第28話 悩み多き少年は何処へ行く2
「すると兄ちゃんと嬢ちゃんは騎士見習いかィ」
「元、騎士見習いです。僕は修練騎士を辞めた身です」
「はい。私もです」
「そうかィ。若ェのに苦労すんなァ」
ワハハハという、アルグの暑苦――快活な笑い声。いや、やっぱ暑苦しい声が響き渡る。
何がどうなってるんだ。
アルグは事の次第をエクセルから聞くなりあっさり推薦を出した。
元々TSSがこの事態に関わるであろう事は予想できたが、まさかアルグが推薦を出す状況は読めなかった。
アルグ曰く、僕が騎士団と共に彼の地『死薔薇の園』に赴いていた事は予想していたらしい。しかし、改変までは予想できるはずもなく、今回の協会側の募集で騎士団パーティー壊滅を察したので、僕の生存率はアルグの中で3%くらいだったそうだ。失礼な奴だな。
アルグが推薦したのはやはり内部情報を知るものが欲しいと思ったかららしい。無償で教えてくれるはずもないと先に手を打ったわけだ。それを思えばあっさり推薦したのも頷ける。抜け目無い奴ではあるが。
「なあ、そういや今回もTSSがトップで動くのか?」
「お?おォ、そうなると思うぞィ」
募集で召集された即席パーティーなんて統制が執れるはずが無い。だから、大体有力な者がまとめる形になる。アルグはかなり有名な人間だし、人望も厚い。反対意見はそう多くない。
そもそも戦いになれば大体乱戦だから進退の指揮等だけすればいい。ギルドの頭を張れる奴なら誰でも出来たりする。だけど、それだと派閥みたいなモノができてしまうから、有力な人間に任せているのだ。ほとんどTSSか『蛇竜』『CoE』『小心者』『戦鬼隊』のような有名所のマスターが台頭しているが。
「にしても兄ちゃん。そのお嬢ちゃんはお前の隠し子かィ?」
「違う。ユフィの所のだ。絶賛家出中だそうだ」
「ほゥ……。しかしその髪……」
「何か知っているのか?」
「いや、気のせいだろィ」
「……?」
よく解らない奴だな。モヤモヤするじゃないか。まぁ、また今度聞けばいいか。というかアイリス、さっきから起きる気配が無いんだが。お陰で膝に抱えてなんともメルヘンな感じになっている。この娘は起きててもそうだが、眠っているとより一層人形みたいなのだ。
まあ、それよりも目先の問題が大事だ。アルグさ今の事態を理解しているのだろうか。
「アルグ、アンタの事だし承知だとは思うけどな、今回の協会の募集かなりエグイぞ」
「それには同感でィ」
「どういう事だ?」
エクセルは解っていないようだ。だけど教えてやるとそれはそれでショックを受けそうだ。コイツの場合落ち込むより逆上しそうで怖い。まあ、言わなくてもキレそうだけどね。
「女王陛下も粋なことをするなってねィ」
「女王陛下だと?」
「要は今回の募集は協会じゃなくて女王陛下の意向だ。騎士団の名誉を守るためのな」
「そうなのか?」
「つまり騎士団と同じく壊滅させるためにパーティー募集したってこと?」
「エグイねー」
「簡単に言うならアニエの言う通りだな」
「女王陛下がそんな事を……」
「お嬢ちゃん、多分陛下も結構悩んだと思うぜィ?だからよォ……あんまり悩むなよィ」
「はい……」
ソアラは内心動揺を隠せないでいる。無理もない。
しかし、アルグは慰めでそう言ったのだろうが、こんな短時間で執り行われたんだ。女王陛下は多分即決したろう。悩みもしていないはずだ。常に最前の選択をしなくてはならないのだ。限りある時間の中で。それが女王陛下だ。
しかし意外にもエクセルはその瞳に尚一層の決意を宿らせていた。
「何にせよ、これは僕にとって仇討ちの機会なんだ。女王陛下の御意思がどうであれ僕の為すことに変わりはない」
何でエクセルはこんなにも真直ぐでいられるのだろうか。少しだけ羨ましく思ってしまった。僕にもそんな強さがあればと思う。
どうせもう手に入らないものだけど。
暫く沈黙が続いていた。皆何かしら考えることがあるのか。しかしながら沈黙に僕は珍しく耐えかねたので、これまた珍しく自分から沈黙を破った。
「結局、何人まで絞られるんだろうな。パーティーメンバー」
「先着順って訳じゃないからなァ。明日の分も多少は入るから、最大四十人くらいかィ」
「四十人…………」
