第百四話 五人の勇者
勇者のターンです。
ゼロが魔王を倒す宣言する頃から、一ヶ月前に遡る。
勇者カズトの方では、ルーディア帝国に留まり、ガイウスの指導で、魔物相手に訓練を進めていた。
「おらぁ! そんなんじゃ、剣に込めた力が魔物に全て伝わらねぇぞ!! 無駄な動きをせずに、相手の呼吸を読め!!」
「はいっ!」
ガイウスの指導は周りから見ても厳しい方だとわかる。いつでも、実戦を中心に格上の魔物相手に戦わせるのだ。
実力の差を間違えば、死ぬ可能性が高い訓練であり、やる方の覚悟がなければやれないのである。
「あんな熊っころの動きを読めねぇのか!!」
今、カズトが相手をしているのは、Aランクである『四腕雷熊』だ。
「ガァァァァァ!!」
「くぅっ!」
『四腕雷熊』の特徴は名の通りに、腕が四本もあり、雷のブレスを吐ける熊なのだ。さらに爪に雷を纏うことで、掠ったら相手を痺れさせることも出来る厄介な魔物だ。
動きも巨体の癖に、スピードを持っていて簡単に捕らえることが出来ないほどでもある。
「『輝剣』!」
カズトは剣に光魔法を纏わせ、まずは四本の腕を切り落としていく。
今のカズトは『正義者』を発動していない。自分自身の実力だけで動き回って四方から爪で切り込んでくる熊を捌いていく。
「今だっ!」
「ギィアガッ!?」
カズトはカウンター気味に、一本の腕を切り落とした。
今のは魔力操作による身体強化だけでカウンターを合わせることが出来ていた。メイガス王国にいた頃のカズトでは合わせることが出来ずに切り裂かれるだけだっただろう。
「ギィガァァァァァァァ!!」
敵は少し距離をとって、雷のブレスを放ってきた。いつもなら、防御は魔術師のテリーヌに任せていたが、今はカズトとガイウスしかいない。
当のガイウスは手を貸すことはない。
なら、カズトはどうやって防ぐのか?
剣で? それは不可能だとわかるぐらいに、雷のブレスの規模は大きいのがわかる。
光魔法で? 光魔法での防御は今まではあまり活用していなくて、防御の面で雷のブレスを防げるかは怪しいものだ。
剣も光魔法も駄目ということになるが、カズトはまだ手が残っていた。それは…………
「『守護者』発動!!」
新たなスキルだった。この前、マギルと話をして覚悟を決めた瞬間に発現した新たなスキル、『守護者』。
発動した瞬間に、光っている鏡のような物が四枚現れた。大きさは縦がニメートル、横が80センチぐらいで人を隠せる程はあった。
カズトはその一枚を操作して、雷のブレスから隠れるように前に出すカズト。
雷のブレスが鏡に当たると、反発されるように、跳ね返したのだった。
「ギィッ!? ギガァァァァァァ!!」
跳ね返されるとは思ってなかったのか、ブレスを吐いた場所から動いてなかった熊は自分の技でダメージを受けていた。
そこで、鏡が一枚割れた。
攻撃を跳ね返す鏡は一回使うと割れる。さっき四枚を出していたが、それは一度に操れる数であって、出せる数の限界ではない。
一枚を出すだけでも大量の魔力が必要になるが、カズトも成長しているからある程度の数は出せるのだ。
「今のうちにっ!」
敵が自分の雷で身体の自由が利かない内に、カズトは腕を切り落とした。
「ガアァァァァ!!」
「トドメをさせ!」
腕を全て切り落とした後に、喉に向けて剣を向ける。
「『輝突剣』!!」
纏まっていた光魔法が槍より太くなり、突きで敵の喉を突き刺した。槍より太くなった光の剣が首の真ん中を通った後にバァン! と爆発を起こした。
腕がなく、首を爆発されて頭が吹き飛んだ哀れな熊は力無く倒れたのだった。
「ふぅっ……」
「まずまずだな。ワシが言った制限も守ったし、付けた条件もクリアしたな」
「はい、苦しめることになりましたが……」
本当なら、腕を切り落とさずに首を先に狙えたのだが、ガイウスが出した規制と条件とは、『正義者』を使わずに四本の腕を切り落としてから殺すこと。
実戦で、弱点を狙えたのに、あえて狙わずに部位を切り落とすそのやり方は相手が自分より弱くなかったら反対に殺されてしまうこともあるのだ。
何故、ガイウスがそう指示したのは、戦闘中に集中力を長時間、途切れないようにするためだ。ガイウスから見てもカズトには集中力が足りないように感じられたから無茶なことをやらせることにしたのだ。
一歩間違えればカズトが死んでしまうのだが、死んでしまったらカズトが弱かったから死んだということになるだけで、ガイウスに支障はない。
カズトより強い勇者クラスは何人かいるのだ。まだ弱いカズトは強くなれば御の字だとしか思っていなかった。
ガイウスが厳しいとか薄情だからではなく、たった三ヶ月だけで年単位をこの世界で生きてきた勇者に追い付くのは普通に考えても無理だ。
少しだけ可能性は、あるがそれは普通ではなく、運任せに近いのだから、ガイウスはそれに期待しないで他の勇者に期待したほうが楽なのだ。
カズトの願いで訓練をしてやっているが、成長は他の人と変わらず、年単位の勇者に追い付くとは遠い程だった。
