挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したけど、王子(婚約者)は諦めようと思う 作者:鬼頭鬼灯

その後

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/21

王太子のお嫁さん。~ときどきお兄ちゃんと妹~1

ここからは、完結後の、のんびりしたお話になります。
一迅社文庫アイリスNEOさんから出版していただいた、同タイトルの書籍(PN:鬼頭香月)とは異なる物語になりますが、WEBと書籍で、また別物として見て頂けると幸いです。
(ゲーム色の強い物語をお好みの方には、書籍をお勧めいたします。)

 ――クララと自分が噂になっているとは思ってもいなかったアルベルトは、ハンスに事実を知らされた数日後、クリスティーナの父・ザリエル公爵に呼び出された。
 クリスティーナの父は、臣下の立場でありながら、堂々と、王太子を公爵邸に呼びつけたのである。

 アルベルトが来ると知らされていなかったクリスティーナは、屋敷の正面ホールが騒がしくなったのを感じ、二階の自室から階段の踊り場に顔を出した。
 公爵邸は、玄関扉を開いた真正面に大階段があり、大階段を上り切った突き当りに、踊り場がある。その踊り場から左右に階段が分かれ、それぞれの部屋に繋がる造りだった。
 階段の踊り場まで下りたクリスティーナは、解放された玄関から、見知った姿が入って来るのを見て、ぱあ、と笑顔を浮かべる。
「アルベルト様……!」
 玄関ホールにすっと現れたのは、銀糸の刺繍も鮮やかな、群青色の上下に身を包んだ、ノイン王国・王太子――アルベルトだった。真顔で手首のカフスを確認しながら屋敷に歩み入った彼は、クリスティーナの声を聞き、顔を上げる。ゆったりとしたドレスに身を包んだクリスティーナと目が合うと、彼は酷く優しく微笑んだ。
「クリスティーナ」
 クリスティーナは足早に階段を下り、アルベルトに歩み寄った。彼女の瞳はいつも以上に潤み、アルベルトが大好きだという感情を如実に表す、恋情に染まっている。何せ、仲直りをしてから初めて顔を合わせたのだ。約束をした覚えはないけれど、アルベルトに会えてとても嬉しかった。抱き寄せられるまま、アルベルトの腕の中に収まったクリスティーナは、首を傾げる。
「どうなさったの? 今日、お約束をしていた?」
 甘くクリスティーナを見下ろしていたアルベルトは、質問を聞くなり、顔を強張らせた。
「……うん。約束は……その、君のお父上と……ね」
「……お父様?」
 アルベルトは、自分ではなく、父に会いに来たのか、とクリスティーナが納得した時、背後から声がかかった。
「――これはこれは殿下。急なお呼び出しにも関わらず、快く応じてくださり、感謝いたします」
 厳格な父の声は、普段よりも明るかった。意外に感じながら振り返ったクリスティーナは、瞬く。
 階段の踊り場に立ち、両腕を広げて歓迎の意を示している父の瞳はしかし、猛禽類を彷彿とさせる、不穏な鋭さを宿していた。
 父の眼光は恐ろしかったが、クリスティーナはそのセリフに含まれる異常さを、とりあえず尋ねる。
「……お父様が、アルベルト様をお呼び出しになったの……?」
 父はノイン王国で宰相をしていた。仕事のために、毎日王宮へ出向いているので、王族と話がしたいなら、職場で自ら王族の元を訪ねた方が早い。しかも、臣下である父は普通、王族を呼びつけられる立場ではなかった。王族と会いたいなら、お伺いの手紙を送り、許可を頂いてから、自ら指定された場所へ赴くのが臣下の姿だ。王族から出向くと言ったなら問題はないが、臣下から王族を足元に呼びつけるなど、言語道断・非礼の極みであるのだが――。
 娘に怯えた目で尋ねられたザリエル公爵は、澄んだ青い瞳を細め、口角を上げた。
「――そうだ。私が、アルベルト殿下に、ここへ来るよう、昨日手紙をお送りした」
 父はどんな疑問も抱いていない、どこか含みのある笑顔で頷く。
「……あ、あの……」
 クリスティーナは、父親の非礼を詫びるべきだろうか、とアルベルトに目を向けた。
 クリスティーナの視線を感じたアルベルトは、軽く蒼ざめた顔色で、にこっと笑う。
「うん。気にしないで、クリスティーナ。どういう話があるのか、大体わかってるから」
「……話?」
 問い返したが、アルベルトは笑顔のまま、それ以上答えるそぶりを見せなかった。
 父がふん、と鼻を鳴らし、声を大きくする。
「では――こちらへどうぞ、殿下。詰まらぬ噂(・・・・・)をどうされたいのか、今後についてお話ししようではありませんか」
「……」
 アルベルトは笑顔で、非礼にも階段の下まで下りてこようともしないザリエル公爵を見上げた。その目尻は、痙攣している。
 階段へ向かうのをためらったアルベルトに気づいた父は、にいっと笑った。
「――我が娘、どうされたいのでしょうか?」
 アルベルトはぐっと唇を引き結び、クリスティーナに目を向ける。話の流れが分からないクリスティーナを見つめ、彼は優しく微笑んだ。
「……何があっても、僕は君と結婚するからね、クリスティーナ」
 数日前に、プロポーズを受けたばかりだったクリスティーナは、またはっきりと結婚すると言ってもらえて、ぽっと頬を染めた。
「……はい」
「うん」
 アルベルトは、そっとクリスティーナの頬を撫でて、踊り場で待つ父の元へ向かった。その背中を見送りながら、クリスティーナはようやく、今日二人が話す内容に見当がついた。
 二人はクララとの一件をどうするのか、話すつもりなのだろう。


