第37話:新たな同居人!今夜は眠れない…
――Side Kazuto Himuro
「………」
「………」
沈黙が支配する我が家のリビング。
睨み合っている二人の背景には、鷲と虎が見えるが……気のせいだと思いたい。つか、前にもこんなこと合ったような。
なんでだ?どうしてなんだ?さっきまでは普通に会話をしてたじゃないか……。
現在うちのリビングでは霞と彩花が、テーブルを間に挟んで睨み合っているのだ。
事の発端は数分前に遡る。
期末が近いので、恒例の『お馬鹿な彩花の勉強会』をするために彩花が家に来たのだ。
んで、リビングで霞と遭遇し、『また来たの?』と呆れ口調で彩花は対面に座ったのだが、別にこの時は平穏だった。
勉強まで少しだけ雑談をしようと言う事になり、お茶を入れにその場を起ち、戻ってきたら……この状況というわけだ。
とりあえず……
戦略的撤退を試み、腰を浮かせたところで…
「何処行くの?」
冷たい微笑の彩花に声をかけられ、何故か身体が硬直し退路を失い……
「お、お花を摘みに……「座れ」…はい」
逆らってはいけない。彩花が飢虎に見える……逆らった瞬間、奴の牙や爪は容赦なく俺に襲い掛かるだろう……
そっと、なるべく刺激しないように正座で座る……
「で?どういう事?霞が此処に住んでるって」
なるほど。冷たい視線の訳はそれですか……
「い、いや〜…し、仕方が無いんだよ。こ、此処は霞にとっても家みたいなもんだし……泊めてくれって言われたら断れないんだよ。爺ちゃん公認だし」
「そうそう、玄ちゃんに此処を家だと思ってくれ、その代わりにボクを二人目の孫だと思うから…って、言われてるんだよ」
「だからって!図々しいわよ!?そういえば…あんた芸能活動を休んでいるそうじゃないの!?どういう事よ!?」
うん、それは俺も聞きたいな。ギタリストの件は断ったしな。……まさか、まだ諦めて……
「…欲しいものがあるんだよ」
不敵に笑みを浮かべながら俺を見る霞。おいおい……俺が了承するまで居座るつもりか?
「だから、ギタリストになれって言うのは断っただろ!?」
このままでは霞はニート街道まっしぐらだ。俺は断固、拒否するからだ。
「そうだね……でも、決着がついてないからまだ諦めないよ?」
決着って……お〜い。ってか、何故に彩花に視線を向けたまま?
――Side Ayaka Tatibana
「――っ!?」
霞の態度にピンっと来た。
和人はどういう訳か、ギタリストとか訳分からない解釈をしているけど…霞が欲しいと言っているのは和人だ。
そのために、芸能活動を休んでまで此処に来た……霞は本気だ。
このままじゃ……このままじゃ……和人が取られちゃう!
「わ、私も此処に住む!!」
「……何を言うとるんだ?チミは」
和人が呆れたようにそう言う。
「だ、だって、霞だけずるい!」
「いや…彩花さんや、ずるいとか言われてもな。マジで行く所がない霞と違って、お前は此処から徒歩1分と掛からない所に住んでるだろ?泊まる意味なんてまったくねぇだろ」
「だからって!若い男女が一つ屋根の下で寝起きするなんて……何かあったらどうするの!?」
「その心配はないと思うが……」
言われて見れば、確かに……その可能性は限りなく低い。もし、そんなことを和人がするなら、私はとっくに……こ、コホン!…と、とにかく!勢いで言っちゃったが、心配する必要は無いだろう。
和人の三大欲求は睡眠欲が圧倒的パーセンテージを占め、二番目に食欲。せ、性欲は、女に興味が無いんじゃないの!?って言いたいくらい無い…隠してるだけかもしれないけど……
それとも、私に魅力が無いのかなぁ…
「? 彩花さーん!もしもーし!?」
はっ!?
考え事に耽っていると目の前でブンブンと和人が手を振っていた。
「ご、ごめん……何?」
「いや何って…いきなりボーっとするからさ。体調でも悪いのか?今日の勉強会は止めとくか?」
「そ、そうね!?ちょっと気分が悪いみたい……ごめんね。また今度でいい?」
勉強になんて集中できるはずが無い、今はどうにか対策を練らないと……霞に、和人が取られる!