「ハッキリ、言ってやろうか? お前ではゼロには勝てない」
「…………」
カズトにもそれはわかっているのか、黙っているしか出来なかった。
「他の勇者に任せればいいのに、何故、自分でゼロを討ちたいのだ?」
「……わかりません。ただ、ゼロのやり方を許せないだけです」
「やり方ねぇ、こっちから見たらそう思うが、魔王としては間違っていないだろうな」
「何故、戦争を起こして戦おうとするのですか? お互いに被害が出るだけなのに」
「……ゼロが何故、世界征服をしようとするのかはわからんが、向こうにも譲れないものがあるだろうな」
「譲れないもの……」
しばらくガイウスと話していたら、向こうからマギルが慌ててこっちに向かってくるのが見えた。
「はぁ、はぁ…、急いでルーディア帝国に向かってくれ」
「まさか、攻めてきたのか!?」
「そうなら、急いで戻らないとっ!!」
予定より速いが、もう魔王が攻めてきたのか? と思ったが、マギルに止められていた。
「違う違う! 攻めてきたのと違って……」
「どういうことだ?」
「なんか、ルーディア帝国にいる勇者を全員集めているみたいなんだ」
「勇者を全員……?」
魔王が攻めてきたわけでもないのに、何故、勇者を全員集めるのかわからなかった。
「詳しくはわからないが、皇帝が集めていた」
「……わからんな。カズト、行ってこい」
「は、はい」
何の用事かわからないが、全員の勇者が呼ばれているなら、カズトも行かなければならないのだ。
何の用件なのかわからずに、ルーディア帝国の皇帝の間まで行くことに…………
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
皇帝の間に、五人の姿が見えていた。その五人は全て勇者であり、召喚された者が集まっていた。
そうそうと勇者が集まることなんてないから、カズトにとっては先輩達になるので、少し緊張していた。
ここに集めた張本人は、準備があるから少し待つようにと従者から言われていた。
おそらく、今のうちに自己紹介でもしとけの意味だろう。
「ぼ、僕は勇者になったばかりのカズト・アンドウと言います」
「ははっ! 緊張しなくてもええ! 俺らはただお前より早く召喚されただけだから普通にしとけばいいんだよ」
一人の男が緊張しているカズトに普通にしていればいいとアドバイスを送っていた。
「普通にと言っても、急にタメ口はないから、そこを間違えないでくれ」
ここに集まっているのは、全ては日本人なのだが、キリッとしている女性は何故か、金髪だったのだ。見た目は騎士っぽいの姿をしていた。
カズトはハーフなのか? と考えたが、今は関係ないことなので、頷くだけに留める。
「イリヤは堅いな〜。いつもそれで疲れねぇ?」
「貴方が軽すぎるだけなのだ。私は普通にしているだけだ」
最初に話し掛けてくれた男がリイヤと言っていた。イリヤと言う日本人はあんまり聞かないからハーフだろうなと、心の中で納得するカズト。
「あ、そうそう。自己紹介がまだだったな。俺はタイキ・ヤスラギと言う。タイキと呼んでな」
「やはり、貴方が『跳ね馬の勇者』か?」
「おっ! イリヤは知っていたんだ!? 俺って有名みたいな?」
ふふんと胸を張るタイキ。だが、知っていた理由が…………
「ナンパでウザい男だから気をつけろとメイドから警告を貰いました」
「そんな理由で!?」
さっきと変わって落ち込むタイキ。
「私はイリヤと言う。『流星の勇者』と呼ばれているが、恥ずかしいから名前の方で呼んでくれ」
「はぁ」
確かに二つ名で呼ばれるのは恥ずかしいと思う。とりあえず、イリヤさんと呼ぶことに。
「腐腐腐っ、次は私ね。『腐女の勇者』と呼ばれているわ。クスハでいいわ」
勇者なんだが、魔術師の様な姿で髪もボサボサだった。
二つ名からクスハはどう戦うのか予測出来た。ただ、そっち系の腐女だけかもしれないが…………
「最後は……」
「ゴウダで構わん」
一言で終わらせる男。身体は鍛えていて、前衛としては頼もしいような感じに見えた。
ゴウダの二つ名は『煉獄の勇者』とタイキから教えてくれた。
「これで自己紹介は終わったみたいだな。っていうか、まだ来ねぇな」
「口が過ぎるぞ。黙って待てばいい」
「腐腐腐、私達を集めて、何をするのか気になるわねぇ。腐腐腐っ……」
「…………」
カズトは思う。勇者ってクセのある人ばかりだなぁ……と。
その中でカズトが一番、まともかもしれない。
「来たわ」
イリヤが先に気付いて、来る方向に目を向ける。
そこには、皇帝と呼ばれる男とここで見たことがない女性がいた。
「待たせてすまなかったな。では、すぐに集めた理由を話そう」
そう言うと、女性が前に出てくる。
その女性が僕ら、勇者達に用があるのだろうと思い、耳を傾けると…………
「まず、教えておきます。私は聖獣です」
その言葉で、勇者達は全員が口を開けたまま驚愕の表情を浮かべたのだった…………
次回に続きます。