第36話「戦闘」
「リューヤー!!もう一人いったぞ!!」
小夜子は目の前の敵と剣を交え、鍔迫り合いのまま言った。喋った瞬間に、相手は一層剣圧を強める。小夜子は刀の方向を下へとずらし、力を逃がし脱出する。お互い距離を取る。
「さすがは、歴戦の勇者 水無月 小夜子。心躍る。名乗らせてもらおう。私はジーク・エ・ドルナミス。剣暦は30年だ。」
「私は水無月 小夜子。日本の一介のエージェントだ。」
「そして、リューヤ・アルデベータのナイト・・・・・・・・・」
ジークの台詞に小夜子が頷く。
「いざ、参られん。」
ジークはそう言って剣を小夜子の鼻面へ向けた。
まずい。2対1はまずい。ミハエルの技の正体が見えていない。何がしかの幻術か?それとも、何かの手段で信じられない高速移動をしているのか?小夜子が手こずっているとこを見れば、こいつらも「眺める者」から力を借りている俺達同様、「干渉者」から何らかの力を借りている。そして、その力は、今まで相手にして来た「干渉者」の使いの比ではない。足音が近づいて来る。来るのか?もう一人。心が焦る。はやるな、合気の修行の時を思い出せ、感覚を拡散させ。事態だけを事象だけを読むんだ。
リューヤが目を瞑る。
「降参か?リューヤ?」
ミハエルの声が聞こえる。殺気がもう一つ近づいて来る・・・・・・・・。ミハエルに銃を向けたまま。反対の手でもう一つの銃を抜き、素早く撃った。ミハエル以外のもう一つの殺気に向かって・・・・・・・・・
「グワッ。」
男の悲鳴が耳に流れ込む。致命傷ではない。だが、どこかにあたった。恐らく肩・・・・・・・その気配は分かる。
「無我の境地というヤツか?」
ミハエルの引きつった声が聞こえる。もう一人の男が殺気を向けて立ち上がる。リューヤは迷わず撃った。今度はかわされた。見えなくても分かる。
「光という最大最速の情報感知システムを遮断して、それより早い対応をする・・・・・・・・そんな事があり得るとは思っていなかったんだがな・・・・・・・・」
リューヤはミハエルの挑発に乗らず、喋らない。言葉を発すること。それが今ある感覚を鈍らせる。それは分かっていた。
ミハエルが合図する。男がリューヤに向かってくる。リューヤが銃を乱射する。敵は全ての弾丸をかわして、突進してくる。弾切れ・・・・・・・・致命的だっただろうか。リューヤは体の任せるまま、ミハエルに向けた銃口をもう一人に向けた。
「チェックメイト。」
ミハエルの声が聞こえ、次の瞬間にミハエルの気配が真後ろに現れた。銃口はリューヤの頭に向いている。ミハエルが引き金を引き絞る瞬間、リューヤの体に電撃のような光が走った。少なくともリューヤはそう感じた。あり得ない速度で、リューヤは発射された弾丸をかわす。
「馬鹿な!!!」
ミハエルの声がこだまする。居合いの達人の剣は、人が引き金を引き絞るよりも早く人を斬れる。だが、それは同じ動作を何万回、何十万回と繰り返し、考えるよりも早く動け、なおかつ何の無駄もない動きが身についての話だ。今のリューヤの動きは、やはりあり得ない。
男の突進が止まる。リューヤは倒れながら、銃口を男の額にあて何の躊躇もなく引き金を引いた。
生暖かい血がリューヤにかかる。
「ウォルター!!」
ミハエルの声が再びこだまし、リューヤはその動揺の隙に体勢を立て直す。
「リューヤァアアアアアー!!!!!」
ミハエルの声が三度こだまする。リューヤは乱射される銃弾をかわした後、目を開けた。弾の切れた拳銃のカチカチという音が聞こえる。ミハエルは手にした拳銃を捨て、もう一つの拳銃をクイックドローで取り出し、リューヤに向けた。リューヤの銃口もミハエルを捉えている。撃たなかったのは隙がなかったからだ。お互いがお互いの隙を探る。
小夜子とジークの間に何十合という斬り合いがあった。だが、その全てはお互いに傷を負わせる事が出来ていなかった。お互いが相手の力量を計り、お互いが最大の踏み込みを忌避した為、一向に勝負はつかない。どちらかと言えば小夜子の踏み込みが少し深い。隙あらば斬る。そういう動きだった。
だが、それらは巧みにかわされ、危険な反撃を何度も受けていた。しかし、小夜子もそれらの攻撃の全てを紙一重でかわしている。簡単に決まる勝負ではない。実力が高いレベルで拮抗し過ぎていた。
ミハエルの叫びを聞いて、ジークが距離を取った。
「ウォルターがやられたか。ミハエルも感情的になり過ぎておるな。2対2。武人としては望むところだが、戦略家としてはありえない。引き際か。」
ジークがちらりとミハエルの方を見た瞬間、小夜子が斬りかかった。予想された動き、ジークは何の問題もなくかわし、再び距離をとった。
「ミハエル!!!!目的を忘れるな!帰るぞ!」
「ウォルターが!!!」
ミハエルも声を出す。
「分かっている。互角の戦いをする為に我々は来た訳ではない。それを忘れるな!」
ミハエルはやり切れぬ顔をし、リューヤの前から消え、ウォルターの側に現れた。
「また、会おう。ミス水無月。ミスターリューヤ。」
そう言ってウォルターとミハエルは消えた。
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