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 このお題も美味しい噺2に出ていたものです。遠子先輩がピョンピョン跳ねて球技大会の練習をしている、という事で、春の終わりくらいかなぁ?なんて思いますけど…。
 お話としては、ラフレシアのお話の、その裏側(?)を彼女の視点で書いたものです。って言うと、何だか偉そうですね。彼女は、彼にただ会いに来たんじゃなかったんです。彼女、芯をしっかり持ってるけど、彼の気持ちだけは怖い。好きだから、本当に好きだから、彼の気持ちに直接触れられない時間が重なれば重なるほど怖くなっていく。 そんな時に、ある事を知ってしまう。 そして彼女は…。
 最初、彼女は、実は社長の娘で、なんて設定も考えていたですが、そんな設定等必要ないほどに強力なキャラでした。それでも、そんな強力な力を発揮するのは、自分のためじゃなくて、彼のためだからこそ。そう言う力は、人のために使う方が、強くて素晴らしい事なんだ。そう彼に教わったから。
 それにしても、ラストはちょっとぶれちゃったかなぁ…。なんかちょっと半端なラストかなぁ、と思っています。けど、まずは、このラストで…。
窮鼠、血柱、阿鼻叫喚
 私は彼がハメられたとしか考えられなかった。
 彼だって、その仕事が普通じゃないって事は感じていた様だけど、でも、真っ直ぐな彼は、社長の言う事を信じて、その命令に従った。
 彼から来る手紙では、苦労しながらも、本当に真っ直ぐに、言われた目標を目指して頑張っている様子が感じられた。 とても元気そうで、手紙の内容はとても明るいものだった。
 それは無理をしているからなのだろうか? きっとそうなんだろう。
 けど、それでも、一緒にいる事が出来ない不安は時間と共に膨れていた。

 そんな時、秘書課の同期の子から聞かされた。
「あのラフレシア捜索はね、彼をあなたから遠ざける為の陰謀なのよ。 社長はどうも信じちゃってるけど、どうやら、でっち上げたみたいよ?」
 その先は聞くまでも無いような落ちだった。 でっち上げたのは、どうやら彼の上司らしい、その上司もやり手で、若くして昇進した人間。最近の彼の活躍を、それを社長が評価している事を知って、彼に嫉妬したらしい。
 それに加えて、どうやら私が欲しいらしい。
 それで、最近、そいつから色々なお誘いの声がかかる様になった理由も分かった。彼が捜索に行ってしまってから約一ヶ月、確かに彼が居ない寂しさを切実に感じてる。 でも、だからって、私が彼から離れると思った? きっと、私と言う人間を知らないんだ。
 私は普段、猫をかぶってるから…。 私のきつい性格を知っていて、それでも私のとなりにいる事を選んだのは彼だけだ。
 窮鼠猫を咬むって言うけど、私はただの鼠なんかじゃない。私の一咬みで血柱に変えてあげる。 普段、そんな私を止めるのは彼なんだけど、その彼が居ない今、怒り狂った私が何をするのか、それは私自身もはっきりとは分からないんだから。
 私なんかを欲しがるんじゃなかった、絶対にそう後悔させてやる。阿鼻叫喚の地獄の方が良かった。そう感じるくらいの目にあわせてやる。

 それから私は、彼を取り戻すための証拠集めを始めた。

 でも、それは思ったより、そしてバカバカしいくらいに簡単だった。性懲りも泣く、あの馬鹿上司が私にせまって来たから。 だから、すごーく我慢して、ちょっとだけいい顔をしてあげた。 一緒に飲みに行って、彼に触れられる部分に鳥肌が立つのを、虫酸が走る思いを必死に抑えて、彼の陰謀を聞き出した。
 私が引きつった笑顔を浮かべているのも気が付かずに、その馬鹿は、ぺらぺらと一部始終を、しかも得意そうに全てを話した。 私がレコーダを持っている事も知らずに。

 彼を取り戻すための証拠はあっけないほど簡単に揃った。
 でも、私は一つだけ怖かった。
 それは彼の気持ちだった。彼と付き合う様になって、彼がこんな私を受け入れてくれてから、彼の気持ちが私から離れてしまう事だけが私の恐怖だった。 やっと見つけた人だと思っていた。 絶対に失いたくなかった。
 でも、彼の気持ちを、一ヶ月も会いもせずに繋ぎ止めている、その自信がなかった。
 だから、いざ、彼を取り戻せる、その準備が出来たところで、私は怖くなってしまった。彼の気持ちを知る勇気を失ってしまった。

 けど、社長に会って、手に入れた証拠を突きつけた時、怯えた様に座り込んでしまった私を見て、社長は優しく言ってくれた。
「すまなかったね。 でも、彼を見くびったらダメだよ。 わしは彼のひた向きさ、真っ直ぐさ、をとてもよく知っているつもりだ。 きっと、彼は君の写真を握り締めて、今の苦境の中を必死に頑張っているに違いない、そう思う」
 だから私は、勇気を持って、彼を迎えに行く事にした。 それでも、怖かったので、探りを入れるような手紙を用意した。
 手紙を出して、その後を追う様に、南の国へと向かった。


 彼の居るホテルに到着したのは朝。
 どきどきしたけれど、フロントには婚約者だと偽って部屋の鍵を借りた。

 彼の部屋に入ってまず驚いたのは、その酒臭さだった。
 どうやら、私の手紙はちょうど前夜に到着した様だった。彼は私の写真を握り締めて、布団の中で苦しそうにしていた。
 彼の気持ちを疑った自分を恥ずかしく感じたけれど、だからこそ、余計に照れてしまい、かなり乱暴に彼を叩き起こした。
 混乱する彼に、もう一枚の手紙を渡した。
 彼の表情が次第に、困惑から喜びに変わっていくのを見るのは嬉しかった。
「もう…。 こんなに心配させて! こんなに無理して!」
 緊張が解けた私は、泣きながら訴え始めた。
「もう、許さないから!」
「ごめんよ…。 でも…」
「でもじゃない! もう、プロポーズしてくれなきゃ許さないから!」
 真っ赤になりながら、そう訴えた。

 プロポーズする彼は酒臭くて、答える私はボロ泣きだった。
 でも、二人とも笑顔だった。


 そして馬鹿上司は、その後半年間、南のジャングルを彷徨う事になった。
 それが私のささやかな復讐だった。


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