 父の書斎に呼ばれたアルベルトが話を終わらせたのは、それから三時間後のことであった。
 話が終わったら呼んでね、とハンスにお願いしていたクリスティーナは、ハンスに呼ばれて、父の書斎へ向かった。父の部屋から出て来たアルベルトの顔を見たクリスティーナは、ぎょっとして、彼に駆け寄った。
「どうなさったの? 大丈夫?」
 父の部屋から出て来たアルベルトの顔は、疲労困憊の色も濃い、蒼白の状態だったのである。
 彼はクリスティーナに気づくと、無理やり顔の筋肉を動かして、微笑んだ。
「大丈夫だよ」
「お父様が、何かご無理を申し上げたの?」
 昔からアルベルトには点が辛い父だ。平気な顔で、アルベルトに無理難題を持ちかけるのは、想像に難くなかった。
 しかしアルベルトは、微笑む。
「ううん。――君と結婚するためなら、僕に不可能の文字はないよ……」
「……」
 強い意志の籠る声で断言したアルベルトの目は、闇よりも深いどこかを――絶望の深淵でも覗いていそうな、仄暗い闇色をしていた。
 さっぱり話の流れがつかめないクリスティーナは、父に聞こうかしら、と書斎に目を向ける。と、タイミングよく扉が開き、中から父が姿を見せた。
「お父様。アルベルト様にどんなお話をなさったの?」
 顔を見るなり尋ねられた父は、眉を上げ、ちら、とアルベルトに目を向ける。視線を注がれたアルベルトは、顔色は悪いながら、にこっと普段通りの笑顔を浮かべた。値踏みする眼差しを、強固な笑顔で跳ね返したアルベルトの姿に、父はひくっと片頬だけで笑って見せる。そして不安でたまらないクリスティーナに視線を戻し、今度は甘い父親の顔になって笑った。
「なあに、お前は何も気にする必要はないよ、クリスティーナ。お父様はただ、殿下のお気持ちを確認しただけだ。殿下はお前との結婚をお望みだそうだから、お父様は、お前と結婚するために必要な手順(・・・・・)をお伝えしたまでだ。まあ、こういった不甲斐ない噂を流されるに至った経緯に対し、年長者として、少々申し上げさせていただきはしたがな」
 結局、どんな話し合いがなされたのかは、二人とも教えてくれなかった。
 その後、アルベルトはあらゆる宴とクラブに参加して、噂の収拾を図ったようだった。曖昧な表現になるのは、アルベルトは一人で忙しく立ち回り、その間、クリスティーナは彼に会えなかったからである。
 そして、彼の妹のアンナから聞き知ったのだが、どうにもアルベルトは、国王から通常の倍量の公務も課されていたようだった。途中、顔を合わせた折に、余りに顔色が悪かったので、倒れてしまってはいけないから、休憩なさってくださいとお願いしたのだが、アルベルトは土気色の顔で『いや……これは、試練なんだ……』とよく分からない言葉を吐いて、ふらふらになりながら奔走し続けていた。
 公務と噂の収拾、両方を同時に対応せねばならないと厳命されたらしいとは、これまたアンナから聞いた話である。
 そして噂は根も葉もないものだと周知が行き渡った頃、シェーンハウゼン侯爵は、辺境にある領地に、クララを連れて下がってしまった。議会はまだ開かれており、領地に戻るには時季外れだったが、社交界での振る舞いについて、躾がなっていないと噂が立ち始めていたようなので、無難な判断に思われた。領地に戻して、噂が消えた頃に、もう一度教育し直された状態でデビューしなおすのだろう。
 クリスティーナは、少しだけほっとした。
 ハッピーエンドしか知らないクリスティーナは、この状況がゲームオーバーなのかどうか分からない。けれどシェーンハウゼン侯爵の領地は、王都から馬車で一か月以上かかる距離にあり、言い換えれば、彼女は当面、王都に戻らないということなのだ。更に、クリスティーナの予想通り、教育し直してまたデビューするなら、彼女が戻ってくる時期は来年の春。順調にいってくれれば、その頃には、アルベルトとの挙式は最終段階だった。
 天変地異でも起きない限り、きっと大丈夫。
 クリスティーナは自分にそう言い聞かせて、アルベルトとのこれからに思いを馳せた。


 ――そんな二人が過ごす、王都の季節は、夏の終わり。
 長閑で、けれどやっぱり、ちょっぴりどきどきする毎日が、始まろうとしていた――。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
お話のまとまりを考えると、上げないほうがいいだろうな、と思っていたのですが、もうそろそろ一年経ちますし、もういいかな、ということで、書きたいなあと思っていたその後など、ちょこちょこ上げていこうと思います。

そして恐縮ではありますが、
Jパブリッシングさんという出版社の、フェアリーキスというレーベルから、
12月27日に『転生したのに、また叶わぬ恋に落ちました』(R15)(PN;鬼頭香月)という新刊を発売していただく予定になっています。アマゾンでは予約受付が始まっています。
詳しくはまた活動報告に上げさせていただきますが、鬼頭香月の初めての書下ろし小説になります。もしよかったら、お手に取っていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