このお題は、私がでっち上げました。『慟哭の巡礼者』で図書室の裏手で心葉君が即興で作ったほのぼのとしてお話、という事でした。あらすじとして、仲良しの男の子が夏休みに冒険する。だったので、このお題としました。何だか、妙なお話になってしまった気もしますが、ちょっとは冒険で、でも、ほのぼの、かなぁ…。それでも、勇気を持った頼もしい男の子、ガンバレ男の子!って感じで書いて見ました。
仲良し、夏休み、冒険
それはまだ、僕が小学生だった頃の事。
一学期の終業式、みんな翌日からの夏休みの事で頭の中がいっぱいだった。
夏休みへの漠然とした期待と、これまでの何年かの経験から、そんなに楽しい事なんか期待は出来ない、そんな諦めがブレンドされた、不思議な感覚に満ちていた。
仲良しの友達との別れ際
「なーーんか、面白い事、ないかなあ…」
彼はそう言ったけど、二人とも当てなんかなかった。
その時僕は、まだその夏休みが、特別なものになる事を知らなかった。
何日か経ち、僕が宿題をやりながら、時折「なんか、面白い事ないかなぁ」そう呟いていた時の事だった。 その友達から連絡が来て、近くの山を探検しないか? そう誘われた。何を今さら、そうも思ったけれど、次に彼が言った言葉を聞き、彼と探検する事にした。
翌日、僕と彼はお母さんの作ってくれたお弁当を持って、探検に出かけた。
山、と言っても、町のはずれまでバスで行って、そこからは子供でもお昼には頂上に着いてしまえる様な、そんな小さな山だった。 でも、その日の僕たちの目的は、そんなちょろい散歩じゃなかった。もっとすごい冒険を求めて、期待に胸を膨らませて来たのだった。
そう、あの山の、登山道からちょっと外れた所に池がある、その池の近くに魔法遣いが住んでいるらしい。そして、うまくすれば魔法を教えてもらえる。
そんな根拠のない噂を聞いて出かける事にしたのだった。如何にも小学生だった。
まず、池まで行き、その周辺を二人で歩き回った。 池の周囲は林になっていて、あまり深く入り込むと迷いそうな所だった。けど、その日はそんな事は全く気にしなかった。友達と二人で、魔法遣いを探して歩き回った。
僕らは、大分調子に乗っていた。そしてちょっと注意が足りなかったと思う。林の木々の向こうに何かを見た様に感じた僕たちは、不注意にも先の見えない場所で思い切り走り、結果として絶壁から落ちそうになった。
かろうじて、僕が近くの枝を掴み、反対の手で彼の手を握って支えている状態だった。
彼はどこかを打ったのか動かなかった。それでも、握り締める彼の手の温もりが、彼は生きている、その事を伝えてくれていた。
とにかく、僕はその状態を保つのが精一杯で、彼を引き上げる事は出来なかった。
「誰か! たすけてー!」
いくら叫んでも、誰も来る気配はなかった。
何も出来ずに時間が経ち、日が傾き始めた。僕はまだ、かろうじて耐えていた。
けど、もう限界だと感じていた。
その時、耳元で、突然ささやきが聞こえた。
「その手を離せば、君は助かるのに」
その声は冷たく、僕が心の片隅で考えていた事を指摘した。
ぎくり、としながら、それでも、僕は叫び返した。
「そんなのダメだ!」
「ふーん」
興味なさそうな反応だった。
「それより、助けてよ!」
周囲を見る余裕はなかったけれど、近くにいるはずのその声の主に訴えた。けど反応は
「じゃ、手を離しなさい」
「いやだ」
そう言った時だった…、汗で手が滑り、彼の手が抜け落ちた。耳元で、あの声が「ほら」そうささやくのが聞こえた。
その瞬間、僕は何も考えていなかった。
枝を握っていた手を離し、彼を追って飛び込むように手を伸ばし、彼の手を再び掴んだ。けど、結果として、僕は彼と一緒に落ちていた。
もう、ダメなのか…、そう思った時だった。あの声が聞こえた。
「バカね」
「でも、嫌いじゃないわ」
何か暖かいものを感じたけれど、次の瞬間、僕は気を失った。
意識が戻ったとき、僕は登山道の上り口の脇の草むらで倒れていた。僕を起こしたのは一緒にいた仲良しの彼だった。
彼は何も覚えていなかった、池に行った事すら忘れていた。
もう暗くなっていたので、僕たちはそのまま家に帰った。
自分の部屋で、呆然と昼間の事を思い返した。
夢だったのだろうか? でも、僕の手には、彼を支えた時にもう一方の手で握った枝で引っかいた傷があった。 それに、あの声は僕の耳に残っていた。
「夢じゃない」そう確信した。
その夏休み、何度かその池に行ったけど、もう何も起きなかった。
けど、その事を、僕は決して忘れる事はなかった。
あれから何年かが経った。僕は一人でその山に行った。 今、僕はもう成人していたけど、あの日の事はずっと僕の中にあった。
池まで行ってみると、岸辺にたたずむ女性がいた。
初めて見る女性だったけど、なぜか懐かしい気がして、じっと見つめてしまった。
その内、その女性が僕に気が付き、躊躇いもなく歩み寄ってきた。 その第一声は
「あなた、私が見えるの?」
その声は、聞き覚えがある声だった。
何かに気が付き、彼女はクスリと笑うと、言った。
「お久しぶりね?」
そして僕は、魔法遣いの弟子になった。
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