第28話「くちづけ」
出てきた医師にリューヤが駆け寄る。
「手術は・・・」
「成功です。取りあえず命は取りとめました。」
「そうですか。」
リューヤはホッと一息ついた。
「よかったじゃねーか。これで一安心だな。」
「ああ・・・・・・・」
「今晩はもう目を覚ますこともないと思います。暫く入院という事になりますから、身の回りの物等を持ってきてあげて下さい。」
医師の言葉にリューヤが頷く。
「西城、時間あるか?」
「お?おお、今日は仕事も終わって暇してるがな。」
「悪いんだが、小夜子の身の回りの道具を持ってくるから、護衛しててもらえないか?30〜40分で戻ってくる。」
「まだ、小夜子が狙われる可能性があるって事か・・・・・だな・・・・・・止めを刺し損ねたとすりゃあ、動けない今もチャンスだわな。」
「そういう事だ。」
酒は抜けており、リューヤは運転手を降ろし、西城と話していてくれと伝え、運転席に座った。
リューヤがアパートへ向かう。片道10分程度ではあるが、少し物を考えるには十分な時間だった。
狙われたのは小夜子。そして、刺したのは催眠術にかけられた少女。黒幕はアリス・メーラーという女。アリス・メーラーとジョー・アルシュには接点がない。もし、アリス・メーラーとジョー・アルシュ、西方連合が関わっていないとなると、他にも敵が存在する事になる。小夜子が助かった事が分かって、リューヤの頭の中を西城の台詞が走馬灯のように回った。
だが、取りあえず小夜子が命を取りとめた。助かってくれてよかった。心底からそう感じていた。だが、それと反対の嫌な考えも駆け巡った。10日ほど続いた穏やかな日々は、小夜子の命を危険に晒せた。敵はそこらじゅうにおり、虎視眈々とリューヤ達を仕留めるチャンスを窺っているのだ。これらの問題を解決せねば、リューヤ達に穏やかな生活は無理なのだ。
「静かに暮らす事も出来ないのか」
リューヤはそう呟き車を止めた。
暖かい手・・・・・・・・・誰の手だろう。自分の手を握って待ってくれている存在など私にはないはずだ。ならば、夢?これは夢?夢なのだ。夢でもいいからもう少し覚めないで欲しい。自分の手を優しく握ってくれる誰か・・・・・・私が心の底で望む小さな温かみ・・・・・・・けして得られないはずのもの。
それが、今は与えられている・・・・・・
明るい・・・・・朝日?誰かいるのか?誰が・・・・・・・
小夜子は目を開けた。
「気がついたか?」
声の主はリューヤだった。それに気付いて小夜子はスッと手を引いた。
「まだ動かない方がいい。」
小夜子は置きあがろうとし、ウッとうめき声をあげる。
私は・・・・・・・・」
小夜子は横になって呟く。
「刺されたのだな・・・・・・・」
「そうだ、結構な重症だぜ。傷は・・・・・残るだろうって。」
「そうか、そんな事はたいした問題じゃない。まともに動けるまでに何日かかるかだ。」
「気にせず休め。俺はお前が治るまでずっとここにいる。護衛の任務は果たしてもらうぜ。」
リューヤはそう言って軽く微笑んだ。
「リューヤ」
「なんだ?」
「忘れて欲しい事がある。」
「なんの事だ?」
「私が」
小夜子はそこで息を詰まらせた。
「私が・・・・・お前を好きだと言った事だ。」
「忘れるような事じゃない・・・・・それに俺も・・・・お前が大切だと思ってる。」
「言うな。お前にはリーンがいる。」
「リーンの事は、忘れようたって忘れられない。だけど、リーンは変わっちまった。それで、心変わりした訳じゃないが、今は俺はお前を大切に思っている。リーンに対する複雑な感情を終わらせて、その時お前の気が変わってなかったら・・・・・・」
「私に愛される資格なんてない。」
「そんな事はないさ。お前は任務だとはいえ、それ以上に俺と共に戦い抜いた。俺の戦友だ。そして、俺の大事な人だ。」
「私は!お前を殺す為の任務についているんだぞ!」
「俺を孤独から救ってくれた礼だ。」
リューヤはそう言って小夜子の唇を奪った。 |