家に帰ってお母さんに相談する。驚くと思いきや、以外にも……
「霞ちゃんでしょ?テレビで見るより可愛いわよねぇ。それに良い子だし…」
「知ってたの!?」
「…知らなかったの?」
お母さんは霞の事を知っていた。なんでも、いつも通りに和人の家に洗濯物を取りに行った際に霞と会っていたらしい。
お母さんは、私とのやり取りからある程度を察したようで…
「で、どうするの?」
そう問いかけてきた。
「どうするって…」
それを相談しに来たんだけど…
「私に聞かないでね?これは彩ちゃんの恋…彩ちゃんの問題だもの……」
「――っ!?でも…でも……」
私にも分からない……こんなこと考えてなかった。まだ、時間はあると思ってたのに……。
――Side Suzuka Tatibana
はぁ……いつもの積極的な彩ちゃんは何処に行ったのかしらねぇ。
こと、和人君の事となるとうじうじと……
これは、あの作戦を実行するしかないわね。パパは反対だって言ってたけど……これくらいの後押しはしてあげないと本当に彩ちゃん負けちゃうし。
「ねぇ、彩ちゃん。それはそうと話があるの」
「話?」
「えぇ、大事な話よ」
――Side Kazuto Himuro
「って、事なのよ。よろしくね♪」
「はぁ……」
彩花が家に帰ってからしばらく経つと今度は涼香お姉さんがやってきた。
そして玄関口で、とんでもない事をお願いされた。
曰く、彩花のお父さんである信之助さんが先月から単身赴任しているらしく、涼香お姉さんが健康管理などそう言うことが心配になったので、そっちに行くことにしたらしい。
彩花は高校三年…流石に一緒に連れて行って転校させて新しい友達と卒業式をするより、こっちの学校で親しい友達と卒業式をした方がいいだろうという事で、こっちに残すことにしたのだが…
如何に彩花が豪傑で猛獣化すると言っても、生物学的に女…それも世間一般的価値基準で言うとべっぴんさん…一人じゃ拙いだろう…って事で。
彩花ちゃんを預かって♪とお願いされちゃった訳なのだ。
「……まぁ、涼香お姉さんの頼みですし…そう言う事情なら分かりましたが…いいんですか?」
「…何がかしら?」
「いえ、俺も男ですから…そ、その……」
「あぁ、別にかわまないわよ。襲っちゃっても、彩花ちゃんを貰ってくれるならね♪親公認よ」
笑顔でとんでもない事をのたまう……冗談ですよね?
「そ、それに!彩花は…彩花本人は嫌なんじゃ……俺なんかと一緒に住むのは…」
「いいえ、早速荷造りしてるわよ。気が早いわよねぇ。今度の休みの日からだって言うのに、私も予定を繰り上げて明日にでも行こうかしら……あ、そうそう。悪いんだけど…重い荷物とかあるだろうし、運ぶの手伝って貰えないかしら?」
「分かりました。んじゃ、行ってきます」
俺はリビングでテレビを見ていた、霞に少し出かけてくる旨を伝えて彩花の家に向かった。
――Side Suzuka Tatibana
和人君が出て行くのを見届けて、私は家にお邪魔する。
そして、リビングにいた霞ちゃんにも事情を伝えた。
「……そうですか」
「ふふ、不服そうね。それはそうか、愛しの先輩との愛の巣に邪魔者がお邪魔するんだからね」
「…そ、そんなこと!」
必死に否定しているけど、バラバレね。そこがすごく可愛いわ。
「ごめんね。本来娘の恋愛には親は不干渉…こういうのはルール違反なんだけど……やっぱり娘が可愛いのよ」
「……それって…」
「だけど、ここからは私は何もしないわ。後は彩ちゃん次第。願わくは、和人君にお母さんって言われたいわね♪」
「――っ!?そ、そんなことないもん!先輩はボクが!」
「ふふ、その意気よ。霞ちゃんも頑張ってね……別に霞ちゃんが勝ってもいい……和人君が選んだならね。ただ一つだけ約束して頂戴…」
「なんですか?」
訝しげに私を見てくる霞ちゃんに満面の笑みで…
「結婚式には絶対に呼んでね♪」
そう告げて、私はその場を後にした…
――Side Kazuto Himuro
「よっと……これでいいかな」
「………」
「ぶぅ〜」
彩花の荷物を一階の客間に運び入れて、一息つく。その間、彩花は阿呆な子みたいにポカ〜ンと口を開けて固まっており、霞はよく分かんないけど不貞腐れてる。
とりあえず呆けている彩花に…
―ぺし!
