第27話「西城の言葉」
救急病院の手術室の前にリューヤは座っていた。血が止めどなく流れていた様子を今も覚えている。
俺はまた大切な者を失おうとしている。油断・・・・・・それが招いた事だった。油断したのは小夜子とはいえ、リューヤは遣り切れない思いに捉われた。
「小夜子は助かる。」リューヤは何度もそう呟いた。助かる可能性は五分五分だと言われた。失血死ギリギリの量の血液が流れていたらしい。
誰が・・・・・・・恐らくジョー・アルシュの手の者に違いなかった。リューヤ自身よりも小夜子を狙った意図は何だったのだろうか?いずれにせよリューヤの護衛などといった役でなければ、こんな事態は興らなかったろう。もし、自分がドレスをプレゼントしていなければ、小夜子はいつもの護衛の服を着ており刀を持ったままだったはずだ。ならば、小夜子は確実に反応し、相手の短剣を確実に叩き落していただろう。なごやかな生活が油断を生んだ。なごやかな生活を望んだのはリューヤ自身だ。ならば、小夜子を死に至らしめようとしているこの事件の原因は自分にあるのだ。リューヤはそう考えた。
胸の中でリーンの体温が失われていったあの時の感覚を思い出し、リューヤは胸を締め付けられるような感覚に捉われる。「死なせるものか。」今の自分に出来る事などなかったはずだが、リューヤはそう口にしていた。
カツンカツンという誰かが歩いてくる音が聞こえた。看護婦だろうか?リューヤは足音の方に目を向けた。
「西城・・・・・・・・」
足音の主は西城だった。
「大変な事になったな・・・・・・・まさか、今頃国内でこんな事になるとは考えていなかったさ。」
西城はリューヤの横に座った。
「犯人は・・・・・・・・犯人は捕まったか?」
「ああ、捕まった。茫然自失としてその場に立ち尽くしていたよ。どうやら、催眠状態にあったらしい・・・・・・」
「そうか・・・・・・・・」
「普通、催眠術で人は殺せない。禁忌が潜在意識に入っているからな・・・・・・・。何らかの方法でその禁忌を取り除いちまったらしい・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「こんな場所でなんだが、その少女の「供述」によると、どうもアリス・メーラーという「女」に催眠術をかけられたらしい。」
「アリス・メーラー?」
「アレクシーナ様は役柄上、一応、世界に散らばるβ能力者の殆どの名前を掌握している。その中に名前がない訳なんだ。」
「ただの催眠術師・・・・・じゃないのか?」
「コンピューター検索では引っかからなかったし、ジョー・アルシュの周りにもそんな人物はいない。」
「「敵」が他にもいるって事か?西方連合の連中?」
「そうなら話ははえーんだが、どうも勘に引っかかってよ。一応伝えとこうと思ってな。」
「わざわざすまない・・・・・・だけど、俺は今・・・・・・・」
「水無月の事が落着いてからでいい。詳しい事が分かればまた連絡はする。」
「ああ・・・・・・すまない。」
リューヤはそう言って力なく頷いた。
「お前は、お前がついていながらなんでこんな事になっちまったとか考えてるんだろうが、あまり気に病むなよ。辛い話だが、小夜子はお前の盾になって死ぬのが仕事なんだ。変に責任を感じるのはよせよ。小夜子も悲しむぜ。」
「そういう事じゃないんだ・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「俺は・・・・・」
リューヤはそこまで言って息を呑んだ。
「俺は小夜子を失いたくないんだ。」
「お前・・・・・・・」
「俺は小夜子を失いかけて初めて自分の思いに気付いた。俺の為に誰かが傷ついちゃいけないんだ。だから・・・・・・」
「そうじゃねーだろ。前にも言った通りお前は人類にとって重要な駒だ。ひょっとすれば、お前ならこの状況を覆せるかもしれねー。その為の盾になら俺も水無月も喜んでなるぜ。いい加減お前も自分の立場を悟れ。でなけりゃ、俺も水無月も犬死だ・・・・・・そんなのはごめんだぜ。」
「俺は自分の周りで死人が出て超然と出来るほど強くはない。」
「だが、そうして貰わなきゃ困るんだよ。今更逃げ道はねーんだ。悟れよ。」
「それでも・・・・・・・・」
俺は失いたくない。そう言いかけて言葉を止めた。光っていた手術中のランプがその時消えた。 |