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理由持つ者
作:市河りゅう



#6


 街道の脇、少し大きな木の下に並んで座って昼食を食べている。
「お前、これからどうするんだ?」
 俺は少女に話しかけた。
「どうするって、旅するんじゃないの?」
 少女の口調が戻っている。まぁ、こちらのほうが堅苦しくなくていい。
「ずっと俺についてくるつもりか?」
「…やっぱり迷惑?」
 少女は顔をうつ向かせた。
「迷惑と言えば迷惑だがそれは関係無い」
「?」
 少女は顔を上げて不思議そうにした。
「俺と一緒に旅なんかしていたってお前のためになるようなことなんて何も無い。それだったらどこかの都市で別れて仕事や住む場所を決めたほうがはるかにお前のためになる」
「仕事と住む場所なんて簡単に見つからないよ」
「それは運次第だ。これから俺たちは商業都市バルクに行く。バルクは知ってるな」
「うん、海に面した港街でしょ?私は行ったことないけど、村の人は野菜を売りに行ったりするよ」
「少し大きな都市になると富裕層が生まれる。生活以外に金を使う余裕のあるやつには自分の財力を自慢しだすのが現れる。一人が自慢しだすと他の奴らも自慢しだす。
 では、そういう奴らはどうやって自慢すると思う?」
 俺の言葉に律儀にうなづきながら話を聞いていた少女は首をひねった。
「どうやって?」
「それを今俺が聞いているんだが」
 うーん、と、うなりながら考え込む間に話をしていて食べられなかった昼食に手をつける。プラナの分はもうほとんど残っていなかった。
「えっと、自慢するってことは、何か目に見えるようなものじゃないとダメだよね?だったらすごく高い物とか珍しい物を自慢するんじゃないかな?」
「そのとおり」
 俺は食べながら答えた。そして、口の中をからにしてから続けた。
「でも、高い物珍しい物っていうのは数が少なく金持ちの中でも手に入れられる者は限られてくる。では手に入れられなかった者はどうするか」
「どうするの?」
 俺はようやく食事を食べ終える。
「使用人の数を比べるんだ」
「使用人?」
「ああ、一般に執事だとかメイドとかいう呼び名が有名だな」
 そこで話が最初に戻る。
「この職業はほとんどの場合住み込みが多い。使用人の仕事に就ければ住む場所も手に入る」
「…ルインは、私に使用人になれって言いたいの?」
「そういう道もあるっていうことだ。最近は中流程度の家でも使用人を雇うのが流行ってるらしいからうまくいけば簡単に仕事が手に入るかもしれない。そうすれば旅をするよりよっぽど安全な暮らしが出来る。」
 もう一つ思いつくことはあるけれど、俺の話はこれでおしまい。後はプラナが決めることだ。
「…それは本当に私のためになるの?」
「少なくとも俺についてきても得られるものは何も無い。」



 あれから俺はスープの器を片付けてから旅を再開した。
 この調子だと四日ほど西に歩いていけばバルクに到着するだろう。
「ルインはなんで旅をしてるの?」
 しばらく静かに考え込んでいた少女は結論が出たのか、思考を放棄したのか知らないが、いつもの調子で話しかけてきた。さて、なんと答えたものか。
「…なんだと思う?」
「それを今私が聞いてるんだけど。」
 やけに嬉しそうにプラナは言った。
 あぁ、さっきの俺の真似か。似たようなこと言った気がする。
「そんなこと聞いてどうする?」
「どうもしないよ。ただ知りたいだけ。」
 まっすぐにこちらを見つめる視線に宿るのは純然たる好奇心。
 自分の旅の理由、それは思い出すだけで憂鬱になる。
 まぁ、(俺の気分に)当たり障りのない程度に答えておけばいいか。
「探しているモノがいる。それだけだ。」
「何を探してるの?」
「…秘密だ。」



 私はルインの話を聞いてからずっと考えてた、これからどうすればいいかってこと。
 彼の旅についていけばいいと思っていた。けれど、ルインの話を聞いてそれは選択肢の一つでしかないと気付いた。
 彼の言うことに従うのが一番いいことなのだろう。すべてうまくいけば、仕事も住む場所も決まって、ルインにも迷惑をかけずに済む。今の私は彼の優しさに甘えてるだけだから。
 だけど、すごく寂しかった。
家族を亡くし、村の人は冷たい眼で私を見てきて、帰る場所も失くした私は、ルインのことを無意識に頼っていた。
 ルインからも見捨てられる、そう思ったら悲しくて怖かった。
 なんて恥ずかしいんだろう。まだ会って間もないのに、優しくしてくれた、ただそれだけでこんなに彼に依存している。
 そんな自分を自覚しながら、ルインから離れたくなかった。そんな自分を自覚していたから離れるのが余計に怖くなった。
 これからどうすればいいのか、考えはまとまらなかった。はっきりしたのは、このまま旅を続けたい、ルインから離れたくない、そう私が思っているということ。 そこまで考えて、私はルインがなぜ旅をしてるのかを知らないことにふと気付いた。
 もしかすると、聞いてはいけなかったのかもしれない。そう思ったのは、ルインが質問に答えてから――正確には答えてないけれど――どことなく雰囲気が堅くなった気がしたからだ。
 彼はどうして旅をしてるのだろう?
 探しているモノがいる、彼はそう言った。いるという言葉は、普通人間とか生き物に使う言葉だ。
 けれど彼はモノと言った。普通、人間とかにモノと言うだろうか?動物とかなら言うかもしれないが。
 ルインが秘密だと言った理由、隣を歩く彼を横目に見ながら私はそれを知りたいと思った。














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