でこピンをしてやった。
「〜〜っ!?な、何すんのよ!」
少し赤くなったおでこを擦りつつ、涙目で批難する彩花。
「何じゃねぇよ。そりゃ、俺が運ぶって言ったんだけど……ボケ〜としてられると働いている俺としては遺憾なわけですよ」
「だ、だって!だからって!箪笥ごと運ぶ奴がいる!?あんな重いもの…正直、人間業じゃないわよ!?」
「だってメンドクサイし、その方が手っ取り早いだろ?それにそんなに重くなかったし…」
中身は服とかだ。まぁ、濡れてたりすりゃそれなりに服も重くはなるが、タンスの中の服が濡れているなんてことない。
「それに、家の色情爺のイカれた鍛練よりよっぽど軽い」
「あ〜、あの重りだよねぇ?懐かしいなぁ……」
霞は昔の光景を思い出し、懐かしそうに笑みを浮かべる。
「いや、お前は気が付かなかったかもしれないけどな、あの重りの重量だんだん増えてたんだぞ?」
「……へ!?嘘!?」
「マジだ……なんでも『海中で鮫に襲われた時に対処できるように!』だそうだ…」
と、霞と昔の事で盛り上がっていると、彩花が無言で近寄って俺の腕を触る。
「くっ!?くく……ふふ…あ、あや……ふはは…く、くすぐったい!」
「……やっぱりおかしいわよ!それなりに引き締まっているけど、ムキムキって訳じゃないのに…」
ひとしきり、腕を触ると彩花が離れてそう言う。
「えっとねぇ…ボクも前にそれ聞いたことあるんだけど、要は力の使い方なんだって。ただ鍛えてマッチョにしても、その筋力を有効に使わなかったら意味がない…玄ちゃんはそう言ってたよね?」
彩花の問いに、くすぐりで呼吸を整えていた俺の代わりに霞が答える。
「ああ、そう言ってたな」
玄ちゃん理論はこう。普通の人間の筋力を100とした場合、その筋力の使い方は…
筋力100×30%=30となり、つまり筋力100に対して、実際に30しか使えない。
筋トレなどで鍛えた場合でも…
(筋力100+筋トレでついた筋力20)×30%=45で、実際に使えるのは45だ。
んで、爺の教えと鍛錬により…俺の場合は
(筋力100+鍛練でついた筋力20)×80%=96。
「となるわけよ。うちのじい様の理論だと…んでもって、100%ってのは筋肉壊すから使っていいのは8割までらしい……もっとも、俺も意識してやってるわけじゃないから本当に8割なのか分らないけどな」
剣球で紅桜先生を倒した技もその応用だ。足の筋力を効率よく使った結果の移動術。
「だから、鍛えるなら筋力をつけるよりも使い方を覚えるほうが効率がいいんだ」
「じゃ、私にも教えてよ」
「それは無理だ。ノウハウは爺ちゃんしか知らないからな。俺と同じことやってもできるかどうか分からないし、そもそも何やらされたかなんて覚えてないから」
それに彩花なんぞに教えたら、俺への被害が倍増するではないか。
ある程度片づけを済ませ、足りないものは随時取りに行くという事で、夕食を取る事にした。
ぶーたれ娘が二人に増えてしまったので、機嫌解消のためにハンバーグとオムライスというそれぞれの好物を作り、なんとかご機嫌が回復した夕食後。
お茶を飲みながら、俺は口を開く。
「よし、それじゃ家事分担を決めようか」
三人で住む事になったので公平に家事を分担する事にしようと思う。
「っていっても、炊事はもう俺なんだけどね。君ら、料理スキルゼロだし。だから掃除か洗濯を二人で決めてくれ」
霞が来てからは洗濯は霞に任せていた…俺が女物の下着を洗うのはどうかと思ったし、まぁ、俺の下着を洗わせるのも抵抗があったんだけど、霞自身は特に気にしていないみたいなので、まぁ良しとしていた。
そんなこともあり、掃除は彩花。洗濯は霞、炊事は俺と分担が決まった。
