怨情 2(12/14)縦書き表示RDF


怨情 2
作:勝目博



3章(4)


「お待ちしていました」地味な感じの老婦人が、訪れた三人を快く出迎えた。
嫌味な気取った感じは一切受けない。テレビで見る霊能力者とは大違いだ。
ノンちゃんは連絡を入れてくれたらしい。
家は至って普通の作りで、表札には、酒田だけとしか書かれていなかった。
しかし、通された一部屋だけは趣が一転していた。
その部屋には、多くの燭台に蝋燭がともり、
祭壇らしき台が置かれ、呪文のような言葉が壁一面に書かれていた。
中央のスペースに座布団が敷かれていた。
老婦人は座布団に座るよう促し、自分も三人と向き合うように腰を下ろした。
「酒田です。大体の話は聞いております。しかし、もっと詳しく聞かせてください」
そう言って目と閉じた。美子と里美はそれぞれ自分の身に起こった事など、
出来る限り詳しく話した。野口も事件の全容を分かる限り詳しく話した。
その間、酒田と名乗る女性は、何か念仏でも唱えるように呟き続けた。
話が終わると酒田は目を開いた。
「警察まで来るとは、相当な相手みたいね」
そして話を続けた。
「友達は悪霊になっています。でも、あなた方を決して忘れているわけではありません。
今でも友達と思っています。しかし、恨みが強いのも事実です。
裏切られ、夢を奪われ殺されれば、いたしかない事です。
今のところ彼女は一人で居ますが、このままに捨て置けば、
更なる悪霊を呼び寄せてしまいます。力も強くなり、成仏させることも困難になるでしょう。
今しかありません。しかも、あなた方の協力がなければ、出来ません。
二人にその覚悟がありますか?」
酒田は美子と里美をじっと見た。
「はい」 
里美は答えた。
「はい」 
美子も答えた。
しかも美子は嬉しそうだった。酒田が言った、『今でも友達』の言葉が嬉しかったようだ。
しかし、野口は躊躇した。
「危険は無いのですか?」
「全然ないとは、言い切れませんが、チャンスは今しかありません。
相手が二人を友達と思っている以上、二人には害を及ぼさないはずです。
しかし、完全に邪悪な心に支配されれば、そんな気持ちはなくなるでしょう。
だから今しかないのです。なぜならば、あなた方二人からは、邪悪な気配は感じられません。
ただ……」 
酒田は野口を見た。
「あなたは狙われています。邪魔をする人間だと思われたようです。
邪悪な気配が包み込んでいますよ」
野口は慌てた。そう言えば寒気を感じていたのだ。
この部屋の雰囲気だと、ばかり思っていたのだが。
「安心なさい。それは簡単に取り除けるわ。霊の本体はそのアパートにいるから」
酒田が一言喝を入れると、嘘のように寒気は収まった。
「もしも他の悪霊を呼び寄せてしまったら、こうは簡単にはいかないわ。
明日は私もそのアパートに行きます」
それから、里美と美子を見て酒田は言った。
「何か思い出になるようなものがあったら、持ってきてちょうだい」
里美と美子が頷くと、野口に向き直り、こう言った。
「あなたはアパートに入って駄目よ。相手はあなたを知り尽くしたわ。
今度捕まったら逃れられない」
野口は思わず息を呑んだ。先ほどの寒気とは比べものにならない悪寒が、野口を包み込んだ。

 その夜、美子は夢を見た。三人で大仏を見に行ったときの夢だった。
弘子と里美が大仏前でポーズを取り、美子がカメラを構えていた。
ところがシャッターが切れない。
「ねえ、このカメラおかしいよ」
そう言うと里美が走り寄ってきた。里美がカメラを覗き、弘子に向けシャッターを切った。
「大丈夫じゃない」
里美はカメラを美子に渡すと、弘子の隣へ駆けていった。
美子はカメラを覗きシャッターを切ろうとしたが、やっぱり駄目だ。
「やっぱりおかしいよ」
里美は呆れたようだったが、今度は弘子が走ってきた。
ところが、美子に向かい走る弘子は、どんどん遠く離れていくのだ。
必死に弘子を呼んだが、とうとう弘子は見えなくなった。里美は不思議と気がつかない。
そこで美子は目が覚めた。
その頃、里美も夢を見ていた。必死に弘子の名を呼ぶが、弘子の姿は消えていった。
美子は気が付かない様子で、大仏前で無邪気にポーズを取っていた。
そこで里美も目を覚ました。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう