第百ニ話 最強魔王の実力
急に現れた男、背中には白い翼があり、頭の上には光る輪っかが浮いていた。
まさに、天使だとわかるような姿だった。
その天使が何故、ここにいるのかは…………
「悪魔王が一人、消えたから調査のために、天界から降りてきた」
そう言って、周りを見回す天使。
ここの部屋には、ゼロ、フォネス、マリア、ナルカミ、ミディ、ロドム、ノエル、ナガレ、ミディの部下達……と集まっている。
「天使がここまで来て、何をしたいのですか?」
そう聞いたのはロドムだ。仲間を斬られたことに怒りを覚えるが、まず、何らかの情報を聞き出す。
「後は悪魔王を倒した者を仲間にしようと思いましたが、来てくれるわけでもないので、もう目的は達したことになりますね」
「目的ですか?」
「ええ、悪魔王を倒した者は誰かわかりませんが、ここには強い者がいる。それだけわかっていれば、充分です」
天使が見た視線には、ミディとゼロが入っていた。天使はこの二人のどちらかが悪魔王を殺したと判断したのだ。
用はないと視線を外そうとした時に…………ナルカミが映った。
「……え、なんで聖獣がここにいるのですか? 鱗が黒いのですが、麒麟ですよね……?」
天使が驚いたような顔をしている。そうだろう、魔物、魔人を殺すために天使が聖獣を作ったのだから、そっち側にいることに疑問を持ったようだ。
「ナルカミは俺の配下だ。それに、ナルカミは聖獣ではない。堕聖獣だ」
「堕聖獣……、堕ちた聖獣ですか」
納得したように、天使は頷く。もう聖獣ではないと理解したようだ。
「お前は、俺達の獲物じゃないみたいし、食事を続けるぞ」
ゼロはそう言って、席に座り直す。ゼロの配下達もゼロに習って座り込む。
その様子に、天使は疑問を浮かべたようだ。
「あれ、私が貴方達を襲わないと思って?」
「いや、そう言う意味じゃない。お前とやる奴が既に決まっていたからだ」
そう言うが、天使はまだ疑問を浮かべている。
だからと言っても、こっちを警戒せずに椅子に座るなんて普通ではない。
と、その時に天使の足元から声が聞こえた。
「う、うぅぅぅ……」
「あれ、まだ生きていたんだ? 魔物無勢が、私の剣を受けても生きているなんて許せないなぁ。さっさと死ねよ」
天使はそう宣言してから、剣を倒れている男の頭に向けて突き刺そうとするが…………
「えっ?」
剣を突き刺したのだが、足元にいた男がいつの間に、消えていて空振りになっていた。
目を前に向けると、さっき足元にいた男を介抱しているミディの姿が見えた。
いつの間に? と疑問を浮かべる天使だったが、ミディは天使を見てなくて男と話していた。
「大丈夫か?」
「ミディ様……、すいません……」
「気にするな。オジィ!」
「ホホッ、お任せを」
一旦、男をロドムに渡して、手当てをするように指示をする。
ミディが天使がいる方に向くと、その目には、怒りが宿っていた。
「ほらな? 俺達の獲物じゃないと言っただろう。ミディ、獲物はやってもいいけど、研究しがいのある天使だから、綺麗な死体のままが欲しいんだが?」
「貴方はねぇ…………、はぁ、いいわよ。面白い物を見せてくれたお礼でね」
天使の死体が欲しいが、出来るだけ傷は少なめで殺してくれと注文するゼロに呆れるミディだが、一応了承した。
研究したら、何か教えてくれるかもしれないし、ミディにも利益のある話だから、消し炭にしたい怒りを抑える。
「ホホッ、ゼロ様、助かりました。ミディ様が本気を出したら屋敷一つ無くなってしまいますからな!」
「ミディもレイと同類かよ……」
レイがそのことに文句を言ってきたが、ゼロは無視してミディの戦いを見る。
「さぁ、配下に傷を付け、私の領域に入ったことを後悔させてあげるわ」
「貴女は強いのはわかりますが、あれ程に魔力を押さえたままで、私に勝てると?」
天使の言う通りに、ミディは強いのだが、今みたいに魔力を押さえているなら、魔王よりは実力が下の天使でも傷をつけられるだろう。運が良ければ、殺せるかもしれない…………
「そうよ。そして、何もする暇もなく、殺すからね」
「私を舐めていませんか……? 貴女の方が強いとしても、やりようはあるのですよ?」
「やってみれば?」
挑発をするミディ。天使は理性を無くすほどではないが、怒りを浮かべているようだ。
勝てないのをわかっていて、挑むのは馬鹿がすることだと天使は理解している。
例え、ミディが魔力を押さえているとしても挑むわけがないのだ。
だが、逃げるには隙が必要だ。一瞬でも隙が出来たなら、転移で逃げれる。
そのために、屋敷を破壊するほどの威力がある魔法を発動しようとする。
無詠唱で魔法を発動しようとする天使だが…………
「ゼロ、これでいいでしょ?」
「……ああ」
ゼロも驚愕したような表情を浮かべていた。
何故なら、もう終わっていたからだ。ミディの手には心臓らしきの物を持っていたのだ。
「は、え?」
天使もいつの間に、ミディの手に心臓があることに気付き、自分の胸から痛みを感じて、見たら…………
胸に一つの穴があった。つまり…………
「な、なな、わ、私の心臓をぉぉぉぉぉ!?」
天使も肉体を持っている。弱点も人間のと変わらないのだ。
天使の心臓はミディの手に載せられている。
「言った通りだったでしょ? 何もさせなかったわ」
「わ、私は…………」
天使は何も出来ずに、ミディの屋敷にて、命を狩り取られたのだった。
無詠唱で魔法を発動する前に殺すことなんて、思考するよりも速く動いたのと同義だ。
今のゼロにも出来るか、聞かれても、それは不可能だとしか言えない。
天使にも『超速思考』があったのだ。それを思考よりも速く動くなんて不可能だとしか思えない所業だから、何かのスキルだと推測する。
(……どうだ、何かわかったか?)
『……わからない。 何かスキルを使ったと思うけど、解析出来なかった』
(なら、ミディは上位の王者能力かそれ以上のスキルを持っていると考えた方がいいな)
王者能力『零式王』が解析出来ないスキルなんて、『完全隠蔽』を持つか、それ以上のスキルであることだ。
何も解析出来なかったことと見ただけで、自分の能力よりも強いと感じられたことで、自分以上の能力を持っていると考えたのだ。
「……さすがだな。まさか、一瞬で終わらせるとはな」
「うん、天使が弱かっただけだから。で、心臓もいる?」
ミディは何でもないように、天使のことを弱いと断言する。ゼロから見ても、天使の実力はレイとナルカミよりは弱いが、フォネスかマリア辺りの実力はあるように見えた。
さすが、最強魔王と呼ばれているなと、感心したゼロだった。
「……ミディ、俺はいつかお前を越えてやるよ」
「ははっ、楽しみにしているよ〜」
本当に、楽しみだと言うように、笑うミディ。ミディはゼロの成長から何かを感じ取っているのだ。他の魔王と違って、何かがあると…………
無粋な者が現れたが、ミディの手によって終わらせられ、また食事会を再開したのだった…………