久しぶり。
居るなら居るで、何で連絡をくれなかったんだろう?
まぁ確かに、マンションに来るなと言われて居た訳じゃない。それに、彦根や孜先輩が居ないとも言われていない。
でもさ…宏二が居ないってだけでミンナが部屋に居ないみたいに感じて、俺にはソコへ行く意味がなく思えてたんだ。
だから急に嬉しくなって急いでポケットを探って、既に習慣化してポケットに入れていた宏二のマンションの鍵を確認すると、迷う事なくミンナのトコロに向かった。
ホント、不思議だよなぁ…。
だって宏二が居る→彦根が居る→孜先輩が居るって図式が自然と俺の中で出来上がっているンだもん。
エレベーターを待つ時間すらどこかもどかしく、逸る気持ちを抑えながら何時ものように部屋の鍵を開けて中に入って行く。
するとリビングには思っていたように彦根が立っていた。彦根は俺の姿を認めると、まるで来るのを分かっていたかのようにニヤリと笑う。
「よう」
「へへ…よう」
会うのが久しぶりな所為で、なんだか妙に照れくさい。そして、大体何時もはこのタイミングで孜先輩や宏二が現れるはずなのだが…今日はどちらの姿も見えなかった。
「あれ?今日は二人とも居ないの?」
不思議に思って尋ねれば、彦根は少し困ったような顔をして鼻の頭を人差し指で掻いた。
「ん?あぁ…アノ二人なら居るには居る。ケド、今はちょっとな」
「ナニ?」
「まぁ色々あンだよ」
「ナニ、その色々って?」
俺はなんだか除け者になった気分で、頬を膨らませて彦根に食って掛かった。すると彦根は小さく溜め息を吐いて肩を竦めた。
「守もそのうち分かるって。でも、それは…」
「あっれー?久しぶりぃ〜チビちゃん!元気だったぁ?」
彦根の声を掻き消すように、何時もの能天気な声が聞こえた。
「あ、孜先輩。お久しぶりです」
反射的に返事をしたものの、きっと上の階から降りて来たのだろう…孜先輩からは何時ものコロンと違う消毒液やその他の薬品の臭いがした。
思わず眉間に皺を寄せてしまった。それを横目で苦笑しながら孜先輩は通り過ぎると、彦根の傍にあったスーパーの袋に目をやる。
「あれぇ?彦根、ドコか行ってたのぉ?」
「買出しだ。そろそろ食糧が尽きるからな」
「あぁ!!なるほど!デモ…その顔でスーパーの袋ねぇ?似合わなぁい、ねぇ?チビちゃん?」
「へ?」
「だってさ、コノ仏頂面だよぉ?さぞレジの人は怖かっ…ぶっ!」
「黙れ」
そう言って彦根はソファに無造作に置いてあった紙の束を孜先輩の顔面に容赦なくブチ中てた。
うわぁ〜…痛そ〜。
「誰彼構わず愛想を振り撒くお前と一緒にするな。それに、今日のメシ担当はお前だ。せめて食えるモン作れよ?」
「えぇ!!ウソッ!だって、材料買ったの彦根デショ?僕、何が在るのか分かんないのに作れないよッ!!」
「…まぁ、せいぜい頑張るんだなぁ?」
ニッと意地悪く口角を上げると、彦根はソファへどっかりと腰を下ろしてローテーブルに置いてあった本を取って読み出した。
勿論、座る間際に孜先輩に『飲み物』と一言放ったのは言うまでもない。
「う、うぅ〜…」
困ったように眉間に皺を寄せていた孜先輩が、ハッと顔を上げてこれまた嫌な笑いを浮かべた。ついビクリと肩が震える。
「あ、チビちゃん。今日ってヒマだよね?」
「いや、ヒマってワケじゃ…」
「いやぁ〜そうか、そうか。是非、僕を手伝いたいって?うんうん、いいよー勿論大歓迎!さぁ、キッチンへ行こうかぁ!」
「いや、待て。誰もそんなコトは…」
「大丈夫!僕らはそんな遠慮する仲じゃないだろぉ?さぁ、ナニつくろうかぁ〜」
「オイ、こら!!」
「……逆らう気?」
「………………喜んでお手伝い致します」
さぁレッツゴー!!とテンションを上げる孜先輩に肩をガッチリホールドされたまま、俺はキッチンへ拉致られた。
本来ならココでボケと突っ込みの応酬が、間髪入れずに果てなく続くハズなのだが…妙にお互い反応が鈍い。
何かが変だ。
孜先輩も彦根も変わりなく思える。ケド……もの凄く大きなモノが欠落している。
「どうしたの?チビちゃん?」
「え?いや、別に…」
俺が動揺して目を逸らせば、孜先輩はらしくない酷く優しい顔で微笑むと俺の頬に手を添えた。
「やっぱり宏二のコト、気になる?」
「ばかッ!別にンなんのかんけーねーって!」
