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なんとなく気持ち悪い話を書いてみました。気持ち悪いのが苦手な方はご遠慮ください。
メゾン・ド・バビロン
作:森本エリ



 豪華な高層住居用建設物が空前の大ブームとなり、ある建設会社は、地上千メートルのビルディングを造り上げた。
 その最上階である1305号室には十四歳の少年が、一人で住んでいる。
 彼は気圧と酸素を調節する装置と、最上階までを快適に、たった三十秒で昇るエレベータを作った天才少年だったのだ。
 しかし、その明晰な頭脳が災いし、彼は気が狂ってしまった。
 訳の分からないことを延々呟き続け、天使になることを夢見て、食事を摂らなくなった。
酷く痩せこけ、身体は骨と皮になり、一切外に出ないので、膚は青白く、誰もが目を背けた。
 建設会社の社長である彼の父親は、彼を幽閉する為にこの最上階に彼を住まわせたのだ。
 彼を仮に少年Bとする。少年Bは、幽閉されたなど思いもしていなかった。天使になるために地上で一番、天国に近い所を与えられたと信じていたのだ。
 少年Bは、壁一面水槽がはめ込まれた部屋のフローリングで、横たわっていた。
 美しい色彩の熱帯魚たちが、部屋の壁中をゆたりと泳いでいる。少年Bはその様を恍惚として眺めている。横たわった彼の頭上には真鍮で作られた燭台がある。
 それぞれ背丈の違う赤い蝋燭が四本、ゆらゆら炎を揺らせながら、少年Bを照らしていた。

 彼自身この部屋に両親すら入れたがらなかったが、一人だけ、この部屋に自由に行き来できる者がいた。
 彼の二卵性双生児の姉である。
 彼女を少女Aとする。少女Aは、少年Bと、とてもよく似ている。
 もし、彼が骨と皮でなければ、誰もが振り向く美しい少年だった。
 少年Bは一歳の頃から、過酷な英才教育を受けて育てられたのだが、少女Aは、溺愛されて育った。
 父親は、女は美しくあればいいと思っていた。実際に彼の妻で、少年Bと少女Aの母親は、一度見たら忘れられない程の絶世の美女だったが、病弱で二人を産んだ後、産後の肥立ちが悪く他界してしまった。

「B、こんにちは」
 少女Aは背中まである緑をひそめた黒髪を揺らして微笑んだ。
両手には六羽の死んだ烏と数珠繋ぎにされた四匹の黒猫の首。

 少年Bは、乾いた唇を微かに震わせたが、声はなかった。
天使になると決めてから、一月。少女Aが与えてくれる“聖水”しか口にしていない。
 少年Bは天使になると思っている。
 そして、少女Aは、悪魔に。

 少女Aは、黒いノースリーブワンピースの裾をたくしあげ、少年Bの顔面にしゃがみ込んだ。
「ねぇ、B。もうすぐだと思うの」
少女Aは柔らかな微笑みを浮かべたまま、“聖水”を少年Bの口を目掛け放出した。
 微かな呼吸を奪われた、少年Bは、すでに飛び出しそうになった眼をさらに剥いて噎せた。
「アタシ、今日で六百六十六羽目の烏の羽根を手に入れたし、漆黒子猫の首輪も出来上がる。そしてなにより……」
少女Aは、淡々と喋り続け、真紅の唇に浮かんだ笑みを強めた。
 少年Bは口を開けたまま白目を剥いていた。
「天使である弟を殺しちゃうんだもん」

 少女Aは、少年Bの亡骸から離れるともう一つの部屋にステップを踏みながら向かう。
赤い唇に黒い言の葉をのせ、一面漆黒に塗られた部屋に。

 少女Aは烏の羽根を毟り、樫の木の骨組みにはりつけていく。

「一生懸命作ったの。だからお願い。アタシを悪魔にしてください」

 赤い月が出る頃。少女Aの羽根が完成した。
 彼女は床に座り込み、寝そべると羽根が肩甲骨の辺りにつくような位置を計算した。羽根と背中がつく部分には特殊な針がついていて、接触した弾みに針先が開いて肉に抉り込み外れないという仕掛けになっている。
 覚醒効果を持つ特別なインセンスを薫き染め、辺りが紫に染まる。
「ママ、魔界にいるならアタシが来てあげる。天界なら、Bが逝ったからね。待っててね……ママ」
 少女Aは、仰向けに身体を倒し、痛みの余りにヒステリックな悲鳴をあげた。
 痛覚が、インセンスの効果で和らいでいく。
 唾液まみれの唇が、再び笑みを取り戻す。

「飛んで逝かなくちゃ……、ママの処まで……」少女Aは、子猫の首輪を自らの首に掲げ、はめごろしの窓に向かった。
「あの子に……羽根は……生えたのかしら……」
 少女Aは、白目を剥いたままフローリングに転がった弟の処に駆け寄った。
 黒い羽根の重みで肉が引っ張られ、血が垂れ流れる。
 すっかり軽くなった弟を抱き起こしてうつぶせにさせる。
 背中には酷く出っ張った脊髄と肩甲骨があるだけだった。
「どうしチゃっタの?B……」
 少女Aは戸惑いながら、弟の残骸に覆いかぶさる。
「早く天使にならなくちゃ……ママがどっちにいるか分からないじゃない……」
少女Aは何度も弟に呼び掛けるが、青白い骸は答えない。
「……わかったわ……Bは朝日を待っているのね」
少女Aは満面の笑みを浮かべ、はめごろしの窓を目指す。
くすくすと小鳥の囀りのような笑い声から、だんだん狂気じみた嬌声へと変わる。
硝子が粉砕する。
黒い羽根を持った少女が破片を従え宙へ飛んだ。



『メゾン・ド・バビロン』の敷地の中央にある噴水のオブジェが破壊され、その上に肉の爛れた小柄の塊があった。噴水の辺りは一面漆黒の羽根が散らばっていたという。

 得体の知れない不吉な出来事に恐怖した住民達は相次いで退去。
 その後入居者もないまま月日だけが過ぎ、『メゾン・ド・バビロン』は廃墟となった。話題性のみで作られたものの、壊すことは考えられていなかったのだ。
 建設会社は、莫大な金を注ぎ込んで国を丸め込み、マスコミを黙らせ、高層住居用建設物をシンボルタワーと認めさせた。
『ママ……コッチ……』
バビロン・タワーの最上階に、黒い羽を持つ少女と赤い満月が差し掛かる。
はめごろしの破られた窓から、満月が部屋の様子を伺った。

 酷く痩せこけた十四歳の少年が俯せのまま腰を浮かせた。
肩甲骨の辺りから皮膚がれはじめる。
『目覚メヨ……愛シキ……、愛シ……我ガ子ヨ』
 満月はクルリと回転し、面一杯の美しい女の顔を見せた。
 少年の破れた場所から、酸化しきった血の様な赤黒い羽根が生える。
ムクリと身体を起こし、少年は月に向かう。
『よく寝たなぁ……』

 雨雲のカーペットに降り立つ異形の天使と、美しい女の顔をした赤い満月の姿を見れたものは、もちろん誰もいない。


へんなの、書いたなぁ。













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