仮題「シャングリラ」第三章(32/47)PDFで表示縦書き表示RDF


仮題「シャングリラ」第三章
作:月読天舞



第32話「黒衣の男」


「お目覚めですか?」
 真っ黒な服を着た男がジョー・アルシュに言った。ジョーは最近この防音設備のついた部屋の中で寝起きしていた。この男の来訪を受け入れる為である。ジョー・アルシュは軽く首を振り、眠気を頭から追い出した。
「ああ。それで、リューヤ・アルデベータの暗殺には成功したのか?」
「いえ、ミナヅキ・サヨコに阻まれました。」
「チッ」
 ジョー・アルシュは忌々しげに舌打ちをした。
「お前達も口ほどには使えんな。」
「はっ。仰せの通りですが、サヨコに深手を負わせました。少なくとも数週間は足止め出来るかと。」
「暗殺に失敗したとなればリューヤが単独で動いてくるだろう。」
「どうやらそれはないようです。リューヤはサヨコの看病につきっきりです。動く様子はありません。」
「また、下らん情に流されたか。こっちとしては願ってもない展開だ。世界の破滅と仲間の命を天秤にかければどちらが重いかは分りそうなものを・・・・・・・・・相変わらず甘いな・・・・・・・」
「こちらも準備を急ぐ必要があります。」
「そうは言っても、さすがに西方連合の連中も核を使うのには躊躇いがあるらしい。一国の責任にして、無理やりさせるか。連合全員の承諾は受けれなくとも。一国の核管理者を手中に入れるのはそう難しくもないと思える・・・・・・・・β能力者を動かし、催眠を使うか。」
「「禁忌」を取り除くプログラムは渡してあるはずです。それをお使いになればあるいは・・・・・・・・」
「そんな事は分かっている。お前に指図される覚えはない。」
「ハッ。出すぎた事を・・・・・・・・・・・ですが、この先を考えあなた様の護衛を三人ほど増やしたいと思います。」
「アレクシーナやリューヤが動くということか?」
「その三人、私の子飼いです。きっと役に立つかと・・・・・・・・」
「分かった。それは任せよう。」
「ハッ。その三人の名はアリス・メーラー、レー・ルーク・シェペシ、シーザー・ホワイト」
 ジョー・アルシュは頷く。
「他に言う事はあるか?」
「いえ。」
「ならば下がってよい。」
 その言葉が終わると黒衣の男はスッと消えた。
 ジョー・アルシュはフウと溜め息をつき、辺りを見回した。
 だいじょうぶ。うまくいく。そうよ。あなたの計画は運命が手助けするわ。例え、リューヤであろうとアレクシーナであろうと止められない。恐れるな。怖がるな。裁可はお前が下す。誰にも止めようがない。神がお前にはついている。愚鈍なる者に死を・・・・・・・・・・
 ジョー・アルシュは腕に浮かび上がった痣を見ながら、頭の中に流れる声を聞いた。




 黒衣の男が、廃屋の中に立っていた。他に5人の男女がいる。
「まず、言っておく。計画は順調だ。ほぼ当初の計画通りにあると言っていい。」
 黒衣の男がそう語った。
「アレクシーナの代わりにジョー・アルシュが立ち。小夜子とリューヤの関係も同じ方向へ修正した。」
「苦労したわ。小夜子にギリギリ死なない程の傷を与える。難しい注文だったわ。確実に殺・すならば、刺した後捻れば空気が入って確実に死ぬ。殺す気がなかった事が悟られないか冷や冷やものだったわ。」
「それは問題はなかろう。元々の流れがある。小夜子はあの時点で死ぬ流れになかった。我々が意図的に殺さない限り、小夜子は助かるさ。リューヤの意思もあろうしな。」
「そして、アリス・メーラーの名前を少女に語っておく。もちろん偽名だと思うだろうが、この後、ジョー・アルシュの側近につけば、いやでも気付く。」
「我々が挑発し、連中が動くように仕向けている事にだな。」
「そうだ。」
 黒衣の男が答える。
「だが、ジョー・アルシュをあのままつけ上がらせておくのか?我々は臣下ではない。対等な存在だと教えてやればいい。」
「奴の覇欲が萎えるだけだろう。うまい手ではない。ジョーだけが我々の中で特異なのも事実だ。奴は政治に特化した能力者だ。我々とは違う。知らぬから演じれる。知らぬからやれるという事もある。政治家特有の思い上がりも十分使うべきだ。」
「だが、選ぶのはジョーではないのだぞ。それを知らぬままでは、少々可哀相な気もする。」
「本人が幸せなら我々が口を挟むべき事ではないのでは?彼は知らずに演ずる。我々は知って演ずる。そこに大きな差はないでしょ?」
「それはリューヤにも言える事では?」
「彼は知ってはならない・・・・・・・・知っては意味がないのだ。彼は「選択する者」。我々とも彼等とも違う。」
「水無月 小夜子はその為の羊。それに変わりはない。」
「辛いのね、ミハエル。」
 アリス・メーラーが言った。
「そうだな。少し・・・・・・・・・・・な。」
 黒衣の男・・・・・・・・リューヤにα能力の使い方を教えた男・・・・・・・ミハエル・コーターはそう言って頷いた。












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