このお題は、心葉くんが、遠子から出された最初のお題です。「書かないと、呪っちゃうぞ」そんな風に言われて、しぶしぶ書いたはず。物語の中では、どんなお話しを書いたのか、それは記されていませんでした。なので、特に何も考えずに、それでも、読み返してみると、なんだか、ちょっと引っ張られてるなぁ、と感じるものになっている様です。
とにかく、私の三題噺の第一作目、でもあります。 それでは、よろしくお願いいたします。
雲、抹茶サブレ、アリンココロリン
優しい日差しの穏やかな日だった。
気分が良くなって、学校帰りにいつもの公園によると、公園の中を見渡した。いや、少しの期待を込めて人を探した。
「いた…」
僕は見つけた女性に向かって走り出した。 彼女に近づくにつれて、僕の頬は上気して顔全体が熱を持っていくような感じがしていた。
僕はなんで彼女に向かって走りよっているんだろう?
その理由は自分でもよく分からなくて、とらえどころも分からない自分の気持ちが、雲をつかむような感じでもどかしかった。
それでも、僕は彼女のそばに行きたかった。
彼女はそんな僕のことに気がつく様子はまるでなく、砂山に向かって何かしていた。よく見ると、彼女は砂山に登るアリを指ではじいて転げ落としていた。
「アリンココロリン…」
そう言いながらアリをはじく、アリは少し転げ落ちるだけでまた砂山を登り始める。 そうして、また「コロリン」とはじかれる。
アリも止めればいいのに、こりもせずに何度も、何度も砂山の頂上を目指す。
砂山の頂上には抹茶サブレが置かれている様だった。アリはそれが欲しいのだろうか?
はじかれても、はじかれても、抹茶サブレを目指すアリに、なぜか自分自身のことを重ねてしまった。何の関係も無いはずなのに、どうしてだろう。
「がんばれアリンコ」
思わず、そう応援する。 その声が聞こえたのか、彼女が振り返る。
自分のやっていた事のあまりの子供っぽさが恥ずかしかったのか、少し頬を赤くしながら、まっすぐな瞳で僕を見つめてきた。
「べ…、べつに、いじめてる訳じゃないのよ? ただ、遊んであげていたのよ」
そういい、スカートのすそを払いながら立ち上がり、僕を見上げて言い訳する。
彼女はいたずらを見つかった子供のように焦り、戸惑い、そして照れてるようだった。
なので、僕は多少落ち着いて応じる事ができた。
「へぇ? アリンコとしては、十分にいじめられてたんじゃないのかな?」
「そ、そんなことないもん。 おいしい抹茶サブレにありつく為には試練が必要なのよ。何事も努力と忍耐よ。 それに、あの抹茶サブレをあげたのはそもそも私なんだもの、感謝されても怨まれる様なことはないわ?」
アリにとって、そんな難しい事はわからないんじゃないだろうか? けれども、そんな事をいちいち気にするのもばかばかしいと思った。
「そういう事にしておこうか」
これ以上ここにいるとじゃれてしまいそうだし、やはり面と向かって話していると自分の鼓動が跳ね上がり、何故かとんでもない事を言ってしまいそうで、突然怖くなった。
「じゃまたね、僕は帰るよ」
なので、懸命に平静を装ってそれだけ言うと、名残惜しいけれど、帰る事にした。
「あ。待ってよ。 私も帰るわ」
その声に彼女を振り返った時、彼女の頬も僕の頬と同じくらいに染まり、その目にはすがる様な光が宿っている様に感じた。
先に歩き出した僕に彼女が追いつき、並んで歩き始める。
となりに彼女がいる事を意識すると、僕の頬はさらに赤く染まるように感じた。ちらりと盗み見た彼女の頬が、さきほどより赤く感じるのは気のせいだろうか…?
二人で他愛も無い事を話しながら、公園を出て歩いていく。
「がんばれアリンコ」
僕の隣で彼女がそう言った。
僕の心でも、初夏の空でも、雲の間から差す柔らかな日差しが感じられ、僕は思わず笑顔を浮かべた。
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