第百十二話 サーズ王国
ゼロの拠点から人間の足では二週間はかかる距離があるとこには、サーズ王国と言う街が広がっている。
この街はメイガス王国より小さい街といえ、武力はメイガス王国の三倍は誇る。
もし、メイガス王国とサーズ王国が戦争をした場合は間違いなくサーズ王国が勝つだろう。
聖騎士と竜騎士の質は聖アリューゼ皇国には劣らないと有名である。質もそうだが、街の防衛も素晴らしいもので、サーズ王国を囲む鉄製の壁があり、簡単に攻め込むのは難しいほどだ。
何故、サーズ王国のことを話しているのかは…………
「ほぉ、堅そうな壁に、中心にある城を崩すのも容易ではありませんね……」
何処からか、喋る男の声が聞こえてくる。
街の人々は商店で賑わいを見せ、堅い壁を前に攻めてくる者はいないと考えているようで…………
「我が神が用意して頂いたこの力と兵隊があれば、それは問題にはなりませんね…………」
蝶の羽を持つ男は街から離れた場所の空中に浮き、手元にはこの世界にはないバイオリンが握られている。
「轟け、”魔軍奏曲支配”!!」
キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーー!!
蝶の羽を持つ男は街から離れており、街にはバイオリンの音が聴こえていないが、下にある森には演奏が響いている。
森にいた魔物達がその音を聞いて、誘われるように蝶の羽を持つ男、エゼルの元に集まる。
「私の演奏に惹かれた魔物よ、演奏の元に従って街を襲えよ!」
魔物達は理性をエゼルの演奏によって掴み潰され、演奏に従って暴れるだけの人形に成り下がった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サーズ王国の中心にあるお城の王間にて、立派な服を着た男が慌てて入ってきた。
「何事だ? 客の謁見中に入ってくるとは無礼だぞ!!」
扉の近くに立っていた兵が入ってきた者を止め、諌める。兵よりも偉い人物といえ、今は客が来ていて謁見中なのだ。
そこに入ってくるなんて、失礼きまわないことである。
「そんな場合じゃないっ! 外を見てくればわかる!!」
「むっ……」
その人物のただ事ではないほどの慌てよう、外では有り得ないことが起きているのがわかる。
「わかった。すまないが、待たせても構わないか?」
「いえ、俺達も一緒について行っても?」
「いいだろう」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……なっ」
「嘘だろ……」
「ま、万単位はいるぞ!?」
テラスから見る王様と数人の兵隊、あとは謁見していた客と慌てて知らせてきた者。
目の前には、万単位の魔物が砂煙を起こしながらこっちに向かってくるのが見えた。
街までの距離はまだあるから兵隊、聖騎士、竜騎士を設置する時間はあるが、万単位の魔物が攻めてくるなんて今までなかったことで驚愕で一杯だった。
「ガゼット! 全ての兵隊達に危険度Aランクと伝えよ!! ギルドにもだ!!」
「は、はい!!」
この場で一番偉い兵に指示を出す王様。
「この規模……、我も出る。聖騎士、竜騎士にも伝えよ!!」
「は、はははい!!」
慌てて知らせてきた者が聖騎士長と竜騎士長に魔道具で知らせる。
危険度Aランク、南から万単位の魔物がお見えだ。ダリュグ様も出騎される…………など指示も出しておく。
「パパ! パパも出るの?」
そこには、第一王女のミレナディアがいた。おそらく、騒ぎを聞いて飛び出して来ただろう。
「ああ、この数だ。戦える者が全員出ないと勝ちを拾えない」
「私も出る!」
「駄目だ! 私が万の一に死んだら誰が王として民達を引っ張っていく?」
「う…………」
下唇を噛み、黙る第一王女ミレナディア。
ミレナディアは戦いの心得があり、父親であるダリュグに鍛えてもらっている。だから、父親の助けをしたかったが王の血筋を断ち切られるわけにはいかない。
理由は単純。ダリュグの子供は第一王女のミレナディアしかいないからだ。
それに、第一王女ミレナディアは民に慕われ、信頼も厚い。次の国王を選ぶなら第一王女ミレナディアとダリュグは決めているのだ。
王様であり、父親のダリュグは元SSSランクであり、前国王は自分の子供にではなく、ダリュグを指名して国王に成り上がっている。
実績はあり、周りからも慕われていて前国王の子供もダリュグが国王に指名されたことを喜んでいた。
ダリュグが剣の師匠であり、政治にも口を出していて実績を出している。誇り高いと感じていたから父親である前国王に選ばれなくても不満はなかった。
