第35話「敵」
アルテイル公国についたリューヤと小夜子は、不穏な気配を感じていた。
「見られてるな。」
「ああ。」
リューヤは不穏な雰囲気を振り払うように答えた。
甘かったかも知れない。アレクシーナ様の思考は悪魔憑きのβ能力者に読まれている。当然、ミハエル・コーターの事もロード・コーターの事も読まれていただろう。そして、それをそのまま放置するという事もありえない。ミハエルが簡単にやられるとも思えない。だが、次から次へとくる刺客の前に同じ場所に留まるという事が出来るだろうか?そして、ことこの状況になっても、アレクシーナ様の側に現れないという事は既に敵方についているかもしれない。人類の中にも破滅を企てる能力者がいる。今のところアリス・メーラーという女の事しか分かっていないが、ミハエルが敵になっていない保障はどこにもない。よしんば、敵になっていないとしても、味方になってくれるとは限らない。だが、もし味方になってくれれば、これ以上心強い味方はいない。
「行くしかないな・・・・・」
リューヤが呟き、小夜子が頷く。
二人はタクシーを拾い、β研究所へと向かった。
山道を歩く。昔に歩いた記憶が微かに呼び覚まされる。環境問題が叫ばれる中でも、この山だけはあまり変わっていない。
「気持ちのいい山だな。」
小夜子が素直に言った。その構えに油断はないが、少しだけ山の風情を楽しんでいた。
「ああ。ここは、あまり変わらないな。」
「こういうとこに隠棲する人間が、世界の壊滅を許すとは思えない。期待できるんじゃないのか?」
小夜子はリューヤの心情を慮っていた。
「そうだな。だといいが・・・・・・・・」
リューヤと小夜子は長い山道を登り続ける。木の葉の匂いや、たなびく風が心地よかった。
「小夜子、お前と初めて会った時、使った技・・・・・・・この辺で俺が初めてやられたんだ。」
「銃弾の気配をそこら中から出すあれか?」
「ああ。俺はここで、ミハエルに負けた。」
二人は登り続ける。
「私も最初は度肝を抜かれたよ。負けた時は正直悔しかった。」
「俺もだ。」
二人は軽く微笑んだ。これが世界の命運を賭けた道行きでなければ、楽しい遠足であったろう。
暖かな日差しの中を二人は歩き続ける。この、平穏な世界が崩れていく・・・・・・・そんな事があってはならないと、リューヤは小夜子の横顔を見ながら思った。
「なんだ?何か私の顔についてるか?」
「いや・・・・・・・・」
リューヤは照れ隠しに顔を背けた。
「あ、ついたぞ。」
山道の上にログハウスが見えた。二人がそのログハウスを見上げた瞬間、殺気が走った。二人が身構える。
「漸く、来たか。リューヤ・アルデベータ。水無月 小夜子。」
ログハウスの陰から三人の男が現れた。一人は知った男・・・・・・・ミハエル・コーターだった。
「味方になってもらおうと思って来たんだけど、そういう感じじゃなさそうだな。」
リューヤが銃を抜いた。
「俺は、お前の味方だ・・・・・・・・・ただし、敵でもあるがな。」
ミハエルも銃を抜いた。三人の殺気は本物だった。何かを試してるという感じはまるでない。
ミハエルの姿が急に消えた。
後ろ!・・・・・・・・リューヤと小夜子は前に転がった。
銃弾がリューヤの頭のあった辺りを飛んでいき、地面にめり込んだ。
なんだ?今のは?前にいた敵がいきなり後ろに現れた。そして、間違いなく殺す気でいる。
「前の二人は私に任せろ。お前はその男を!」
小夜子が前に走った。ミハエルの銃口が小夜子を狙う。リューヤが飛びつき、銃弾はあらぬ方向へ飛んでいく。
「本気か?」
馬乗りになったリューヤが問った。
「本気かそうでないか。分からないのか?」
「そうじゃない。あんたも世界を滅ぼす為に動くってのかって事だ。」
「それも本気か分からないのか?」
ミハエルが拳銃の底をリューヤの頭に向けて振り下ろした。リューヤはかわす。だが、替わりにミハエルは脱出した。
「この世界の再生に邪魔なんだよ。神の代理人。」
「俺はそんな偉そうなもんじゃない。」
リューヤが拳銃を撃つ。また、ミハエルの姿が消えた。
後ろ!?リューヤは前転して逃げる。銃弾はまたも、リューヤの頭のあった辺りを飛んでいった。
「我々、二人を相手にする気か?ミス水無月。」
「仕方ないだろう。リューヤは手が塞がっている。」
「ふむ。私に任せて貰えないかな?剣と刀。どちらが上か知りたいのだ。」
片方の男が剣を抜いた。
「なら、俺はリューヤを片付ける。」
もう片方の男が言った。
「いかせるか!」
小夜子が刀を払うが、剣で止められる。
「君の相手は私だ。」
「クッ。」
小夜子は刀を回し、剣の男に切りつけた。 |