第25話「ある穏やかな午後」
クライ王国の首都クライ・リンネでアパートを借りた。家具や調度類を、昔使っていた部屋から運び込んだ。西城や紫炎の言った通り、考える時間が必要だった。自分が現状で何をすべきか、考えざるを得なくなった。小夜子とそういう事をじっくり話してみたいとも思った。長い戦いを二人でくぐり抜けてきたおかげで、気心はしれていた。だが、俺が小夜子に関して知っている事は少ない。それは、この間の七者会議での「過去」の告白でも明らかだった。自分の調度は大方揃っていたが小夜子の調度は揃っていなかった。それに、歯ブラシや髭剃りなどの消耗品も不足していた。
長い滞在になる
そんな気がしていた。だから、二人で買い物に出かけた。まず、影法師のように暗い小夜子の戦闘服を一般用に変えようと提案した。小夜子はそれでは護衛が出来ないと言い、俺は、じゃあ一着ドレスを奢らせろと言った。そんな事をして貰う義理はないと小夜子は返した。護衛とはいえ、俺の長い戦いに巻き込んだ事に対する詫びだと無理やり奢った。
「こんな服を着るのか?」
服屋で小夜子は困惑した表情を見せた。
「着てみろよ。きっと似合う。」
「そうか?なんだかコソバユイ感じがするんだが・・・・・・・・・・・」
「いいから、着てみな。どこぞのパーティーで護衛する時には必要だぜ。」
俺は小夜子をうまく言いくるめた。しぶしぶながら、小夜子はドレスを着て俺の前に姿を見せた。
エメラルドグリーンのドレスは小夜子によく似合っている。どこぞの貴人のようにすら見える。
「似合ってるよ。」
「そ・・・そうかな・・・・・・私でも、こんな服が似合うんだな・・・・・・・」
小夜子はそう言って少し嬉しそうに笑った。会計を済ませて俺達は服屋を後にし、次の買い物に向かう。
「穏やかな日だな・・・・・・・まるで敵の気配を感じない。」
「そういう日が日常なはずなんだ。」
「嵐の前の静けさじゃないのか?」
「そうかもしれない。だが、今はこの時を楽しもう。俺達だってたまには息を抜かなきゃそれこそ息が詰まっちまう。」
「そうだな。私達にだってこんな日が一日くらいあったていいはずだ。」
こうやって過ごすと「世界の破滅」など絵空事のように思える。だが、世界は今、確実に滅びに向かっている。アレクシーナは失脚し、ジョー・アルシュが平和連合の実権を握った。その時から世界はあらぬ方向へ傾いていっていた。本当に俺に何か力があり、それは破綻を防ぐ力なのだろうか?それすらも疑わしくなる。もし、世界が終わらないのならば、こんな穏やかな生活が続くのだろうか?それならば、そうしたい。俺は素直にそう思った。
「考え事か?」
押し黙った俺の姿を見て小夜子がそう言った。
「少し・・・・・・な・・・・・・」
「そうか・・・・・・・・悩みは尽きんな・・・・・・」
「何を?とは聞かないんだな。」
小夜子がフッと笑う。
「私はお前を信じると決めたんだ。私はお前が目的を遂げられるように全力でお前を守る。それだけだ。」
「俺が本当に世界を救うような者だと思うか?」
「さあ?どうだろうな。私にはよく分からない。「神」や「干渉者」や「眺める者」が何を考えてるのか。リーン・サンドライトの言っている事が事実だとすると、ジョー・アルシュを殺して片がつく問題とも思えんな。ならば、「神」とやらは一体お前に何を望んでいるんだろうな?」
「それは俺が知りたい事だ。リーンを蘇らせた挙句にアレクシーナ様を失脚させたんじゃ本末転倒だ。そうは思わないか?」
「リーンに言わせれば人類が選び間違えたって事になるんだろうが、どうなんだろうな。果たしてジョー・アルシュの策略を避ける事が果たして人類に出来たか?アレクシーナ女王がとった行動はあの時点では最善の手だろう。個を殺し全を生かす。為政者がせねばならない事だ。」
「それは俺も思う。疑惑を平和連合に向けさせない為にはどうしてもアレクシーナ様は辞めねばならなかった。これが人為で避けれた事だろうか?」
「同感だ。連中が最初から世界を滅ぼすつもりなら、どうだ?」
「それなら話は合いはするが、最初にアレクシーナ様を選ぶ必要がない。いや、アレクシーナ様の求心力と政治手腕を利用して破滅の下準備を作る。そこにリーンを置けば・・・・・・・」
「辻褄は合う・・・・・だが、その場合はリューヤ、お前が「謎」だ。リーンの死者の復活はいい。それは、より信頼度を上げる為と考えられる。だが、何故お前を仲介する?普通の人間が現場の事を考えたら、まず、お前が「神」か「悪魔」の手先だと考えるだろう。そのお前はどういう考え方を持っているんだ?世界が破滅して欲しいと思っている訳じゃあるまい。」
「謎は俺か・・・・・・・・・」
「「干渉者」「眺める者」「神」どの使いを自称する連中も世界は破滅すると言っている。だが、世間的に一番「神」の使いであろうと認められうる「死者の復活」「運命の改変」をやってのけたのはお前なんだ。そのお前は世界を破滅させないと願っている・・・・・・・いや決意している。」
「どういう事なんだ?」
「私はお前が「鍵」なのだと思う。いや、おまえ自身が気付いていないだけで、お前が「神」なんじゃないのか?それならば、リーンをお前が復活させた事も、運命の改変をやってのけた事も説明がつく。」
「待てよ。俺はそんな偉そうなもんじゃないさ。それじゃあ、なんでリーンはああなったんだ?俺が「神」で俺の望みが叶うなら、リーンはあんな形では復活しない、いや、そもそも死なせない。よしんば復活させたってあんな風には変えさせない。」
「だから、謎はお前なんだ。これはお前の物語ではないのかとさえ思う。」
「俺の・・・・・物語?」
「お前を主人公に仕立て上げた何者かの手によって織られる物語。そんな気がするんだ。」
「馬鹿馬鹿しい・・・・・・・この世に何人人がいると思ってるんだ。そいつらは、皆、自分の物語を生きている。それぞれに様々な物語がある。その物語の帰結は全ての人に繋がっている。そんな中から主人公を選ぶって誰が決めれるって言うんだ。」
「「神」じゃないのか?それが・・・・・・・・・」
俺は少しどぎまぎし、言葉に詰まった。「神」が主人公を決めて物語を織り成す為に世界の破滅を描いている。そんな事が本当にありえると言うのだろうか?
「だとすれば、世界はどうなるんだ?」
「滅ぶか、救われるか・・・・・・・まあ、そんな事がある訳もないさ。だけど、お前はやっぱり「特別」なんだ。だから、私はお前を守る。きっと・・・・・最後まで・・・・・・・・」
「それは死なないという約束だな。」
小夜子は首を捻った。
「お前が先に死んだら、最後まで俺を守れない。だから、お前は俺が死ぬまでは生きろ。」
俺は小夜子の顔を見れず、まだ眩しい夕日を見ていた。 |