あの時のおよそ四倍か。それで全滅すれば確実に『死薔薇の園』は攻略不可能ということになる。立入禁止区に認定されるだろう。実際、立入禁止区に認定された土地はいくつか存在する。
そうなってしまえば、二度と黒タイツを殺すことは不可能だろう。僕としては、いや皆にとってもそれは困るはずだ。エクセルやソアラには仇討ちという目的もあるのだ。アルグも負ければTSSの名折れだろう。出来る事なら皆死ぬことなく目的を果たしてほしい。僕はもうこれ以上無駄な犠牲を出したくないのだ。
その思いを察したのかアルグが頭をわしゃわしゃしてきた。それは心配いらないという意思表示だろうか。何にせよその手の感触は父親めいたモノを感じさせた。僕に父親の記憶はないけれど、多分こんな感じなんだろう。少し気恥ずかしくなって顔が赤くなってしまい、隠すのに苦労した。
帰り道、眠ったままのアイリスを背負って僕は『ロイヤルキングストリート』を歩いていた。取り敢えず、ユフィにこの娘を返さないと。宿に帰れない。
多分、ユフィは『シトライネス』にいると思う。風も何げに寒いので早く屋内に入りたい。
僕は早足で向かった。
「やーやーユキト君、来てくれると思ったよーん」
「ボルテージ最高潮だね。ユフィ」
「新作ケーキを無料で食べれるんだもの」
「あ、そ。てか、忘れ物」
「あら子猫ちゃん」
マジで「子猫ちゃん」と呼んでおられたこの人。なんて底が浅いんだ。
「出ていったの気付いてないのか?」
「知ってるよ?」
「じゃあ、なんで探しもせずにこんなとこ居るんだよ。保護者みたいな者だろ?」
「気が付いたらどっか行ってたのよ」
「尚更探せよ」
「いやーん」
何がいやーん、だ。お前を母親に持った子供は間違いなく苦労するね。賭けてもいいよ。
しかし気付いたら居なかったね。余程気を抜かない限りユフィ程の戦士なら気が付くと思うが。完全にボケーっとしてたのか、アイリスがそれだけ存在感無かったのか。もしくはそれ以外か。今のところは解らないな。
「何にせよ、『聖なる薔薇』の持ち物だろ?返しとくよ」
「あらそう?気に入ったならあげてもいいわよ?」
「いい。大体人をあげるあげないの話はおかしいだろ。あと、僕は用事あるから金だけ置いてく。新作ケーキは…………」
僕はそう言ってメニューを見た。そしてその値段のあり得なさに驚愕した。目でも飛び出しそうだ。
「高すぎだ!あり得ない!この前のパフェより高い!」
「新作だしねぇ」
「寧ろ安くするだろ!チクショー金無いのに……」
奢ると言った手前、嘘は吐けない。吐いてもいいがその場合、彼女の戦斧の餌食になる。間違いなく。それは勘弁だ。僕はまだ死にたくない。
仕方なく新作ケーキの代金を置いて、アイリスをユフィに返す。しかし、別に盗ったわけでもないのに、返すっていうのもおかしな話だ。それよりこのまま留まればユフィにもっと奢らされそうだ。早く退散するとしよう。というか絶対僕より金持ちだろ。なんで僕の財布から搾取するんだ。鬼か?
『シトライネス』を後にした僕は、最後に残った目的を果たしに『クァンジュ』に向かっていた。いるか解らないが行くだけ行こう。
勿論、シエルに会いに行くためだ。
あの二人を説得できたのも、『死薔薇の園』のパーティー募集の件をある程度片付けたら必ず謝りに行くと約束したからだ。実際謝らないといけない。
僕はあの時選択を誤った。自分が弱いから逃げ出したのだ。結局、傷付けてしまうなんて自分が弱いからまた八つ当たりしそうなのを逃げて誤魔化そうとしていただけだ。
なんて滑稽なんだ。馬鹿馬鹿しすぎる。行き着く先はいつも自分がどうしようもない臆病者だという事実だけだ。
謝ってどうにかなるかなんて思っちゃいない。だけど、何度も傷付けている、その事だけはきっちり謝らなければ。
『クァンジュ』に着いた僕は店内に入る。フリーランサーが屯している。邪魔だ。消えろ。いっそ打っ手斬ってしまいたい。シエルを、あの儚い一輪の花を見つけだすのにこの木々は邪魔だ、目障りだ。押すな、とか邪魔だ、という声が押し退けるたびに聞こえる。お前らの方が邪魔だ。さっさと失せろ飲んだくれども。
カウンターの方に行き着いた僕は、マスターに尋ねたが今日は来ていないという。まあ、アニエを連れずにこんな肥溜めに入るなんて危ない。いなくて当然か。
しかし、それなら何処だ?
宿か?