その後は適当に話をしながらTVを見る…
その間に交替で風呂に入ることにし、今は霞が風呂に入っている。
「やっぱりいいよな…」
お茶を飲みながらポツリとそう零す。その言葉を聞いて彩花が首を可愛らしく傾げながら…
「どうしたのよ?」
「いや、霞が来てから思ってたんだけどな。やっぱり家に人がいるのはいいなってさ…」
二人が来る前は俺一人だった。
「和人…」
「あー、違う違う。そんなしんみりとした顔するなよ。別に寂しいとか辛かったとかそういう意味じゃないんだ。ただ、話をするのが楽しいってだけ。電話とかもあるけど、やっぱり顔見て話したいじゃん」
「……そうだね。それじゃ、いっぱい話しよ!」
「あぁ」
とかそんな話をしていると、風呂から上がった霞が入ってくる。
Tシャツにハーフパンツといったラフな格好で、首にはタオルが掛かっており、手にはドライヤーって…
「またかよ…」
はぁ〜っと溜息を吐くのも束の間、霞はタタっと素早い動きでコンセントを差し込むと、俺の前に背を向けて座った。
「せ〜んぱい♪」
「いい加減、自分でやんなさいな…」
とか言いつつ、俺は霞からドライヤーを受け取る。ふぅ…俺も甘いなぁ
そしてゆっくりと温風を霞の髪に当てながら、髪を梳いてやる…
「ふにゃぁ〜♪ごろごろ〜♪」
「こら!ごろごろすな、乾かせんだろうが」
まったく、この甘えんぼさんめ…
こいつぅ、ってな感じで霞の頭を軽く小突いた処で…
「な、なにしてんだコラーーー!!」
今まで呆然と傍観していた彩花が突然叫んだ。
「何って…先輩に髪を乾かしてもらってるんですけど?」
見ての通りですが?何か?ってな感じで、霞が答える。
「そんなの見りゃ分かるわよ!!なんであんたの髪を和人が乾かしてるのよ!!自分でやんなさいよ!」
「えぇ〜、嫌だよ〜。だって先輩の方が上手で気持ちいいんだもん。ゴロゴロ〜♪」
事の発端は昔、まだ霞の腕が治っていない時の事だ。
何度かうちの風呂を貸したことがあるのだが、何かと不自由だろと代わりに俺が髪を乾かしていた。
その際に何が気に入ったのかは分からないが、腕が治ってからも、家の風呂に入った後は俺に髪を乾かすように要求してくるのだ。
「和人も和人よ!なんで言いなりになって乾かしてるのよ!」
「なんでって…別に俺は嫌じゃないからな」
矛先が俺に来たけど、別に悪いことをしてるわけじゃない。単に髪を乾かしてるだけだ。
霞の髪は白くて、長くて、細くて、すごく綺麗だと思う。それにシャンプーの香りか、いい匂いがするのだ。
それに、俺の髪はそんなに長く無いので、長い髪っていうのは新鮮で乾かす方も結構楽しかったりする。
何に腹が立っていたのかよく分からないが、彩花は…
「私、お風呂入ってくる!!」
とだけ言って、さっさと出て行ってしまった。
「………なぁ、彩花はなんで怒ってたんだろうな?」
「はぁ〜〜。まぁ、分かってたけどね。先輩はもう少し女心を勉強した方がいいよ?」
霞に彩花の怒りの理由を聞いたが、そう返されてしまった。
そのまま霞の髪を乾かし終えて、しばらくすると、風呂から上がった彩花が、タオルで髪を拭きながらやってきた。
ピンクのパジャマにいつもとは違う、ポニーテール前のストレートヘアである。
そんな彩花がすごく新鮮で、ちょっと可愛く見える。
そんな事を考えていると、さっきまで霞の髪を乾かしていたドライヤーを手にとって…
「ん!」
赤くなった顔で俺に突きつけてきた。
「いや…って、おい」
訳も分からずドライヤーと受け取ると、霞同様座ってしまう。
「……おまえもか…」
彩花の言わんとする事が分かり、ドライヤーのスイッチを入れて、霞と同じように乾かしていく。
