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雪の日の約束

作者:なるばなな
「わあ~これ、なに?」
始めての冬を迎えた子ぎつねのエルルは、地面にふかふかと積もる白いものを見て言いました。
足を踏み出すと、小さく音がして、足がふかふかに埋れます。
「これ、ゆきっていうんだって」
隣では、同じく初めての冬を迎えた友達のマロンが、小さな手で丸い玉を作っていました。
「ゆき?わっ、つめたい!」
ふかふか積もる"雪"を手にとったエルルは、その冷たさにびっくりしました。
「なにつくってるの?」
マロンの手元には、小さな雪玉が三つ。そのうちの一つを手に取ります。
「いくよ、えいっ!」
「わっ!」
マロンが投げた雪玉は、見事、エルルのお腹に命中しました。
「ゆきがっせんっていうんだよ、いっしょにやろ!」
「ゆきがっせん……たのしそう!よーし、こんどはあたらないように……」
そんなことを言っているうちに、二発目が飛んできました。
「ひゃあ!」
「ふっふっふー、よけてるだけだったらあたっちゃうよ~」
「そうか、ぼくもしろいたまをつくらなきゃかてないのか!」
「きづくのおそいよ~」
小さな二人は真っ白な雪の中、笑い合いました。
ぴょんぴょん飛んでよけたり、雪で壁を作ったり、両手で投げてみたり……。雪合戦はそれはそれは楽しいものでした。
「これね、ころころころがしたらおっきくなるんだよ」
雪合戦を飽きるほどやって疲れた頃、マロンが言いました。
「マロンはものしりだね」
「おかあさんにおしえてもらったの」
そう言って、小さな雪玉を転がし始めました。
「わっ!すごい!」
小さな雪玉はみるみる大きくなっていきます。
「ぼくもやる!」
エルルは張り切って雪玉を転がしました。
転がすのは思ったよりも難しく、なかなかきれいな丸になってくれません。
「マロン、じょうずだなぁ」
「えへへ」
行ったり来たりして、ころころと転がします。ふと、マロンは立ち止まり、もう一つ小さな雪玉を転がしました。
「もうおっきくしないの?」
「ゆきだるま。もうひとつつくって、これにのっけるの。これはかおのぶぶんだよ」
エルルはこの言葉で初めて、雪で自分たちを作ろうとしていることを知りました。
「ゆきだるま……ゆきってすごいね!なんでもできちゃう!」

しばらくして、二匹の雪だるまが出来上がりました。
二匹の身長とほぼ同じで、まるで二匹の分身のようでした。
耳をつけて、雪の下から一生懸命探した木の葉をのっけて。
「これできつねっぽくみえるね!」
二匹は雪の下からドングリも見つけて、目や鼻をつけました。
「わーい、こっち、エルルね!」
「じゃあこっちはマロン!」

暗くなるまでめいいっぱい遊んだあと、
「わたしもおかあさんみたいなりっぱなきつねにならなくちゃ」
マロンがそう呟きました。
「?」
この時のエルルには何のことなのか分かりませんでした。
マロンはにっこり笑って、「ばいばい、またあした」と言うと、家に帰っていきました。

