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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

こけし

作者:因幡雄介
 栗原は白シャツを着て、赤いネクタイをしめ、黒いコートを羽織っていた。
「サンタクロースって死に神みたいね」
 ラブホテルの白いベッドのなかで、不倫相手の明美がしゃべった。勤務する会社の事務員で、年は十個下だった。自分が四十八なのだから、三十八歳か。サンタクロースからプレゼントがもらえるんだよと、言われるよりかは大人の会話だ。
「どうして?」
「だって赤い服着てるんだよ? 血みたいじゃん」
 怖い発想をする女だ。
 スマートフォンから高揚のない音楽が聞こえてきた。画面を開くと、妻の佳枝からメールが入っている。開いてみてふき出してしまった。
「なんて書いてあるの?」
 妻からのメールだと、明美は着信音で気づいている。
「《プレゼント用意した》だってさ」
 かわいいメールだ。佳枝は三つ下だから四十五歳か。こんな文章をよこすとは思わなかった。
「子供ができたんじゃない?」
 明美が嫌み気に言ってくる。
 不妊治療を行っても、子宝にはめぐまれなかった。科学でさえ破れてしまったのだ。明美も年増の女に子供ができるとは思ってないだろう。
「無理だよ。じゃ、帰るから」
 茶色の扉を開けてさっさと帰る。一緒にラブホテルには入らないし、出ない。誰かに見つかるとまずいし、ホテル側もそれを承知で部屋を貸している。
 外に出ると、ふぶいていた。白い雪の量が多い。若者たちはホワイトクリスマスと言って、ラブホではげんでいることだろう。
 電車に飛び乗り、自宅近くの駅で降りる。人工で作られた道の上に、自然の雪が積もっていた。車で帰った同僚に同情する。
 いつも通りすぎるコンビニで、サンタクロースの格好をした中年男がケーキを売っていた。手軽に買えるため繁盛しているのか、残りは二個しかない。妻へのプレゼントとして、一個買って帰ることにした。
 お金を払っていると最後のケーキを、五歳ぐらいの女の子が取り、「やったー。パパー。ケーキ取ったよ!」と喜んでいる。白いウサギの耳がついたファー帽。ピンクのコートが年にマッチしていて愛くるしい。どうしてこんな子を神様はくれなかったのか。
「メリークリスマス!」
 お金を受け取った店員が、満面の笑顔で言ってくる。
「あっああ、メリークリスマス」まじめに返してしまった。恥ずかしくなりそそくさとその場を離れた。女の子の父親が、「メリークリスマス!」と陽気に返しているのが聞こえてくる。
 階段を上って、賃貸マンションにある自宅の玄関の扉に鍵を差し込む。
「うん?」
 開いてる。物騒だから閉めているはずなのに。焦げ茶色のドアを開けると、部屋の電気が消えていた。
「おーい。帰ったぞ」
 なかに入って呼んでも、妻は出てこない。
 ――驚かせようとしているのか?
 いたずら好きの妻がやりそうなことだ。
 台所に向かうと、食事をするテーブルに箱が一つ置いてあった。二階の窓から人工の明かりが見える。停電ではないようだ。
 箱は四角。色は真っ白。赤いリボンが丁寧にまきついている。
 何が入っているんだろう?
 先に見てやろうと思い、黒のかばんとケーキの入った箱を床に置く。手をのばしてリボンをといた。さらっと広がり、静かに机の表面に落ちる。柔らかい箱を開けると、異様な臭いが部屋に漂った。
「これは」
 赤いこけしだ。球のような頭部と円柱の胴体。木製のようだが、赤く塗られている。表情はなく、真っ赤だった。
 こけしの周りには、赤黒い生肉があった。さわってみると、ねちょっとしていて、指先程度の小さな丸いものがテーブルに転げ落ちた。真っ黒だった。
「明美さんとのクリスマスは終わった?」
 後ろに妻がいた。
 振り向けない。不倫がバレている。喉が熱くなり渇いていく。
「こけしってね。子供を消すと書いて、《子消し》とも読むの」
 妻のうなるような言葉に、ゾクリとしたものが背筋をはった。
「佳枝……」
 妻のほうを向いて絶句した。両足の間から赤いものが垂れ流されている。白いネグリジェが紅色に染まり、フローリングの床に赤い滴を落としていた。股間から出た赤黒い糸のようなものが床をひきずっている。
「メリークリスマス。あなた」
 妻は狂ったように笑い出す。
「ああ、あああああっ。ああああああああああああああっ!」
 胸をかきむしっていた。
 妻の笑い声が頭の脳みそをかき回す。妄想していた子供との時間を、鋭いガラスの破片で傷つけ壊していく。机の上で、祈るように両手を差し出すと、涙を流しながら夢中でわが子を食べていた。歯に柔らかい肉の感触としょっぱい味がした。
 妻は飽きてきたのか、リモコンを持ってテレビをつける。
『メリークリスマス! 良い子にサンタさんからのプレゼントだよ!』
 白ひげの血のような赤い服を着た男が、両手を左右に振って笑っていた。



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