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  Dungeon Maker 作者:蝉時雨
第8話 淀んだ心は
 どこか懐かしい、青々とした空。鳥の鳴く声と風に吹かれる草の音が心地よい。
 昔約束を交わした大きな、とても大きな桜の木の立つ丘の上。そこに立つ、僕の姿。
 ああ、これは夢だ。子供の頃の夢だ。幼き頃、まだこの手が罪に汚れ変わり果てる前の夢――。

 あの頃の僕は、まだ何も知らず何も出来ない子供だった。
 嗚呼、でも彼は違った。
 彼は何でも出来た。
 誰よりも強く、誰よりも高く、誰よりも尊い。
 それは眩しくて眩しくて。
 嫉みなんて生まれなかった。
 ただ、憧れていた。
 しかし、彼女が現れて僕は変わった。
 彼女は強く、気高く、眩しく、そして美しかった。
 欲しかった。彼女が欲しかった。彼女の全てが欲しかった。
 でも、僕には手に入れられなかった。触ることさえ出来なかった。
 僕は影で彼女は光だ。
 相容れない関係。対極の関係。絶対的に隔てられた関係。
 だから僕は彼になりたかった。
 彼は光だ。美しき光だ。
 彼は手に入れた。僕が欲して止まない光を。
 その時初めて生まれた感情はなんと名付ければよいだろう。
 僕は彼女を手に入れるため、彼になることにした。
 彼の全てを手に入れようとした。
 だから僕は――。



 嫌な夢を観た気がした。
 おそらくは罪の夢だ。幼き頃に犯した罪の夢。
「何で、また………」
 昨日、シモンと故郷の話をしたからか?
 許される罪などでは無いのは解っている。だから僕は背負っているんだ。君の全てを。
 なのに何で、まだ責める。償うことなく死ねというのか?
 君は僕のしていることはただのエゴだというのか?
 身体がじっとりする。寝汗がひどい。シャワーでも浴びないといけない。
 立ち止まるとまた考えてしまう。忘れたかったが、忘れさせてくれない。ならせめて、別の事を考えなければ耐えられない。
 すっと立ち上がり、寝間着を脱いでシャワーを浴びに行く。

 バスルームから出てきた後も、身体はさっぱりしても気分は冴えず。ただただ嫌な感情が湧きだすばかりだ。せめて、人前では平然としなければ。
 今日はレイニーの依頼で、『蒼碧の森』へ、以前話していた閠耀石ぎょくようせきの発掘隊の護衛をする事になっている。
 護衛なので、必然的に戦う人数も多くなる。詰まり、集団戦なのだ。
 しかも、護衛は常に受け身だ。意外ときつい仕事となるだろう。
 協会も護衛業は奨励しているため、後手に回る集団戦が嫌という理由だけで辞める訳にはいかない。それにレイニーの依頼でもある。

 手早く荷物をまとめ、階下に行き、ティエリッタさんの作った朝食を頂く。
「ご馳走様です」
 出かけます、と一言。ティエリッタさんは「はい、行ってらっしゃい」と返してくれた。
 普段彼女は挨拶を返したりしないため、驚いてしまった。今日は機嫌が良いのだろうか。
 荷物を背負い宿を出た。そういえば、レイニーから他のメンバーを聞いていなかった。
 ひょっと立ち止まり、考える。
 人数は確か十名程度だったか。
 まぁ、誰でも関係ないかと再び歩きだす。
 目的地は王立銀行前『サンライズ・ラ・フォーレ』。名は仰々しいが、ただのでかい公園だ。一応、花等が綺麗に咲き誇り、だだっ広い代わりに真ん中に噴水があったりとデートスポットではあるらしい。
 噴水前には大体のメンバーはすでに集まっていた。
 僕を含んで、八人。レイニーも様子見で来ている。しかし、機嫌が悪そうだ。
「よう。遅れたか?」
「ユキトか。大丈夫だよ。余裕ある」
「何でそんなに機嫌が悪いんだ?眠いのか」
「お前と一緒にすんな。依頼した内三人がボイコットしやがった」
「あー………」
 護衛業は意外とそういうボイコットが多い。あくまで探索のためのダンジョンメイカーであって、護衛業は責務ではないとかなんとか。
 確かに責務ではないが、ダンジョンメイカー自体責務ではない。免許か何かがあるわけではないのだから。
 倫理的に考えたら、依頼放棄はの時点で人間失格である。
「八人居たらいいじゃんか」
「ん。そうだな」
 ふと周りをざっと見回してみると、見知った顔があった。というか全然気が付かなかった。
「シエル。なんだ、珍しい。一人か?」
 無表情だったシエルはいきなり破顔して、泣き出した。
「ふえぇー。ユキトくぅんー。さみしかったよぉー」
「………」
 なんだコレはっ!?
 どういうシチュエーションだ!?いやまぁ、嬉しいのは嬉しいけどさ、でもやっぱ恥ずかしい!
 レイニーもニヤニヤして見ている。ってか見てんじゃねーよ。
「んじゃ、そろそろ隊に合流しまーす」
 レイニーは白々しい感じでそう言いつつ、隊の元まで案内しはじめた。

 隊の合流までにシエルを落ち着かせ、泣いてる訳を聞くことに成功した僕は唖然とした。
「えと、今日はレイニーさんから依頼もらったんだけど、本当は二人も来るはずだったんだよ」
「アニエとリュカか?」
「うん。なのに………ひくっ、二人してボイコットしてぇ……えーん」
「あーあー泣くなよ。ってか」
 あいつらヒデーな!人間失格近くにいたよ!!
「んで嵌められて独りぼっちだった訳か」
「うん」
 なんというかシエルは所謂寂しがりやなのだろう。どんなけあいつらに依存してるんだよ。
 常に独りの僕には解らないものだった。いや、かつては知っていた。忘れただけか。
 何ともまあ、最高に厄介な事になったな。
 そうしている間に発掘隊の待つポイントに来た。荷馬車が二台と十数名の隊員がいる。
 荷馬車を二台投入できるあたり有力な企業だろうな、と推測。
 合流後、発掘隊の隊長マグターノは諸注意等を説明した。
 曰く、隊員の安全が優先。僕らは退却の際、四人は殿につくこと。持ち場を離れてはいけない。隊長の命令は絶対等々……。
 身勝手な内容だ。僕も帰りたくなってきた。
 しかし、仕事は仕事だ。それに先程アニエとリュカを心の中で罵倒した手前、帰る訳にはいかない。
 護衛隊の八人は馬車の荷台に順次乗り込んでいく。
 荷台は思いの外広かったので、苦しい思いはしなくて済みそうだ。が、恐らく帰りは荷台に石も積まれるだろう。そるを考えると少々憂鬱になった。
「では出発する!」
 マグターノの掛け声で二台の馬車は走りだした。
 そして己の名付けた森へ向かう。

 不規則に揺れる馬車は何処か僕の心を表すようだった。


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