「ふぁ〜〜」
間の抜けた声を出しながら、彩花が凭れかかってくる。
「っと、だからお前も動くなって」
言ってもどかないので、彩花を後ろから抱き抱える感じで髪を乾かす…
……なんか、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど…
「ぶぅ〜〜」
頬膨らませた霞がジト目で見つめてくるから余計に恥ずかしい。だけど、それ以上に…
……抱きしめたい…
柔らかくて、小さい体。
石鹸だかシャンプーの香りか?すごくいい匂いがする。
そんな女の子が密着しているのだ。俺だって男の子だもん…
「あっ…」
「――っ!?」
そっとドライヤーのスイッチを切って、床に置いてそのまま両腕で彩花を包み込む。
……あったかいや…それにいい匂いがする…
「か、かかかか!和人!!」
「せ、せせせ、先輩!な、何してるの!!ブレーーイク!」
どれほどそうしていたのか…二人の声で我に返る。
「あっ、わ、悪い!」
慌てて、腕を解き立ち上がるが…き、気不味い。
霞は責めるような眼で俺と彩花を睨んでいるし、彩花は顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
ここは…
「あ、ふ、風呂空いたよな!!じゃ、入ってくるから!!」
逃げの一手しかあるまい…
――Side Ayaka Tatibana
バクバクと心臓が鳴る。
顔が熱く、きっと私は真っ赤な顔をしているだろう。
「……眠れない…」
霞に負けないように、私も和人に髪を乾かしてくれるように頼んだ。
和人の手が優しく髪を撫でてくれて…霞の言うとおり確かにとても気持ち良かった。
そして、和人がそのまま私を抱きしめた……
その瞬間、私の頭は真っ白になり、和人の体温と自分の鼓動の高鳴り以外何も分からなくなった。
目をつぶるとその時の感触を思い出してしまう。
眠気なんて全くやってこない。
お風呂から出た和人は、時間を置いて多少落ち着いた私に気の迷いだ。すまなかったと謝ったが、私としては嫌じゃない。
むしろ残念だ。もし、和人が私を想ってくれていて、あんな事をしたなら…
「〜〜〜!!」
ゴロゴロとベットの上で一人悶える。
今夜は眠れそうにない…
――Side Kasumi Misora
ベットに入ってもちっとも眠気が来ない。それどころじゃないのだ。
ぐるぐると思考がループする。
「先輩、どうしてあんな事したんだろ…」
彩花さんを後ろから包み込むように抱きしめていた先輩。
その姿を見たとき、ボクは一瞬見惚れてしまった。
とても絵になったのだ。そして、その時の二人はまるで恋人みたいに…
「……やっぱり、彩花さんが好きなのかなぁ」
ボクにはそんなことやってくれた事ないのに…
「それとも…胸かなぁ。先輩も大きい方が好きなのかなぁ」
自分の胸を触ってみる。大きさには自信がないけど、形はいいと思う。
何でこんなことを考えているんだろう…なんだかむなしくなってきた。
「……先輩の馬鹿」
そうだ、あんなことやった先輩が全部悪いんだ。
そう結論付けて、寝ようとするが、どうしてもさっきのビジョンが浮かんでくる。
当分寝付けそうにない…
――Side Ather
二人の少女が眠れない夜を過ごす事になった原因はと言えば…
「すぅ〜」
平和そうにすやすやと眠りについていた。
氷室和人、結構図太い男である。
翌朝、彼が寝不足の二人に叩き起こされ、八つ当たりされるのは言うまでもなかった。
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