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短編コメディ

拙者、小学五年生でござる

作者: NOMAR

 拙者、藤原 雪丸、小学五年生でござる。父上のあとを継ぎ、立派な忍者となるべく、毎日修行の日々でござる。

 しかし、時代は流れ、今は平成の世。忍者の子だからと父上と山に籠り修行しておると、子供が学校に通うのは義務だと、子供を学校に通わせず、過酷な修行をさせるのは虐待であると、世間や役所が大変うるさいのでござる。


 父上に幼児虐待などの汚名を着せるわけにはいかぬゆえ、拙者、小学校に通うことになったでござる。正直、同年代の童とはうまくやっていける気がしなかったでござるが、拙者が通う5年2組のクラスメートは皆、心が広く心根素直な者ばかり。拙者を快く受け入れてくれたでござる。


 面白半分に拙者の覆面を引っ張るイタズラ小僧もいるでござるが、変わり身や煙り玉などで身をかわす度に、キャーキャーと喜ばれてしまうのでござる。あ、拙者、忍者ゆえに覆面で学校に通っているでござるよ。


 しかし、拙者まだまだ未熟者ゆえ、給食のときは覆面を外すでござる。このときクラスメートが拙者の顔を見ようとじろじろ見るのが、恥ずかしいでござる。


 拙者の通う小学校は制服なのでござる。父上と学校の校長、教師と面談の末、拙者ひとりが忍者服に覆面、ランドセルの登校が許されたでござるよ。体育の授業のみ覆面に体操服になるのでござるが。


 忍者が特殊伝統芸能と認められてから、その後進の育成と言えば、少しは無理が通るのでござる。それに、もともと祖父が国に仕えていた時代もあるでござる。

 祖父殿が、『今の政治家に、我等が仕える主君たる器を持つ者、一人も有らじ』と、独立して以来、祖父殿と父上はフリーランスの密偵、情報屋、探偵、といった仕事をしているでござる。それで、たまに国からの依頼の仕事をしたり、その際に政治家の裏情報も仕入れたりしているので、政治家にもある程度の融通がきく、とのことでござる。


 たまに家族のことをクラスメートに興味津々に聞かれるのでござるが、拙者、よそのご家庭を知らぬゆえ、どのように説明すれば伝わるのか、よくわからないでござる。父上がたまに、分身の術や水わたりの術、新しく開発した忍術などをデジカメで録画して、ユーチューブに出しているので、ユーチューブで見れば、拙者の父上を見れるでござるよ。


 拙者の母上は、かつてはイギリスのMI6という役所に勤める工作員でござる。あ、拙者ハーフでござるよ。

 母上が父上を陥落させるべく『ハニートラップの術』を仕掛けたのでござるが、父上の秘術『ハニートラップ返し、乱れ牡丹散華』で返り討ちにあい、MI6を辞めて父上に嫁いだのでござる。母上の話を聞き、父上にその忍術がどのようなものか聞いたら『もう少し大人になってから、な』と、将来その秘術を伝授してくれる約束をしてくれたでござる。


 母上が言うには、拙者は古典忍者アーツとヨーロピアン最新工作員のサラブレッド、なのだそうで、父上母上の期待に応えられる人物となれるよう精進するのでござる。最近はTOEICも勉強中でござる。


 しかし、忍者として修行した身ゆえになかなかクラスメートと合わせるのが難しいでござる。短距離走、長距離走、走り幅跳び、普通に体育の授業をすると、拙者一人が浮いてしまうのでござる。

 ドッジボールなどすれば、拙者にボールを当てられる者などいるはずも無く、気がついたら『誰が拙者にボールを当てられるか』に変わってたでござる。

 冗談で変わり身の術を使ったら、当てて喜んでいたケンゴ殿が変わり身に気付いて、マジ泣きしたでござる。

 避けるのに失敗したふうを装おってボールに当たると、それを見抜いた鋭いユキコ殿が『手を抜くな!マジメにやって!』とマジギレしたので、拙者、謝ったでござる。


「下手に合わせようとしないで、全力出してよ、みんなは忍者クンの全力全開が見たいんだよ」

 委員長のミツル殿に言われて、拙者、目が覚めたでござる。手を抜いて合わせてあげるなど、それはクラスメートを下に見る思い上がりでござる。慢心でござる。

 以来、拙者、運動会でもボランティアでも常に全力全開するようになったでござる。あ、忍者クンというのは拙者のアダ名でござるよ。


 夏休みのときに、クラスメートのミユキ殿がいなくなったでござる。警察が探しても見つからず、誘拐か失踪かと騒ぎになったでござる。夏休みの登校日にその話を聞き、クラスメートが一人足りない教室に落ち着かない気持ちになったでござる。

