第30話「庭園の日差しの中で」
王宮の庭園。そこでリーンは待っていた。
デッキチェアーに腰掛けたリーンは、紅茶カップを片手に訪れた客を見もせずに
「来たのね。リューヤ。」
と言った。
「久しぶりだな。」
「七者会議以来ね。」
リーンはカップを白い丸いテーブルの上に置いて、リューヤの方を見た。
「二人で会うのはもう、何年ぶりだ?」
「そうね。二人きりで会うのは7年振りかしら。長い時間が掛かったわ。」
「俺は、お前を死なせた・・・・・・・」
「呼び戻してもくれたわ。」
「お前まで俺が生き返らせたというのか?」
「違う・・・・・・・・・でも同じ事かしら、「私」はあなたに呼ばれて生き返った。それは事実よ。」
「どういう意味だ?」
「それをあなたは知る事になる。でも、それは今ではない。今あるこの運命はきっと変わらない。だから、迷わず自分の道を行って・・・・・・・それがきっとこの世界を救う事になるから・・・・・・・・」
「俺は・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「お前のいない間にある女性と出会ってしまった。俺は今その女性の事を愛しいと思っている。」
「小夜子さんの事ね。聞いてるわ。」
リーンは冷静に言った。
「だから・・・・・お前に対する気持ちに自分なりに決着をつけにきたつもりだったんだが・・・・・こう考えてみると身勝手な話だな。」
「ええ、身勝手だわ。」
リーンはそう言い放ち、リューヤから一瞬目を離し、再びリューヤを見詰め言葉を続けた。
「でも、仕方のない話・・・・・・・私は「死んだ」事になっていた。いえ、実際に死んでいたわ。そして、「生き返った」・・・・・・でも、私は変わっていた。そして、あなたに会う事を拒んだのも私。そして七者会議でハッキリとあなたの意思を否定したのも私。そして、あなたの側にはあなたを支える人がいた。あなたの心が私から離れて小夜子さんに傾いても仕方ない事だと思う。」
「そう仕向けたのか?」
リューヤは縋る様な目でリーンを見た。心が動揺し自分でも自分が分からなくなっていた。
「ある意味ではそう。」
リーンは静かに再びカップを口元に近づけた。
「でも、それは私のあなたへの愛が変わってしまったから・・・・・・・もう変わってしまった事だから言うわ。あなたはアレクシーナ様の敵になる事になっていた・・・・・・」
リューヤの顔が蒼褪める。
「アレクシーナ様の世界を救いたいという思いが平和連合を築き、それは戦争へと繋がっていくはずだった。それは、今もそうなのだけれど。・・・・・・・・世界の破滅を知ったあなたはアレクシーナ様を倒しに行く事になっていた・・・・・・・あなたの敵として私も存在するはずだったの・・・・・・・その中でジョー・アルシュは特殊な役割をするはずだった・・・・・・」
「何を言ってるんだ!俺が・・・・・・」
俺がそんな事をするはずがないとリューヤは言いたかった。だが、わざと捕まりアレクシーナと話す機会がなければどうだっただろうか?β能力者の裏切りはなく、アレクシーナは世界を救う為にと動き、またリューヤはそのせいで世界が破滅すると信じ、アレクシーナとの抗争は避けれなかったはずだ。そして、リーンが生きている事も知らなかった事になる。
「だけど、この物語は語られなかった物語。アレクシーナ・クライとジョー・アルシュこの二人の物語は別の方向へと変わっていった。アレクシーナ様は御自分の未来を変え、ジョー・アルシュもまた新たな運命の奔流へと巻き込まれた。その中で変わらないものがあった。」
「?」
「世界の破滅とあなたの破滅と戦うという運命。」
「!?」
「元々、あなたは私が生き返った事を知らず、小夜子さんと結ばれる運命にあった。それは、新たな災厄の前触れなのだけれど・・・・・・・・」
馬鹿な・・・・ならばジョー・アルシュの反乱も俺の小夜子への気持ちも作られた物だというのか。ならば、人は何の為に生きている。生きた思いが全て何者かの織り成す運命の結果に過ぎないというのなら、何の為に人は・・・・・・そんな事は・・・・・信じられない・・・・・いや、信じたくない・・・・・・・・
ならば、「敵」はなんなのだ?「干渉者」「眺める者」いや、そんなちんけな物じゃない。「敵」はあらゆる運命を織り成す「神」なのか・・・・・・・・・
「新たな災厄と言ったな。それは・・・・・・・」
「それは、あなたが最愛の者を失うという事・・・・・・・」
「俺は小夜子を失う・・・・・・・そういう事か・・・・・・」
「全てを破壊しようとするか・・・・・・全てを救おうとするか・・・・・あなたはそこで選ばなければならないの。」
「俺は・・・・・・俺は同じ過ちを・・・・・・・・」
リューヤは一瞬言葉に詰まり、続けた。
「繰り返したくない。」
目の前の女性が、傷つき倒れ自分の腕の中で死んでいった事を思い出していた。
「ジョー・アルシュを放っておいても、世界は壊滅していく・・・・・・・・でも、それを決めているのはジョー・アルシュでも「干渉者」でも「眺める者」でもない・・・・・それは・・・・・・・・」
「神」なのか・・・・・・・・
「あなたなの」
リーン・サンドライトによって放たれた言葉は庭園の日差しの中を舞った。 |