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仮題「シャングリラ」第三章
作:月読天舞



第38話「世界の崩壊」


 日本の紫炎教本部は、その日、朝から暗雲が立ち込めた天気だった。まるで、神が怒っているような気配が、まざまざと紫炎教本部を支配する。怒り、悲嘆、憎悪、不安、そういった負の想念と呼ばれるものが、圧迫感となって紫炎やその従者の鈴や鋼を不安にさせていた。気が晴れないのは立ち込める現実の天候の暗雲のせいばかりではない。この世界の未来にも間違いなく暗雲が立ち込めており、それは実現しようとしている。

 壊れてしまう・・・・・・・・・・

 紫炎の心の中でその言葉が流れた。自分達が必死で動いてきた結果。今、それが出ようとしている。いや、出来た事、選べた事、それは誰にとってもあまり多くはなかったし、自分はこの世を俯瞰して見、いつも俗世から身を一歩引いた所で見続けていたのだけれど、それでも、この世界の崩壊など見たくはなかった。
 リューヤにリーンを救おうとする道を選ばせ、世界の崩壊の意味を悟らせ、それでもなお「足掻く者」としての道を選ばせた。運命を変える為に、リューヤをリーンの元に走らせ、七者会議を開いた。ジョー・アルシュとも面会し、何とか翻意させようとし、アレクシーナには世界の舵取りをしてもらおうとした。
 だが、どれも大きな成果とはならなかった。せいぜい成果と言えば、小さな運命が変わり、アレクシーナとリューヤの骨肉に近い争いを避けれただけの事に過ぎない。アレクシーナがやるはずだった宿命は、ジョー・アルシュに引き継がれ、リューヤは小夜子を選んだ。紫炎教という宗教を立ち上げ、多くの人間に関わり、小さな所からも運命を変えようと試みた。だが、結局、どれも世界の大きな流れを変えるには至らなかった。それは、ひとえに、自分の力が足りなかっただけなのかもしれない。
 自分の未熟さを呪う事もあったし、神の課した自分の、また世界の宿命を呪う事もあった。だが、呪ったところで同じなのだ。どう足掻いたところで変わらぬ事は変わらぬし、目覚めぬ者は目覚めない。ならば、この世界での自分の役割を知り、懸命に生きる事。それ以外にやれる事はなかったはずだ。そして、自分、矢口 涼子は紫炎として生き、人の宿命に関わり必死に生きた。
 時に冷静な預言者の仮面を被り、時に堪らぬ感情で涙した。そして、人々の先に見える様々な宿命と共に戦おうとし続けた。
 出来た事はまだあったかもしれない。だが、その事自体に後悔はない。
 それでも、目の前に定まったこの世界の命運を見れば、まだ、出来た事があったのではないかと悔やまれる。この先、即座に起こる事は、恐らく、確定である。誰にも避けられないだろう。
 それでも、リューヤ・アルデベータという男に期待したかった。「干渉者」でも「眺める者」でも「神」の味方でもない、ただ、この地に生きる者の味方・・・・・・・・そして、巨大な力を与えられた者に期待を寄せたかった。たった一人で世界を変える事は出来ない。それは、痛い程感じている。それでも、可能性がある方向へと動いたはずだ。リューヤもアレクシーナも小夜子もリーンも西条も私も。
 ただ、間に合わなかった事が酷く悔やまれる。後悔とは間に合わなかった時にする物だ。それが、今である。ただ、それだけの事だった・・・・・・・・・
「雨が降り始めました。」
 鈴が言った。
「嵐の予感がします。」
 鋼が続けた。
「この世界の終焉が」
「近づいている」
「予感がします。」
 紫炎は黙って二人の言葉を聞いた。この部屋に二人以外はいない。だが、講堂以外の紫炎教本部には盗聴器が残してある。演じなければならなかった。
「大丈夫。これから、禍つ事が起こります。ですが、彼なら・・・・・・リューヤ・アルデベータなら間に合わせれるかもしれません。」
 嘘だった。絶対に間に合わない。いや、今の状況では不穏な気配に気付くの関の山だろう。紫炎にはそれが分かっていた。
「そうでしょうか?」
「鈴は」
「鋼は」
「恐ろしくて」
「不安です」
 紫炎は予言者の仮面を被り静かに言った。
「彼らの動きに期待しましょう。何があっても、決して諦めてはなりません。」
 紫炎は雨の降り始めた外を見ながら、崩れそうな外面を必死に保っていた。




 西方連合の一国の作戦指令本部に入電が次々と入る。
「7211、6358、9マルマル、作戦開始。」
「7211了解。」
「6358了解。」
「5404、最終チェック完了。」
 本当にいいのか?作戦を聞かされてからずっとそれを考え、もう考え尽くした。結局、自分は軍人である。上の命令には逆らえない。それでもその疑問はずっと心の中で囁かれた。
 その男は今になっても、そんな事を何度も考えていた。この先どうなるかは分からない。だが、後戻り出来ない所にいこうとしている事は間違いなかっただろう。
「発射準備!繰り返す、これは演習ではない」
 男は自分の疑念を振り払って言った。「自分は軍人である」と言い聞かせて・・・・・・・・
「30秒前」
「25秒」
「20秒」
「15秒」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
「発射!!!」
 その掛け声と同時に、核ミサイルが空を飛んだ。












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