第4話 貧乏暇無し
今日は先日の悪夢で財布がツンドラ並みに凍り付いたので、生活費確保のため、否応なしに探索しなければならなくなった。
ダンジョンメイカーの稼ぎは大半が地図と情報だ。
協会に地図を提出したり、有益な情報――信憑性の極めて高いものだけだが――を報告することで報酬を貰う。
また、地図は現在登録された地図と更新された地図の差と協会の指定した土地ごとの危険度で決まる。
一応、僕のは新しい開拓地だったので簡単に描いただけの地図でかなり報酬がもらえた。
『鬼火』に帰路を手伝ってもらったため、全額僕に譲ろうとする相手側の意志を却下し、全体の3割を貰い、残りは『鬼火』に渡した。
――6割にすればよかったっ………!
心から思ってしまう卑しい僕は後悔からくる溜め息を何回かつき、情報を集めに出歩いている。
昨日は休むために暇をとったのに余計疲れた気がする。
出来るだけ簡単な場所にしたほうがいいかなと考えながら歩いた。
たどり着いた先は『Raineys Goose』。
基本的にレイニーはどんなモノも売買している。武器、宝石、素材各種――そして、情報。
「昨日の今日に来るなんて珍しいな。どうかした?」
「ん。実は昨日――」
斯く斯く然々と昨日の出来事を話すと、レイニーは始めは我慢していたが、堪え切れずに笑いだした。
「笑い事じゃない。お陰で久々の飢えの危機だ。このままじゃ家賃もヤバイ」
「いやいや、……プクク。羨ましいよ?あの娘ら意外に有名だしな、両手に花ってか?」
「刺々の薔薇だがな。お陰で傷だらけだ」
「あっはっはっ」
「笑いすぎだ」
ゴスと数発殴り付け黙らせる。
「あー笑った、笑った。んで?生活費確保のための簡単な開拓地?」
「ああ、頼む。料金は後払いだ」「それはいいが、お前開拓地舐めているのか?」
「なに?」
急に空気が冷えた気がした。レイニーは真剣な顔にシフトしている。
「ソロに簡単な開拓地なんかねぇよ。何処も危険だよ」
そんな事は百も承知である。
「知ってるよ」
「いや、解ってない。いい加減誰かとパーティー組め。お前いつか死ぬぞ」
「それこそ余計なお世話だ」
いつの間にか自分の声が低くなっていたことに気が付いた。
「………」「………」
両者共に口を閉ざし、しばし沈黙がながれた。
何分たったろうか、凄く長かった気がするが壁に掛かった時計をちらと見るとたかだか4、5分しかたっていない。
先に折れたのはレイニーだった。
「――わかったよ。今んとこ何処も危険だ。強いて言うなら第17番『虎口の魔窟』だな」
「留意点は?」
「マッピングが困難だ。通路はともかく、自然にできたであろうドームは風化のせいで簡単には計測できない」
「物差しなんかに頼るからだ」
「お前の計測ははっきり言ってやり方からして他人にはマネできねーよ」
「先生は簡単にやってたよ」
「そうかい。まあ、計測はお前なら大丈夫だな。後は、人狼だ」
「人狼って、ワーウルフか?あれは森に生息する生き物だぞ」
「そうだ。ワーウルフ、人狼、好きに呼べばいい。あいつらは生態系が曖昧だからな。まぁ、米粒程度の数値の統計で割り出した情報に正確も無いがな」
僕自身は人狼に出会ったことはない。が、話だけは聞いたことがある。悪魔の眷属だの、人と狼の混血だの、色んな説はある。
一概にどれが正しいとは言えないが、唯一言えるのはその速さ、膂力は一撃必殺だということだ。
「はあ……本当に死ぬかもな」
先行きは不安だった。
レイニーに別れを告げ、一旦自宅――というか貸し宿に帰り身支度をすることにした。
愛刀《雲霞》と脇差《桜凛》を携え、携帯食や地図一式を袋に詰めていく。
宿の主であるティエリッタさんにまた出かけますと一言挨拶し、宿を出た。
『虎口の魔窟』はここから大体三時間程度で到着できる。
然程離れていないのに発見が17番目と遅かったのは洞窟入り口を岩が塞いでいたからである。
何日で終わるだろうか思案していると、金髪の少年がぬっと現れた。
「ユキトせんぱーい」
「……」
ここは知らぬ存ぜぬの態度である。
「先輩?あれ、無視ですか?」
「……」
反応したら負けだ。
「聞きましたよ!『虎口の魔窟』に挑むんですよね!?いやー凄いなー」
何で情報屋の癖に口が軽いんだよレイニーィィィ!!
情報を漏らした犯人を心の中で呪う。
しかしまあ、スゲースゲーと煩い奴だ。恐らく何か反応しないと現地まで付いてくるだろうと判断し、仕方なしに答えることにした。
「向かうつもりだ。生活費稼ぎにな。それでなんだ、ヤハウェイ」
「俺も連れてい……」
「却下だ」
所詮そんなことだろうと思ったよ。
ヤハウェイは以前開拓地で襲われていた所を助けてからの付き合いだ。
それ以来妙に懐いているのだが、欝陶しい。
「やっぱり壁は要りますよ!俺頭は悪いけど頑丈っすから!」
「お前の頭の悪さは知っている。それと壁は要らん」
「ひどいっす」
ヤハウェイはパーティー戦に於いて、敵の攻撃を受ける壁役である。
タンクは頑丈さと何より化け物の強靱な肉体という武器を受ける勇気がいる。
ヤハウェイはフリーランサーとしてこの職についてまだ半年。伸び盛りに人狼の餌食になってしまうのも、僕個人としては好ましくない。
「人狼は簡単には倒せない。お前、人狼は馬鹿正直に真正面からしか攻撃しないと思ってんのか?」
「違うんすか?」
「奴らはスピードもある。翻弄し、隙を突き仕留めるのが奴らのスタイルだ」
「へー」
本当に解ってるんだろうか。まぁ、解ってないんだろうな。
然し、どうあっても付いてくるつもりらしい。
お守りしながら戦うのは真っ平御免だ。
――何処かで撒くか。
道中の店の角で撒こうとした瞬間、
「ちょっと待ったぁー!」
と聞き覚えある叫び声。
然もつい最近、もっと言えば昨日に聞いた。
悪魔の声だ。
振り返ると、案の定昨日の三人娘だった。
「なんだ。今日は金無いから奢らないよ」
「解ってるわよ、そんなこと」
心なしかアニエにいつもの勢いが無い気がする。すると、シエルが進み出てきた。
「えっと……、そのことでなんだけど。レイニーさんからユキト君が金欠で、その……」
「生活費稼ぎに『虎口の魔窟』いくって聞いたんだー」
「へぇ……」
レイニー君。探索から帰った次の日がキミの命日だ。
「そんなわけで、昨日はやり過ぎた感あるからお詫びに手伝ったげるってことよ」
とアニエが締括ってくれたが、敢えて言おう、お詫びってんなら今日、明日、明後日くらいはほっといてくれたら十分です。
「あの……、迷惑……かな?」
「いえ全然」
シエルの魔力、いや魅力に僕は負けてしまいました。
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