俺は過ぎ去ってゆく電車に向かって、半ば自棄になりながら手を振っていた。
(これを逃すとかなり待つのになあ。)
田舎の電車の間隔はかなり長い、予定では間に合うはずだったのに。爺ちゃんから、採れたてを持って行けと山ほど追加のお土産を朝に渡された。ぶっちゃけ、肩が痛くて堪らない。駅が見えてきた時に、電車が発車してしまった。
(だが!一度戻ると絶対にもう一泊させられる……んなことしてると、学校始まっても帰れねえって。)
バッグを降ろし、備え付けのベンチに腰掛ける。こっちに来る時に作成した時刻表を見ると。
「一時間もあるのかよ!」
何か逆転の一手を探して、移動方法の全てを記した手製時刻表を熟読する。最後のページに『電車少ない、要注意!』とある、自分に負けた気分だ。ベンチに寝転がり目を閉じる。
(へこむなあ。)
緑豊かなこの地方は良い風が吹く、それは汗ばんだ肌に涼を届ける。重い荷物に予想以上に体力を使ったためか瞼が重い。夢に落ちる一歩前、意識がぼんやりしている一番気持ち良い瞬間。この流れに逆らう気は無かった。
暫くうつらうつらしていると、僅かに覚醒した目が隣に座っている女の子を見つけた。眠気はあるのだが、知らない人が近くに居ると眠りづらい。
(どうすっかな?)
とりあえず、挨拶をしてみた。
「フトモモに頭乗せて良い?」
隣に座っていた子はこっちを一瞥すると。
「嫌」
ファーストコンタクト失敗、頭の中にクイズ番組のブッブーと言う効果音が流れた気がする。
「はっきり言われると、ショックでかいって」
勢いをつけて起き上がると、彼女の方を向いた。
「俺は、飯井 頼って言うんだ。君は?」
「……巡」
「そんなに嫌そうに答えるなよ、傷つくだろ」
「はぁ〜」
「ため息も駄目、ってか手ぶらだな何してんだ?」
こんな田舎の駅を使う人は、ほぼ全て大き目のバッグを持っている。大きな町に買い物に行くのはちょっとした旅行のようなもので、買い溜めが基本となる。まして帰省やUターンなら大荷物になるのは必至、だって宅急便送る所ねえんだから手で持って帰るしかない!
「んー、何してると思う?」
「俺に聞くのかな、普通。あ!それじゃあこうしよう、次の電車が来るまで巡が何でここに居るのか当てたら膝枕してくれ」
「……そこ、そんなにこだわるんだ。じゃあ電車が来るまでに当てられなかったら、私の言う事聞いてよ」
「男のロマンだからな。ちなみに、俺はお金が無くて死にたくないからそれ以外でな」
「わがままだなあ、良いよ当ててみ」
巡はショートカットの髪を揺らして俺の方に顔を向けた、ちょっとだけ笑った顔がすごく可愛かった。
「どうしたのよ?」
(君の笑顔が可愛くて見とれていたんだ。なんて言える訳ないだろー!)
「集中して考えていたんだ、ヒントは無いの?」
(うう、なんてシャイな俺。)
「勝負の世界は非情なのよ」
「電車に荷物を置き忘れた」
「ハズレ」
「実は駅員だった」
「本気で言ってるなら殴るけど」
「冗談だし、つーか歳同じ位でしょ?」
「たぶんね」
あまり時間も無いことだし、おそらく正解だと考えてる事を言ってみる。ちょっと深く息を吸い込んで、真顔に戻して。
「誰かを待ってる」
「……」
「大切な人?」
「昔ね、夏休みに一緒に遊んだ男の子がいたんだ。頼みたいにお爺ちゃんの家とかに遊びに来てたんじゃないかな、その子がこっちに居る間はずっと二人で遊んでた。またね、ってこの駅で別れたのにそれっきり。確かに小さい頃ってそんなものだけど、やっぱり悲しくて。未練だなあ」
「……残念ながら、俺では無いな」
「そりゃそうよ、全然似てないし」
「あ、だから横に座ってたのか。……今もその子の事が好き?」
「もしそうだとしたら、こんな事言えないよ。今となっては幼い夏の思い出、たまに弱くなるとここへ来ちゃうんだ。あの頃は一日が長くて、でも気づけばあっという間に過ぎていった夏休み。いつだって心が惹かれる、また手をつないでどこまでも行けそうで」
線路のずっと先に巡の視線は向けられていた。
「そっか」
レールの振動、踏み切りの音。ブルーの電車が見えてきた。
「でも、もうここには来ないかな。あいつも……頼もここから帰っていくんだから」
はかなく笑ってうつむいてしまった巡、空気が重い。ペシっとポケットに入っていた良い感じの紙束で、おでこを軽くたたいた。
「何するのよ、ここは優しく語り掛ける所でしょ」
それは意外とすばやい動きで、巡に引っ手繰られてしまった。
「それだと巡の言ってた前回と同じな気がしたんでね」
「ひねくれ者」
「あははは。嫌じゃなかったら今度は俺を待ってよ、遅くとも次の夏には必ず来るから」
ホームに入ってきた電車、開のボタンを押してドアを開ける。乗りこんでから、クルッと振り返って言った。
「賭けに勝ったご褒美を取り立てにね」
ドアが閉まる、彼女は何か言ったようだけど聞き取る事は出来なかった。電車に乗ってる間、色んな考えが頭の中でグルグル回ってた。多分すっごい変な顔になってると思う。
そして家に戻ってからは、地獄の日々だった。宿題やってない、一個も!感動モノだった。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
(おい、集中の邪魔をするな。)
「はいはい」
鍵を開けると、玄関には巡が居た。
(いや、待て。あきらかにおかしいだろう。)
「え!何、いきなり自宅訪問?てかどうやって?」
俺の自作の時刻表を見せられた、すごいな自分これならきっと小学生でも僕の家へたどり着くはず。
(そっかあの紙束これだったのか。)
「……賭けの約束、膝枕」
真っ赤になりながら、巡はかろうじて答えた。
「あはははは」
「な、何よぅ」
「いや、嬉しいんだ」
にっこり微笑みかけながら、続けた。
「俺達、上手く行きそうじゃない?」
「さあね!」
向かい合った二人、その一歩を上手く踏み出せた気がした。 |