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仮題「シャングリラ」第三章
作:月読天舞



第26話「意図しない告白」


 リューヤは小夜子とパーティーに出席した。アレクシーナからの招待状が一昨日届き、二人はジョー・アルシュの動静を探る為と、アレクシーナへの謁見をする為に参加する事を決めた。
 王宮の舞踏の間は、小学校の体育館ぐらいの大きさがある。幾つもの豪奢なシャンデリア。敷き詰められた美しい赤いカーペット。それらを燦然と輝かせる美しい照明。どれもが、リューヤや小夜子が暫く暮らした生活からは夢のような情景だった。
「ドレス、着る機会があったろ?」
「ふふ、そうだな。」
 小夜子が少し快活に微笑む。二人暮しを始めて10日程たっていたが、その間に二人のささくれ立った心は、徐々に穏やかなものへと変わっていっていた。とくに、何故だか小夜子の笑顔が目立って増えていた。紫炎教に潜入していた時からほとんど小夜子の笑顔など見る事はなかった。小夜子の零れる笑顔を見て、リューヤも少し笑うようになっていた。
「たまのパーティーも悪くないものだろう。」
 いつの間にか側に来ていたアレクシーナがリューヤにそう話しかけた。
「そうですね。悪くないです。」
「穏やかな生活を続けていると聞いた。いい事だ。」
「ジョー・アルシュの動向はどうです?」
 リューヤが唐突に聞いた。アレクシーナは微笑み、一瞬目を瞑り再び開けた。
「動きは掴みきれんな。防音設備の整った部屋で何者かと会話している事は分かった。だが、何を話しているか、その相手が何者かについては一切分かっていない。だが、動いているのだろうな。あの男が世界の権力を一手に掴む気でいる事は疑いようも無い。」
「ならば、戦争は・・・・・・・・」
「そうならぬように動いてはいる。だが、ジョーの言う通り、西方連合が軍事行動に移れば止めようがない。あちらでは、ラスア・エラーラを私が暗殺した事になっている。どうにも打つ手が限られる。」
「では・・・・・・・やはり、西方連合から攻撃させるように仕向けるつもりでしょうか?」
「そうなっても、アメリカとロシア、ヨーロッパ連合には動かないように打診はした。だが・・・・・・」
 アレクシーナが目を細める。
「さすがに確約までは取れぬ。それらの国と友好的関係を築く為に平和連合との同盟、参入までの段取りをしておいたのが逆に仇になっているのが現状だ。」
「やはり、ジョー・アルシュはそこまで知った上で動いているんですね。」
「β能力者が裏切っている。こちらがどこまで事を進めていたかは丸分かりだろうな。」
「となると・・・・・・」
「ジョーが動いた時、その時がラストチャンスだ。」
 アレクシーナはそれだけ言うと口を噤み、手に持ったグラスを開けた。
「さあ、お前もサヨコと踊って来い。長い戦いになる。楽しむ時間は楽しまねばな。」
 アレクシーナはリューヤの肩をポンと叩き、小夜子に笑顔を見せた。アレクシーナが去った後、リューヤは小夜子に微笑んで「踊ろう」と誘った。



 一瞬の油断だった。穏やかな生活をし、敵のいない10日間が小夜子の勘を鈍らせていた。送りの車にドレスのまま乗り、酒も少しだけ入っていた。気が大きくなっていたのと明確な敵だと分からない相手だった事が更に反応を遅らせた。車から降りる時、自分の服と刀を取り出そうと後ろを向いた瞬間、刺された。
 小夜子を刺したのは13〜14の少女だった。小夜子は倒れ、少女は呆然と立ち尽くしていた。少女を尋問するのは後だった。小夜子のドレスがみるみる血に染まっていくの見ながら、リューヤは必死に止血した。傷は深い。少女の体重をかけた刺し方は、明らかに訓練を受けていた。応急処置の止血では血は止まりそうにない。
「やられたわ。」
 小夜子が傷口を抑えて言った。
「喋るな。」
 止血をおえ、リューヤは小夜子を抱え、再び車に乗った。
「救急病院へ急いでくれ。」
 リューヤは小夜子の手を握った。
「大丈夫だ。大丈夫だからな。」
 小夜子はうんと頷く。
「リューヤ・・・・・」
「喋るな。」
「私は死ぬかもしれない。この傷は深い・・・・・自分でも分かる・・・・・・」
「いいから黙ってろ。」
「言っておかなければならない事が・・・・・・ある。」
 息を途切れさせながら小夜子が言った。
「後で幾らでも聞いてやる。」
「お前は一人じゃない・・・・・例えリーンを・・・・・・失っても・・・・・・・・リューヤ・・・・・・」
「黙ってろ!」 
 リューヤは涙目になっていた。
「私は・・・・・・・・・・・」
「小夜子・・・・・」
 リーンが死んだ時の事が蘇る。死なせない。死なせてたまるものか。
「お前が好きだ・・・・・だから・・・・・・一人じゃ・・・・・・・・」
 小夜子はそう言って力なく目を瞑った。
「急いでくれ。」
 愛した人間を二度も失うのはまっぴらごめんだ。リューヤは自分自身の変化に気付かず、いつの間にかそう思っていた。












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