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  Dungeon Maker 作者:蝉時雨
感想を頂きました。こうやって興味を持って頂けるということにとても感謝です。励みになりました。これからもよろしくお願いします。
第18話 生死の狭間にて4
 『死薔薇の園』の恐怖の象徴、黒いトカゲモドキのゲルゲシュはレオナルドを自慢のしなる右腕で砕こうとしていた。

 僕は、刀を携えそれを阻止すべく間合いを詰める。
 しかしながら、何処をどうやったらあんなもん止められる?ふざけてね?
 両刃の大剣をもってしても人の力では弾き飛ばされるのだ。
 アレをこの愛刀で受けたらどうなる?
「砕けるし!」
 最悪だ。
 だからって時間が止まるわけじゃない。そのまま僕はゲルゲシュに向かう。
 ゲルゲシュの右腕はレオナルドを粉々に砕こうとしている。いや、刃による分断か?どちらにせよ殺そうとしていることに代わりはない。
 僕は、刀を肩の位置に構える。狙うは奴の肩だ。
 鱗の境目を狙えばおそらく斬れるだろう。僕の《雲霞》は丈夫さには心許ないが、切れ味は最高だ。
 凰州の《刃の工房》瑠璃天竺にて《純血の刀匠》游崩ゆうほうの手によって鍛えられた作品だ。
 トカゲモドキくらい余裕で斬れる――はずだ。多分。

 奴の複眼が僕を捉えた。
 しかし遠心力を利用しているであろう右腕を止めることはできない。同時に右から攻められているため、奴の攻撃方法では左は使えない。多分っ!
「疾っ!」
 短く息を吐き出す。
 僕は奴の肩付近まで飛び上がり、鱗の隙間を探す。

 ――あれか。

 肩をしならせるならある程度の隙間はあるはず、という読みは正しかった。
 隙間が僅か一センチ程度開いている。
 僕はそこをめがけ、縦の一振りを与えた。
 しかし、さすが複眼だ。その図体でなんで回避体勢には入れるのか。驚異的な動体視力である。
 しかし完全に避けられなかった様である。先端部が当たった。
 傷は浅いか。

 しかし、無理な回避行動のせいで右腕の狙いがずれた。
 数十センチの差だがわずかにレオナルドから逸れた。ギリギリだった。
 無事レオナルドは壁に叩きつけられた。
「無事かレオナルド」
「き、貴様か。もう少し優しい助けができんか」
「無理無理。あれ限界」
「だろうな。しかしあれはなんだ?」
「ゲルゲシュだ。中級悪魔。知性は然程高くはないけど低くもない。厄介なのは目と腕だな」
「まあ、実際戦ったからな」
「戦ったアンタはスゲーよ。あいつの対処方法は『逃げろ』だから」
「敵前逃亡は万死に値する」
「んじゃ、戦略的撤退な」
 そういってレオナルドの首根っこを掴んで、遠心力で投げる。
「ぬおっ」
「ソアラ、後頼むぞ」
「え、あ、はい」

 三人には戦略的撤退をしてもらった。後は、ゲルゲシュをどうするかだ。
「あんなの倒せる訳ねーし」
 不意討ちも通用しない奴に勝てる訳が無い。せいぜい注意を引き付けるのがやっとだ。
「ギシャアアアア」
 ゲルゲシュが叫ぶ。
 邪魔されたのにムカついてるのか。短気な奴だ。
 右肩の傷はすでに塞がっている。たいした再生力だ。生半可な攻撃は意味が無い。

 ゲルゲシュが左腕を突き出した。
 間一髪で避ける。背後で轟音がした。
 ――次は右腕か?
 だが予想は大いに外れた。
 体を回転させて左腕そのままハンマーのように振り回す。
「おわっ」
 まだそれ程速くはなかったが、意表を突かれた。ジャンプで避ける。
 しかしそれが失敗だった。
 奴は回転しているのだ。当然右腕も振られている。
 僕は空中だ。
 奴の右腕が追い打ちをかける。ヤバい。これはやられる。
 無我夢中で空中で体を捻り、刀を振る。鱗の間など探してられない。
 しかし、がむしゃらな一撃が功を奏した。
 スパッと右腕が切断される。
「ギイィィィィィ」
 ゲルゲシュが悲鳴らしき鳴き声をあげた。赤ではなく緑色の血が噴き出す。きたねぇ。
 上手く着地した僕は、痛みで苦しむゲルゲシュを一瞬見やり、速攻で逃げた。
 ラッキーが何度も続いて堪るか。次は死ぬ。あんなもん。