次の日、昨日雪だるまを作った場所に行ったエルルは、雪だるまの隣で泣いているマロンを見つけました。
「どうしたの?」
エルルは駆け寄って、尋ねました。
「ううん、なんでもない。きょうもあそぶ?」
小さな手で涙で拭いながら言いました。
エルルは少し心配でしたが、笑顔で「あそぼ!」と言いました。
二匹は昨日と同じように、雪合戦をして、雪だるまの代わりに"かまくら"というものを作りました。
「すごい、あったかいね」
かまくらの中で、二匹はぬくぬくと暖まりました。
はしゃぎすぎて疲れたエルルは、いつのまにか眠ってしまいました。
「マロン……?」
エルルが目覚めると、辺りは真っ暗でした。マロンの姿はありません。
慌ててかまくらを飛び出したエルルは、マロンの雪だるまの上の木の葉がなくなっていることに気付きました。
「マローン!……家に帰ったのかな?」
エルルはマロンの家に行ってみました。マロンの家からは誰の気配もしません。
「……おかあさんね、しんじゃったんだ」
後ろから声がしました。
「だからね、わたしがかわりにむらびとにならなきゃいけないの」
マロンのお母さんは立派な化けぎつねでした。村人に化けて、みんなの食料を作ってくれていることはエルルも知っています。
「でも、マロンまだこぎつねでしょ?」
「うん。でもほらみて、ばけれるようになったんだよ」
マロンは木の葉を取り出して、小さな女の子に化けてみせました。ですが、お尻からはふさふさの尻尾がのぞいています。
「しっぱいしちゃった。でもね、わたし、おかあさんのかわりになるよ」
「ほかのおとなをさがそうよ。ぼくもおとうさんとおかあさんにそうだんしてみるから」
「エルル……エルルのおとうさんとおかあさんもね、わたしのおかあさんのかわりになろうとしてくれたんだ」
悲しい顔をして、マロンが言いました。
「!!」
その言葉を聞いて、エルルはマロンの家を飛び出しました。急いで自分の家へ向かいます。
家からは血のにおいがしました。
「おかあさんっ!」
エルルは家に飛び込みました。
「エルル、お母さんね、村人に、化けてみた。きつね族の大人、全員で。お父さんは、連れて帰って、これなかった。ごめんね。マロンの、お母さんはね、いなり寿司で、騙されたの。きつねは、お揚げさんに、弱いから……。きつね族の食料は、マロンの、お母さんに、まかせっきり、だったから、誰かが、やらなきゃ、いけなかった、の」
「おかあさん!しゃべらないで!しんじゃうよ!」
エルルのお母さんのお腹からは、血が溢れ出しています。床は真っ赤に染まっていました。
エルルのお母さんは、エルルの言葉を無視して言いました。
「でもね、失敗しちゃった。大人数で、行ったもんだから、さすがに、怪しいと、思われたのかな。また、いなり寿司で、計画は、失敗。このとおり。撃たれちゃった」
「おかあさん!おかあさん!」
「マロンと、強く生きるのよ」
そう言ったきり、お母さんは動かなくなりました。
「わたし、いかなくちゃ」
いつのまにか隣に来ていたマロンが、決意したように言いました。
「まって、ぼくをおいてかないで!」
マロンを引き止めるエルルの目には自然と涙がたまっていました。
「おかあさんのかわり、しなきゃいけないの」
マロンは何かに取り憑かれたように、そればかりを繰り返しました。
「みんな、いなくなっちゃったんだよ。このむらのきつねはもう、ぼくたちしかいないんだよ」
エルルはどうにかしてマロンを止めなければ、と、思いました。
「エルルのごはん、ひつようでしょ?」
「ぼくたちだけなんだから、はたらかなくてもごはんぐらいみつかるよ」
「わたしいかな……」
「マロンまでしんじゃったら、ぼく、どうしたらいいの!?このむらにはもう、ぼくたちしかいないんだよ!?」
その言葉で、マロンは何かに気付いたように、はっと目を見開きました。
「ごめん、エルル、ごめんね……」
目からぽろぽろ涙をこぼしながら、二匹は泣きじゃくりました。
空は薄明るくなり始め、朝の気配を見せています。
「ぼく、がんばってばけれるようにれんしゅうするから。ばけれるようになったらさ、いっしょにむらにいこう」
目を赤く腫らしたエルルが言いました。
うん、と、小さくマロンが頷きます。
小さな二匹は大きな約束を交わしたのでした。

それから三年。
かつての賑わいをほんの少しだけ取り戻したきつねの住処では、二匹の子ぎつねが雪を見て驚いています。
「とーたん、かーたん、これ、なに?」
「これはね、"雪"っていうの。お父さんとお母さんの、大切な思い出。」

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