 なぜかみんなが拙者に注目するので、できるだけ探してみると答えてしまったでござる。


 拙者、挫折したでござる。丸1日探してミユキ殿の消息が掴めなかったでござる。手掛かりも見つけられなかったでござるよ。これまでの修練も学んだ忍術も、役に立たなくて、拙者、悔しくて悔しくて、泣いたでござる。


 泣いていてもミユキ殿は見つけられない。拙者、父上と母上に協力をお願いしたでござる。仕事の代金は毎月のお小遣いから分割で払うので、ミユキ殿の捜索にご助力を。

 父上と母上は協力する、と言ってくれたものの、あくまでも協力であり捜索は拙者がすること、となったでござる。拙者、5年2組を召集しみんなに協力をお願いしたでござる。


 クラスメート一丸となっての人海戦術での捜索活動。ボランティアに参加していた関係者の川原のゴミ拾いをしていた者の目撃証言などの聞き込み。クラスメートのコースケ殿の父上が警察関係者なので、父上から聞いた警察署内部の汚職をちらつかせて、捜査資料のコピーをちょうだいし。コンピューターに強いミツル殿には、母上から伝授された、監視カメラのハッキング法で情報を集めて頂く。

 拙者ひとりではどうにもならなかったことが、みんなの力で三日でミユキ殿を発見することができたのでござる。


 ミユキ殿を誘拐した男の居場所が分かり、みんなで乗り込むという5年2組のクラスメートをなだめ、拙者と父上の二人で潜入することにしたでござる。どんな危険があるかわからないので。


 男がひとりで暮らしている一軒屋にミユキ殿は囚われている。拙者と父上は夜中、二階の窓から侵入したでござる。

 ここから先はあまり詳しく書きたくないでござる。世の中には変態のロリコンというものがいて、ミユキ殿は可愛い女の子なのでござる。

 拙者、怒り心頭のあまりその男を蹴り殺しそうになって父上に止められたでござる。ミユキ殿はうつろな目で天井を見ていたでござる。

 事件がおおごととなればミユキ殿とご家族も好奇の目に晒される、父上、どうすれば良いのでしょうか?父上はまかせろ、と一言。変態男を肩に担ぎ、外に出て証拠隠滅のために一軒屋に火をつけたでござる。


 変態男は父上と母上の手で海外に送られたでござる。二度と日本には帰れないようになっているらしいでござる。


 問題はミユキ殿でござる。誘拐犯から助け出したものの、ショックが大きく、食事もとらず夜中に叫んだり暴れたりするとのこと。

 ミユキ殿とご両親を我が家に呼び、父上がミユキ殿のご両親と話をする。なんとかする方法がある、とのこと。

「この丸薬は一族秘伝のもの、一時的に記憶を思い出さぬようにできる。ただし、忘却させる薬ではない。強い衝撃を伴う記憶を完全に忘れることはできない。ひととき思い出せないようにするだけだ。何年後か十年後か、いつか辛い過去を思い出したときに、それに潰されぬように、心を鍛える必要がある」

 これを理解した上で、薬を使うかどうか、ご両親にたずねる。ミユキ殿のご両親は顔を見合せうなずくと、

「お願いします」

 と、頭を下げた。父上はその丸薬を二人に渡そうとして、途中で手を引いて、拙者に渡した。

「お前が飲ませてやりなさい」


 ミユキ殿のご両親に了解をとり、拙者は別室で待っているミユキ殿のところに行ったのでござる。そこでは母上がミユキ殿と一緒にいたのでござるが、拙者が部屋に入ると、母上は拙者の頭を撫でて、出ていってしまったでござる。


 ミユキ殿に丸薬の説明をし、薬を飲むことを促すと、ミユキ殿は首を振って嫌がった、何故でござるか?

「だって、忍者クンに助けられたこと、忘れたくない」

 そんなこと言ってもこのままでは身体が弱るばかりでござる。それに忘れるわけではござらん。何年後か十何年後かに思い出すのでござるよ。渋るミユキ殿を説得したでござるが、

「じゃあ、忍者クンが、ちゅーしてくれたら薬飲む」

 ちゅー?接吻でござるか、ダメでござる。接吻は結婚の約束、恋人同士の愛の証でござるゆえ、

「変なおじさんに身体中舐められて、何度もちゅーされた女と、ちゅーするのはイヤ?」

 そういうことでは無いでござる。あぁミユキ殿、泣かないでくだされ、どうか泣き止んで欲しいでござる。

 わかった。わかったでござる。ちゅーするでござるよ。

 