 ソアラたちに追い付くのには然程時間はいらなかった。
「貴様、アレを倒したのか?」
 レオナルドは目を見開いている。アホか。そんな短時間で勝てるかよ。
「腕がたまたま切り落とせたから逃げてきた」
 今度は呆れ顔になった。失礼な奴だ。
「まぁ、腕を斬っただけマシか」
「マシどころか万々歳だよ」
「ならトドメまでさせ」
「死にかけが一番厄介なんだよ」
「臆病者め」
「なんとでも言え」
 レオナルドは詰ってくるが、そこまで嫌味を感じさせなかった。
 なんとなく、親しみを感じさせるやり取りであったように思う。
「それより」
 エクセルが口を開く。
「これからどうなさるんですか?サー・レオナルド」
 口の聞き方が僕と違うぞコノヤロー。
「残りの騎士を探さなければな」
「二人死んでるよ」
 僕が見殺しにしたようなものだが。
「サー・スティルキンとサー・ハルトマンが………」
 ソアラはもう泣きそうだ。
 かなり罪悪感が生まれる。
「そうか。殉職なら奴らも本望だろう」
 化け物に殺されるのが本望ね。馬鹿馬鹿しいな。口には出さないが。

「取り敢えず、今日は出来るだけ安全な場所を探したほうがいいよ」
 ダンジョンメイカーの心得の一つっていうか、一般常識だ。
「ゲルゲシュも僕らを見失ったろうし、しばらくは安全だ。多分、今日ここを脱出するのは不可能だ。休める場所を探したほうが良い」
「別に僕は疲れてなど………!」
「そうだな。貴様の言うとおりだ」
「サー・レオナルド………!何故こんな奴の………!」
「従うわけではない。ただ私の意見と一致しただけだ」
「………」
「じゃあ、宿探ししますか」


 ちょうど良い穴を見つけたのはそれから約二時間後だった。その間、悪魔と遭遇しなかったのは奇跡である。
「と、取り敢えず、ありあわせで作ってみました」
 ソアラがスープの入ったカップを差し出してきた。というか、その鍋とかどこに仕舞ってたんだ?
「ありがとう。そろそろ火は消しなよ」
「あ、はい」
 ソアラはカップを他の二人にも配る。騎士というよりは『良いお嫁さん』みたいだな。主婦の方が似合うぞ?
 自分の分のカップを持ってソアラは僕の隣に来た。
「と、隣、失礼します」
「ああ」
 肩が触れるか触れないかという微妙な距離。その微妙な隔たりはダンジョンメイカーと騎士の関係みたいだ。何故かそう感じた。
 スープを一口飲む。
 体が暖まる。
 『死薔薇の園』は少し寒いので、この暖かさは有難い。
「おいしい」
 感想を言ってみたが、いかんせん語彙が少ない。勉強を怠りすぎたか。情けない。
「あ、ありがとうございます」
 しかし、一応伝わったようだ。ソアラは嬉しそうにしている。その所為でハイなのか、アホな事を尋ねてきた。
「ユキト様。私たち、ここから出られるでしょうか」
「さあ。解らないよ」
 僕は占い師じゃない。先のことなんて解りはしない。その質問は無意味だ。しかし、素っ気なさ過ぎたか。マズイと思いフォローをいれる。
「出られるよう最善を尽くすしかないよ」
「そうですね………すいませんでした」
 そういって、二人とも黙る。
 どうにも気まずい間である。なんだ?このフワフワ感。気まず過ぎだろ。
 っていうか。
「レオナルド、なんでさっきから黙りこくってるんだ!」
「いや、お前たちの仲睦まじい姿を見たら邪魔できんだろ」
「解釈に齟齬がみられるな。大丈夫か?頭」
「いたって正常だ」
「あ、そ」
 エクセルまでこちらをじっと見ている。なんだその目は。
 ソアラも何故かあたふたしている。
「あー、くそ」
 僕は頭を掻き毟り、話題をなんとか変えようとする。っていうかなんでこんな苛ついているんだ? とにかく何か話題を探さなければ。

「レオナルド、そう言えば、なんで先生――『金獅子』を知ってたんだ?」
 一番気になっていた話題を思い出した。助かった。ありがとう先生。


 しかしながら、レオナルドの答えは驚きのものだった。
「『金獅子』クレイドル・ディオールは昔、近衛騎士だったからな」


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