3章(4)
「お待ちしていました」地味な感じの老婦人が、訪れた三人を快く出迎えた。
嫌味な気取った感じは一切受けない。テレビで見る霊能力者とは大違いだ。
ノンちゃんは連絡を入れてくれたらしい。
家は至って普通の作りで、表札には、酒田だけとしか書かれていなかった。
しかし、通された一部屋だけは趣が一転していた。
その部屋には、多くの燭台に蝋燭がともり、
祭壇らしき台が置かれ、呪文のような言葉が壁一面に書かれていた。
中央のスペースに座布団が敷かれていた。
老婦人は座布団に座るよう促し、自分も三人と向き合うように腰を下ろした。
「酒田です。大体の話は聞いております。しかし、もっと詳しく聞かせてください」
そう言って目と閉じた。美子と里美はそれぞれ自分の身に起こった事など、
出来る限り詳しく話した。野口も事件の全容を分かる限り詳しく話した。
その間、酒田と名乗る女性は、何か念仏でも唱えるように呟き続けた。
話が終わると酒田は目を開いた。
「警察まで来るとは、相当な相手みたいね」
そして話を続けた。
「友達は悪霊になっています。でも、あなた方を決して忘れているわけではありません。
今でも友達と思っています。しかし、恨みが強いのも事実です。
裏切られ、夢を奪われ殺されれば、いたしかない事です。
今のところ彼女は一人で居ますが、このままに捨て置けば、
更なる悪霊を呼び寄せてしまいます。力も強くなり、成仏させることも困難になるでしょう。
今しかありません。しかも、あなた方の協力がなければ、出来ません。
二人にその覚悟がありますか?」
酒田は美子と里美をじっと見た。
「はい」
里美は答えた。
「はい」
美子も答えた。
しかも美子は嬉しそうだった。酒田が言った、『今でも友達』の言葉が嬉しかったようだ。
しかし、野口は躊躇した。
「危険は無いのですか?」
「全然ないとは、言い切れませんが、チャンスは今しかありません。
相手が二人を友達と思っている以上、二人には害を及ぼさないはずです。
しかし、完全に邪悪な心に支配されれば、そんな気持ちはなくなるでしょう。
だから今しかないのです。なぜならば、あなた方二人からは、邪悪な気配は感じられません。
ただ……」
酒田は野口を見た。
「あなたは狙われています。邪魔をする人間だと思われたようです。
邪悪な気配が包み込んでいますよ」
野口は慌てた。そう言えば寒気を感じていたのだ。
この部屋の雰囲気だと、ばかり思っていたのだが。
「安心なさい。それは簡単に取り除けるわ。霊の本体はそのアパートにいるから」
酒田が一言喝を入れると、嘘のように寒気は収まった。
「もしも他の悪霊を呼び寄せてしまったら、こうは簡単にはいかないわ。
明日は私もそのアパートに行きます」
それから、里美と美子を見て酒田は言った。
「何か思い出になるようなものがあったら、持ってきてちょうだい」
里美と美子が頷くと、野口に向き直り、こう言った。
「あなたはアパートに入って駄目よ。相手はあなたを知り尽くしたわ。
今度捕まったら逃れられない」
野口は思わず息を呑んだ。先ほどの寒気とは比べものにならない悪寒が、野口を包み込んだ。
その夜、美子は夢を見た。三人で大仏を見に行ったときの夢だった。
弘子と里美が大仏前でポーズを取り、美子がカメラを構えていた。
ところがシャッターが切れない。
「ねえ、このカメラおかしいよ」
そう言うと里美が走り寄ってきた。里美がカメラを覗き、弘子に向けシャッターを切った。
「大丈夫じゃない」
里美はカメラを美子に渡すと、弘子の隣へ駆けていった。
美子はカメラを覗きシャッターを切ろうとしたが、やっぱり駄目だ。
「やっぱりおかしいよ」
里美は呆れたようだったが、今度は弘子が走ってきた。
ところが、美子に向かい走る弘子は、どんどん遠く離れていくのだ。
必死に弘子を呼んだが、とうとう弘子は見えなくなった。里美は不思議と気がつかない。
そこで美子は目が覚めた。
その頃、里美も夢を見ていた。必死に弘子の名を呼ぶが、弘子の姿は消えていった。
美子は気が付かない様子で、大仏前で無邪気にポーズを取っていた。
そこで里美も目を覚ました。
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