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見えない親友
作:あきくん


「ほんとだよ。ぼくには親友がいるんだ」
 息子は訴えるように言う。
「何言ってるの、そんな子はいないじゃないの。馬鹿なことを言わないの」
 母親は諭すように言う。
「ほんとにいるんだよ。どうして信じてくれないの?」
 息子は少し悲しそうに言う。
「また!どうしていつもそんなこと言うの?いいかげんにしなさい。お医者さんだって、いつも信じないようにって言ってるでしょ?」
 母親は悲しそうに言う。
「何でお医者さんなんかにわかるんだ。いるんだよ!」
 息子は声を荒げて言う。
「わかった、もういいわ!お母さんは買い物に行ってくるから、お留守番してて!」
 母親はいら立ちを押さえきれないように出て行った。
 息子は布団に顔を押し付けている。信じてくれない母親が悲しかった。だからといって信じてもらえる方法は母親と親友を会わせるしかないのに、彼はいつも母親がいないときにやってくる。それは不思議に思わないことも無いが、実際そうなのだから仕方が無い。
 息子はただ悲しかった。
 そのとき、息子の心を砕くかのようにインターホンが鳴り、来客を告げた。息子は動こうとしない。誰にも会いたくない。それでもインターホンは鳴り止むことを知らすに、何度も息子の胸に響いている。
 しばらくすると、激しくドアがたたかれる音が鳴り響く。どんどんどんどん、と。打ち付けられるような胸の痛みが広がり、そこで仕方なく起き上がった。ドアに向かうしかなかった。
「だれ?」
「ぼくだよ」
 その声を聞くととたんに胸は軽くなり、息子は素早くドアを開けた。と、そこには親友の姿があった。やはり一人のときにしか親友はこないようだ。
「やっぱり君はいるじゃないか。どうしてお母さんがいるときに来てくれないの?」
「ごめんごめん。いろいろわけがあるんだよ」
 玄関先の話はそこまでにして、親友を招き入れジュースとお菓子を出す。
「ところでさ、ぼくたちが初めて会ったのはいつだっけか?」
 親友が話を切り出した。
「忘れちゃった。ずっと前だよね。それからすぐだよね。ぼくには宝物のペンダントがあって、君には宝物がないって言うから二人で探しに行ったのは」
 首にかかっているペンダントを触る。家の物置で見つけてから、ずっと肌身はなさず付けているのだ。
「うんうん。山に入ったんだけど、宝物になりそうな物はなかなか見つからなくってさ」
「それで暗くなっちゃって、迷って川に落ちたんだよね」
「そこで見つけたのがこの宝物」
 そう言って親友が出したのは、川でけずられて丸くなったガラスの破片である。たいした物ではないが、二人にとっては宝物であって、それ以上の思い出でが詰まっている物でもある。
「月の光できらきら光ってたんだよね」
「それでぼくたちは親友だ」
 そこで二人は、思い出し手を取って笑いあう。それはまるで、息子はそんな楽しいことがいつまでも続くことを信じて疑わないかのように、親友はいずれ来る別れを振り切り今を精一杯楽しむかのように。
「うん、それからはいろいろやったよね。いたずらとかさ。それで今日もさ・・・。あれ?」
 何かおかしいと、息子は自分の記憶を探ることに専念してみる。さっき二人で歩いていたはずで、それから・・・、それから何があったんだ。思い出せない。思い出そうとしても拒むかのように、ついさっきのその記憶が出てこないのだ。
「思い出せないの?でも、思い出さないと駄目だよ」
 親友が何か言っているが、頭に入らないで抜けていく。
「そうだ。ぼくたちは・・・」
 思い出した。
「そうだよ・・・。ぼくはもう行かないと」
 親友は悲しそうに微笑む。
「まって。僕も行くよ」
「だめだよ。・・・そうだこれをあげるよ」
 親友は手を広げ、宝物を差し出した。
「なら僕のもあげる。交換だよ」
 息子はペンダントを渡した。
「ずっと友達だよね?」
 そう言う親友の目を、息子は少し悲しそうに見る。
「もちろんだよ。・・・また会えるよね?」
「うん、また来るよ」
 親友は出て行った。息子は知っている。自分の親友が何処に行ったのかを。
 息子の意識が戻っていく。
 息子は目が覚めた。独特の匂いを持った清潔な白い部屋、清潔なベッド、そして体から出ているコード。ここは病院のベッドだ。
 清潔だが冷たい、自分の存在がわかりすぎるほどわからせようとするそこを、彼は好きではなかった。しばらく何も考えずに白い天井を眺めると、軽く目をつむり、軽く息を吐き出し、そして目を開けた。
 不意に思い出し、左手で首筋を触る。が、あるべきはずの物がない。
「ああっ」
 手が震える。現実が感覚として戻ってきた。
 そのとき部屋のドアが音も無く開き、白衣を着た白髪で色白な真っ白な医者と、血色のいい看護婦と、さっき出て行ったままの派手な服を着た母親が入ってくる。息子はそれを現実のものとして眺める。
「気がついたのっ!」
「・・・もう大丈夫ですね。それではわたしはこれで。何かあったら看護婦の方に言ってください」
 看護婦を一人と、機械的な言葉を残して去っていく真っ白い何も無い医者。病院は嫌なところだ。それを見届けるかのように、白い医者が去った後母親が息子に言い寄る。
「よかった・・・、ああっ。何でかってに出歩いたりするの!」
 泣く母親に息子は右手で触れようと、腕を伸ばし、手を広げる。
 すると手から角の取れたガラスの破片がするりと滑り落ちる。それはきらきらと光りながら毎秒9.8メートルの自由落下運動を続ける。
「あの子は死んじゃったんだね」
 と、落ちていく宝物をスローモーションであるかのように、見つめながら言う。
 宝物は、ぽふっと布団に沈んだ。
「だれのこと?あなたは一人で事故に遭ったのよ」
「ううん。死んじゃったんだ。ぼくのかわりに。もういなくなちゃったんだ。誰も信じてくれないまま、あの子は死んじゃったんだ」
 母親は気がついた。
「まさか、あなたの親友のこと・・・?」
「うん・・・」
「この子を見ていてください!」
 血色のいい看護婦にいい、母親は急ぎ足で出て行く。そしてすぐに医者を連れて戻ってきた。さっきの医者ではない。いつも会っている黒髪の医者だ。
 彼はいろいろ質問をすると、笑顔で言った。
「もう大丈夫なようですね。“彼”は消えたようです」
「ああ、よかった!」
 母親は喜ぶ。だが母親は何もしらない。息子が泣いていることも親友のやさしさも。
 でもそんなには悲しくなかった。
 きっと眠ればいつでも会えるのだから。
 彼はいつでも現れる。
   了


 何年か前、初めて終わりまで書いた小説です。ですからそんな感じが漂っています。ええ、そんなこと自分にもわかっていますとも。ですがあえて直しません。そういうものなのです。
 こんな小説ですが、もし読んでくれた方がいたのなら感謝いたします。感想を頂ければ幸いです。













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