確かあの三人娘はルームシェアだったか。宿代の馬鹿高い王都じゃ珍しくはない。ティエリッタさんの宿はアレでも良心的なプライスだ。そんな宿は逆に珍しい。
にしても困った。僕は何処に住んでいるか知らない。招待されたことはあるが、いつも断っていたし(野郎の報復が怖いから)、大体アニエに妨害される。
ここでそれが裏目に出るとは……。
「いや、待て。一人確実に知っている奴がいる」
そうだ。
僕と三人娘が知り合う切っ掛けになった馬鹿がいる。そいつなら知っているはずだ。
何せそいつはシエルの追っかけだったのだから。
僕は西通り『ノワール・ナイトストリート』を駆けていた。王都は東に居住区等、西に歓楽街等、北に商業区、南に工業区と分かれている。長い年月でそう分かれたのだ。つまり西は歓楽街が集中するところだ。
十一区アムスフィア歓楽街。僕はそこに奴がいると踏んだ。生粋の女好きならそこしかない。
『宵闇通り』にある『魅惑の妖精小屋』に来ていた。まあ、なんてファンシーな店だこと。反吐が出るね。何せ入った瞬間化粧した女の子たちが一斉にいらっしゃいませの大合唱だ。変体どもにはさぞや壮観だろう。今の僕にはどうでもいい。
数多あるテーブルの一つに目当ての男の顔。どの娘をご指名ですかという声を無視してダッシュ。男の顔面に飛び蹴りを咬ました。
「べふっ…………!」
不様な声を上げテーブルごと吹っ飛ぶ。女の子たちが騒いでいるが知ったことか。
「よう。変態馬鹿鬼畜糞尿野郎」
「がっ……あ、お、お前」
「まだ女の尻を追い掛け回しているのか。さぞや楽しいだろうな」
「な、なんで今更……お、俺はもうあの娘から……」
「それは知ってるよ。まだ続けてるなら次こそ埋葬してやる。今日は別件だクラム君」
「な、何だよ……」
「シエルのホームを教えろ」
「は?」
「二度は言わない。教えろ」
「な、なんで……」
刀を少しだけ抜く。ヒィとクラムは呻いた。弱っちい奴だ。僕とは違うタイプの腰抜けだ。
「わ、解った。東の『ロークイン』て宿だ」
「住所は?」
「い、今書く」
手近の紙に持っていたペンで住所を書く。店の用心棒は僕が武器所持故か襲っては来ない。用心棒が用心か。意味無いな。
書き終えたメモを受け取り僕は店を後にしようとした。
「お客さん、こんなことは困るんですが」
漸く来るのか。心配しなくてももう来ねーよ。寧ろさっさと潰れろこんな店。
「修理費諸々はアイツに付けといて。あれ元凶だから」
「ちょっ……!」
そう言って僕は店を後にした。
その後あの変態がどうなったかなんて知りはしない。
メモに書いてあった場所、居住区近辺に位置する『ロークイン』に着いた僕は、中に入った。
意外に広々とした空間。ティエリッタさんの宿と同じく一階は食堂らしい。
「アンタ、何の用だい?」
宿の主らしき女性に声を掛けられた。しどろもどろになれば追い返されそうだ。しっかり答えるべきか。
「ここに住んでるシエルさんに用が。出来れば用件を伝えて頂きたい。『ユキトが貴女に話がある』と」
主は訝しそうだったが、渋々階段を上がっていった。いい人だ。
今更ながら心臓が早鐘のように鳴っている。そもそも会ってくれるか。追い返されそうな気もする。泣いてたらしいし。
あーテンパってきた。
かなりの時間待った気がする。下手をすれば数十年ここに立っているような感覚だ。しかし、時計は長針を升目五つ程しか移動していない。
いい加減呼吸も苦しくなってきた時、階段から人が降りてきた。宿の主だ。
依然として訝しそうな顔ではあったが、階段を指差して「203って書いてる部屋だよ」と言ってきた。つまり、入ってこいという意味か?多分そうとって構わないだろう。
「アンタあの娘の何なのかは知らないけどウチはそういうの御免だから」
「え?あ、いや。そういうんじゃないです」
びっくりするじゃないか。この宿の主、まさか僕がそういうのが目的で来たと思っていたらしい。心外だ。まぁ、要するに店子に手出しするなということだろう。しねーよ。
「そんなに長居するつもりもありませんから」
そう言って僕は階段を登っていった。
意外に年季が入っているのか、階段は上る度にギシギシ音を立てる。しかし僕にはその音さえ耳には入っていなかった。不安と緊張が押し寄せる。
まるで人の立ち寄ることを許されない神の領域にでも足を踏み入れた気分だ。
『203』の番号の書かれた部屋のドアの前に立つ。
生唾を飲んだ。喉がカラカラだ。珍しい。別に女性が苦手な訳でもないのに。ここまで緊張するのも久しぶりだ。
震える手でノックをする。
暫くの沈黙の後声がした。
「…………どうぞ」
その声を聞き、ゆっくりとドアを開ける。
それなりに広い部屋。おそらく僕の宿の部屋よりは広い。三人には少し狭いかもしれないが、十分だと思う。
入って左手の机に人が座っている。誰かなんていうまでも無い。
「…………シエル」
僕は卑怯で臆病だ。何度も逃げてきた。だけどもう今は逃げられない。立ち向かう、というのとは違うけれど、僕は向かい合わなくてはならない。僕はそのためにここに来たんだ。
臆病者にも意地はある。
たとえ無様でも。今だけでも僕は前を向いてやろう。
さあ、懺悔の時間だ。
僕は心の中で呟いた。
「お前の脳のスペックはWindows95程度だ」と言われた蝉時雨です。最早起動することを許されないのか・・・。今回はやたら長くなってしまいました。自分で読み返していると、「なんか外伝的なモノを書いたほうがいいなぁ」と思いまして。一段落つきしだい、この馬鹿な作者はまた冒険すると思われます。出来れば暖かく見守ってくださると嬉しいです。それでは。
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