「ふぅん?ならイイけど。……そうだ、イイ事を教えてあげる。宏二ってさ、もう直ぐ誕生日なんだよねぇ?」
「え?」
「どうせチビちゃんは知らないだろうから、僕が特別に教えてあげるよ」
そう言って、孜先輩はとても重要な秘密を打ち明ける様に俺の耳へ口を寄せて囁いた。
「八月二十日。宏二の十七回目の誕生日。ね、チビちゃんがさ…祝ってあげてよ?」
「?」
「……宏二にとって、誕生日は僕ら同様…いや…その日はそれ以上に喜べない最悪な日なんだよねぇ。…だから僕らの分もさ、宏二を祝ってあげて?」
「ナンだよ、ソレ」
誕生日と言えば、たくさんの人たちで祝うモンだ。ましてや一番近いお前が放棄してどうする?と、ムッとして孜先輩を見上げれば、困ったような何ともいえない泣き笑いの顔がソコにあった。
「だって、その日は……宏二の…僕らの本当の父親が死んだ日でもあるんだ」
「っ!!」
「あぁでも安心して。別に僕らはあの人に特別な思いを抱いては居ないからさ。でも少なくとも僕にとっては守るべき大切な人を与えてくれた人でも在る。…きっと彦根も、宏二も同じかも知れない。しかし僕らと宏二が違うとしたら、義理でも家族が居るコトかな。……宏二には、ソレがない。僕らには埋めれない何かが、ソコにはあるんだよ」
少し間を置いて孜先輩は言葉を続けた。
「でもさ、チビちゃんになら埋めれるんじゃないかな?僕らに出来ない、特別な方法で」
そう言って、ふっと表情を和らげる。
今、このキッチンに動くモノと言ったら俺と孜先輩と時計と冷蔵庫ぐらい。その所為か、時計の針の動く音や冷蔵庫の稼動音が煩くて堪らない。
宏二の誕生日…初めて知った。
しかも、ソレは悲しむべき日なのか喜ぶべき日なのか…両親が健在な俺には想像も付かない。でも分かるのは、俺にも何かが出来るって事だ。
「フン。孜先輩がナニ考えてるか分かりませんケド、一応は頭に入れておきます」
「あ、なにソレ〜!素直じゃなぁいっ。折角、僕が二人の愛を深める時期を伝授し…うわッ!!」
俺は咄嗟にスーパーの袋から卵のパックを取り出して放り投げた。孜先輩もつい反応してしまったのだろう、慌てて卵を優しく受け止める。
「ナニすんの、チビちゃん!卵、割れたらどーすんのさっ」
「割れたら、今夜のメニューが玉子焼きになるだけです」
「わぁ〜超シンプルぅ!!でもさ、割れなかったよ?」
「なら、目玉焼きに変更。なんなら手間隙掛けた、ゆで卵でもいいですよー」
「……アノ、ソレってオカズ?」
「卵に罪はアリマセン。それをオカズと思うかどうかは食べる人の心しだい」
「言うねー」
とは言え流石に彦根がそれで満足するハズがないので、二人で知恵を絞り…結局は、なんちゃって牛丼の生卵乗せでその場を凌いだ。
彦根クン…せめてお肉などを買って来るならもう少し目的意識をもとーね?などと、俺は密かに心の中で突っ込んだ。
ココではあえて省くけど、彦根が買って来た物のラインナップはどこをどう見たって繋がりが一切ない。寧ろ、家族の手伝いしかしない俺が言うのもナンだが…お前の目には何が映ってたんだ?と思ってしまう。さすが体育会系だ。
そしてその日、俺は結局宏二と会うコトが出来ないまま家路に就いた。
しかし既に食事中から頭の中はもう、宏二へのプレゼントは何がイイかとか、どうすれば悲しい思い出を少しは薄れさせるコトが出来るのかと云うコトで一杯になっていた。
部屋で枕を抱き締めながら、ベッドで天井を仰いで考える。
「…宏二が喜ぶモノって、一体なんだろう?」
分からない。
だって、宏二は俺より沢山のモノを持っている。だからそう簡単に手に入るモノでは意味がないんだ。
もっと色んな意味で、宏二を喜ばせて上げたい。孜先輩も彦根もミンナ…そう、ミンナが楽しめるコトをしたい。
そんなコトを考えながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
ミンナで、みんなで、いっぱい笑い合えるそんな一日に…宏二の誕生日をしたかった。
うーん。既に守は完全に宏二の色に染まってますね(苦笑)
余談ですが、実は他のキャラも誕生日が決まってたりします。そんでもって、宏二・彦根・孜の血液型はA。因みに、守は言わずもがなのO型です(笑)
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