その男は政治に疎いが、剣はダリュグに迫る程の実力を持ち、今は聖騎士長の役職に就いている。
「準備は出来たそうです!」
「よし、我も竜に乗り、魔物達を蹴散らして来る」
「ぱ、パパ! 必ず生きて帰ってよね!!」
「ああ。死ぬならベッドの上でと決めている!」
ダリュグは自分の相棒がいる竜の育成場に向かう…………
門前にて、万単位の魔物を相手にする道具を準備していく。空から攻めてくる魔物は少なく、地を足で攻めてくる魔物が多いのはサーズ王国にとっては助かっただろう。
もし、空から攻められては逃げ道が少ない民達の犠牲が増えてしまうだろう。
門前には兵隊、聖騎士が設置され、空は竜騎士に街の中には冒険者が待機している。数はこっちの方が多いといえ、油断は出来ない。
二ヶ月前にある知らせを聞いていて、目の前の魔物達がその関係を持つ可能性が高いのだ。
統率された様々な魔物がお互いを襲わずにこっちに敵対している。そんなことは魔王にしか出来ないと皆は考えている。
魔王の配下がサーズ王国を攻めてきたと…………
「大型魔導砲の準備は出来ているか!?」
「準備は完了しております!!」
鉄の壁の上にはいくつかの大砲のようなモノが置いてあり、大型魔物を撃退する時に使う魔道具である。さらに魔法を放つ準備をしている魔術師も沢山いる。
大型魔導砲は広域にダメージを与えることも可能で、まず数を減らしてから魔物と兵の突撃になる…………
「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
指揮者から号令が出て、魔法と魔導砲のエネルギーが飛び放たれる。
轟音と共に弾ける魔物達。倒れた魔物を気にせず、轟音が轟こうが、魔物は止まらない。
魔物が進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む!!
「くっ、止まらないだと!? 構えよ!!」
指揮者は悪態を尽きながらも、指示を出す。怖じいて逃げてくれば、戦いは少しは楽になるはずなのに、魔物は死を無視するように攻めてくる。普通ではない。
戦う前から腰が退ける兵士も何人かいるが、街に入られたら家族が死んでしまう。なんとか守らなければならないと、覚悟を決めている。
「第一陣、槍隊進めぇぇぇぇぇ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
激突する両者。ダメージが大きいのは、武器も鎧を持たない魔物の方だった。
魔物に与えられた命令は『街に向かって進め、邪魔をする者は殺せ』。それだけだ。
戦場になりつつサーズ王国の門前。兵士達が攻める内に、弱い魔物は倒れていく。
このままなら兵士だけでも勝てそうな状況に見える。だが、現実はそう簡単にはいかない。
「くっ、オーガやゴブリンキングにオークキングまでいやがる! 大型魔物が出て来たら聖騎士を投入せよ!!」
オーガ、ゴブリンキング、オークキングなどは中型だが、後ろには大型魔物が潜んでいると考え、聖騎士に指示を出す。
空中では…………
国王のダリュグが竜に跨がり、戦場の確認をしていた。隣にはさっき、聖騎士長と竜騎士長に連絡したガゼットがいる。
「ヤイバワイバーンも数体は確認出来るな……」
「地上を見た所では、最高ランクがBで空中はヤイバワイバーンのAみたいです」
「空中は数が少ない代わりに強い魔物を投入してきたか?」
「相手が魔王なら、まだ隠している戦力があると予想出来ます」
「そうか、竜の体力は無限ではない。交代しつつ、体力を節約しておきたいな」
この戦争を起こした首謀者の姿がまだ見えないなら、全隊投入は悪手になる。
敵の戦力がまだハッキリしていないのだから…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この状況を起こしたエゼルは既に街の中に潜入していた。
「まさか、私だけ街の中に入るために魔物全てを囮にしたなんて思いませんよね?」
そう、あれらの魔物は全て囮であり、潜入するだけのために、万単位を犠牲にするのだ。
エゼルは他の者と違って背中には蝶の羽があり、目立ってしまうため、普通に入ることは出来ないのだ。
「さぁて、本命を解放しましょうか」
地面や家の壁などに魔法陣が浮かび、中から白い手が出てくる。少しずつその姿が見えてくる。
エゼルが召喚したのは、この前に造った兵隊、『幽腐鬼』であり、その数は10体。
少ないかもしれないが、エゼルは充分だと思っている。
幽腐鬼は一体一体がAランクであり、半ば不死身に近いのだからそう簡単にやられない。
「狩りを始めよう……」
エゼルは指示を出し、幽腐鬼が動き出していく…………