で何を操っているのか?
(ふふっ、これで拠点はゲットしたな?)
『……うん、ちゃんと拠点の全体に力が行き渡っている』
よく見ると、光の球体の下には、薄く光の放流がある。それが拠点になっているモノ(・・)を制御しているのだ。
「ねぇねぇ、飛ばしていいの?」
「そうだな、準備も出来たし、飛ばしてみろ」
「うん! 発動!!」
メロンは光の球体に両手を添える。光の球体はメロンの指示に応じて、球体に模様が浮かんで光る。
で、メロンが両手を添えている光の球体とは、何なのか気になるだろう。それは…………
ゼロが封印したメタトロンの核なのだ!!
もちろん、そのままでは使えない。だから、『零式王』で、情報を書き換えたのだ。
この核には、もう一つの意識があり、ゼロが吸収しても王者能力は手に入らないし、レイのような意識がもう一つ生まれてしまい、ゼロにしたら邪魔でしかない。さらに、メロンに組み込んだら、また乗っ取られる可能性がある。
だから、ゼロとレイは書き換えた。この核は生き物に入れると、意識が生まれてしまう。それは避けたいことであり、ゼロはメタトロンの核にある箱庭を創造する権限が欲しいのだ。
だから、生き物には入れずに、無機物である拠点となる箱庭に繋げたのだ。それでは、箱庭が箱庭を創造する権限を持つことになる。だが、情報の書き換えで、メロンが箱庭を創造する権限に変えることが出来た。
メタトロンは無機物である箱庭に宿ることになるが、意識は生まれなった。だが、その制御はメロンが出来る。
何故、ただの少女になったメロンに制御を任せるのかは、単に、相性が良かったからだ。おそらく長年、身体にメタトロンの核を埋め込まれたからだろう。
そのようなやり方にしてあるので、メロンはメタトロンの意識に乗っ取られずに箱庭を創造する能力を得たのだ。
「拠点の名前はあるの〜?」
「ああ……、名を付けるのもいいだろうな。外見から見て……」
箱庭の姿は前のと違っており、前のは神殿に、周りは滝があり、水が永遠と空に落ちていくようなものだった。幻想的な世界だったが、今は違う。
世界そのものを一つの形にしたような物にしてある。見た目は一つの浮き島だが、船に近い形になっている。
簡単に言えば、浮島が船の形になって浮いているようなものだった。
船の真ん中には一つの城があり、そこがゼロ達の拠点になる。
「そうだな、『天魔の方舟』でどうだ? 天使も魔族も配下にいるしな」
「うん、いいね! よ〜し、『天魔の方舟』、発射〜!!」
『天魔の方舟』と名付けられた箱庭は、メロンの指示通りに浮き、前に進んでいく。
この『天魔の方舟』は、別の世界に隔離されていないで、雲の上を進んでいる。つまり、ゼロ達は自由に動く拠点を手に入れたのだった。
「ふふっ、良い景色だな」
ゼロは制御の部屋から出て、船では看板と言う場所で周りを見る。周りには雲しか見えない。
ここなら誰にも見付かる恐れはない。空を飛べない限りは…………
(ふぅ、少し疲れたな。仲間ももうこっちに回収したし……)
『……あ、勇者達は全員、生き残ったみたい』
(何だと?)
生き埋めにする作戦、時間内に地上へ出られるとは思えなかった。時間内に出るのは不可能ではないが、地下一階には、幽腐鬼100体が待ち構えているから消耗した勇者達が生き残れるとは思えなかったが…………
『……魔物の目を使って見たけど、一体の聖獣が現れて、ダンジョンに光を振り掛けているのが見えた。それで、幽腐鬼の反応が消えていた』
(光? 幽腐鬼は光魔法が効かないはず……、いや、別の能力か?)
『……うん、聖獣は龍の姿をしていたけど、勇者達が地上に出てきた時は、人間の女性になっていた。会話を聞いたら「浄化した」と言っていた』
(浄化……クソッ、光魔法じゃないのかよ。幽腐鬼に効いたなら、俺達も効く可能性が高いな)
ゼロは厄介な力を持っている聖獣を何とか消したいと思っていた。誰かを仕向けて消すのもいいが、全員が魔に属しており、話を聞くには、浄化が弱点なのだ。
全員で攻めれば、確実に殺せるが、こっちの被害も大きくなってしまう。どうするか考えていたら…………
『私が行きましょう』
「む?」
念話が聞こえ、横を見ると、堕聖獣のナルカミがいた。
「あれ、考えていたことが伝わっていたのか?」
『はい、おそらく皆にも伝わっているかと思いますが』
皆と言うのは、幹部の仲間のことだ。『信頼者』がいつの間にかに、発動していたようだ。
「……まぁ、それはいい。どうしてお前が行くと?」
『私も魔に属していますが、聖獣でもあります』
「成る程、聖獣から浄化されても簡単に死なないわけだな。しかし、浄化されたら、こっちを裏切る可能性もあるんだぞ?」
魔を完全に浄化されたら、聖しか残らない。ナルカミは堕ちているから、ゼロの配下になっているが、もし魔を浄化されたら裏切る可能性もあるのだ。
『それのことにも考えがあります。それは…………』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナルカミは空を走り、龍の聖獣と勇者達がいるルーディア帝国に向かっている。龍の聖獣を消すために…………
『……いいの?』
(ああ、自分から言ってきたことだ。その覚悟を簡単に切り捨てたくもないし、ナルカミにしか頼めないことだしな。レイも頼んだぞ)
『……うん、ナルカミが思い付いた策、必ず成功させてみせる!』
二人もナルカミを信じて待つだけ…………