 覆面に指をかけてずり下ろし、ミユキ殿に顔を近づける。ゆっくりと唇を触れ合わせる。静けさの中で、拙者とミユキ殿の鼓動だけが聞こえたでござる。顔を離すと、

「忍者クンと、ちゅーしちゃった」

 両手で唇をおさえたミユキ殿が、顔を赤くしていたでござる。拙者も頬が熱くなったので慌てて覆面をつけなおしたでござる。

 

 ミユキ殿に丸薬を飲ませて、水を飲ませたのち、ミユキ殿が眠るまで側にいたでござる。丸薬に眠くなる成分が入っているのでござる。眠りに落ちる前に

「ぜったいに、忘れないから」

 と、ミユキ殿が口にしたでござる。


 こうして誘拐事件は解決したのでござるが、夏休みの自由研究として、5年2組合同で提出した『誘拐犯の見つけかた』は先生に誉められたものの、

「ミユキさんに、誘拐のことを忘れてもらうためにも、この自由研究は、無かったことにしてほしいの、みんなもミユキさんに事件の話をしないようにしてほしいの」

 担任の先生にこう言われては仕方ないので、この自由研究ノートは封印されることになったでござる。

 

 5年2組のみんなでミユキ殿を見つけたが、誘拐犯は行方不明、ということになっているのでござる。


 その後、ミユキ殿のご両親から、ミユキ殿を鍛えて欲しいとお願いされたでござる。なんでも、身体を鍛えるスポーツクラブや格闘技の教室はあっても、心を鍛える習い事など無いので、なんとかならないかということで、父上のもとで忍者の修行をさせて欲しい、とのこと。


 父上は了承したものの、5年2組のみんなが全員反対。何故でござるか?

「忍者クンはみんなのもの!独り占め禁止!」

 二人っきりで修行とかズルイとか言われたでござる。なんでも忍者クンはクラスのマスコットで独り占めはダメなのだそうで。拙者、知らないうちに5年2組のゆるキャラ的存在になってたようでござる。


 仕方無いので5年2組全員で『忍者部』を作り父上が顧問になったのでござる。みんなサッカー部とか、バスケット部とかはどーするのでござるか?

「忍者の修行してから、部活は中学から活躍する」「将来、いろいろ役に立ちそう」「俺だって忍者なりたいよ」

 父上?

「忍者も特殊伝統芸能で、重要無形文化財だからな、こうして伝えてゆくのもいいだろう」

 こうして5年2組忍者部ができたのでござる。


 拙者がこれを書いたのは、未来の拙者がこのときの気持ちを、もしも忘れていたなら、思い出して欲しいからでござる。拙者ひとりでは無理だったことも、5年2組忍者部で解決できなかったことは、無いのでござる。

 独りよがりとならず、初心忘れず、理想の忍者になってほしいのでござる。

 未来の拙者はどんな忍者になっているでござるか?



「いやぁ、子供のころに書いたものが読まれるのは、気恥ずかしいでござるな」

 かつての小学校が廃校になると聞き、みんなでタイムカプセルを掘り出しに来たのでござる。タイムカプセルの中は、過去の5年2組のみんなが未来の自分に書いた手紙と、夏休みの自由研究ノートが入っていたでござる。

「しかし、拙者もあの頃に比べて、ずいぶんと成長したものでござる」

「いや、頭領はガタイは大きくなったけど、中身はあんまり変わってないぞ?」

「へ~、頭領って初ちゅーは5年生なんだ、相手はミユキなんだ、へ~」

「ショウコ殿?視線が冷たいでござるよ?」


 見ればミユキ殿が、女性陣に囲まれているでござる。

「抜け駆け禁止!とか言ってたひとがいちばん先になにやってんのよ!」

「薬のせいで思い出せなかったから仕方無いでしょ?ノーカンノーカン!」


 あのときの5年2組忍者部は、今も続いてるでござる。拙者はボランティアのような団体のつもりでいるのでござるが最近は、第三国に流出した化学兵器を秘密裏に回収してくれ、とか、テロリストに占拠された原子力発電所をどうにかしてくれ、とか、なにかと忙しいでござる。たいしたこともしてないのに、『秘密結社5年2組』とか『レジェンドヤクザ5年2組』とか呼ばれるでござる。ヤクザじゃ無くて忍者でござる。


「さて、タイムカプセルも回収したので、次に行くでござるよ」

「なんだっけ?核兵器搭載した人工知能戦車が暴走してるんだっけ?」

「前にもそんなん、なかったっけ?」

「ホント、あの国は制御できないもの作るの好きなのなー」

「挙げ句、他所に頼るとか」

「前金の入金確認したよー」

「おっ、では頭領、どーぞー」

「うむ、5年2組、出動でござる!!」

「「「おーっ!!」」」



                   終

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