第22話「リューヤ・アルデベータ」
「私の話はこれで終わりです。」
小夜子は凛とした表情で言った。涙の跡はまだ乾いていない。
「リューヤ・・・・・・喋れるか?」
アレクシーナが聞いた。
「ええ。なんとか・・・・・・」
リューヤは自分の名前の書かれた黒い三角錐を見ながら辛うじてそう答えた。
「俺は・・・・・・・俺は・・・・・・・・俺はどこかで自分独りで戦っていたような気になっていたのかもしれない。皆の意見を聞いて、俺は思い出した。」
リューヤが大きく息を吸い込み、声のトーンを上げた。
「俺は世界の破滅を止めるのだと・・・・・・俺は・・・・・「干渉者」や「眺める者」の思い通りには動かない。たとえ滅ぶのが必定だとしても、俺は諦めないのだと・・・・・・それを・・・・・それを・・・・・・・皆の言葉で思い出させてもらった。」
リーンが微笑する。小夜子は静かな佇まいのままリューヤの方をチラリと見る。
「俺はこの世界を守る・・・・・・・滅びが必定だと・・・・・滅ぶ事が決まっていると俺は諦めない。例え「神」が敵だとしても・・・・・俺にはやっぱりそれしか選べない。計算上滅ぶこの世界であろうと、最後まで足掻いて足掻いて足掻き通す・・・・・俺は出来る限りの事をやる。それしかないのだと、俺が迷いの中悲しみの中にいる間も、俺を必死で支えてきてくれた人間がいる。滅ぶ事が必定なら運命を変える・・・・・・変えてやる。「干渉者」や「眺める者」が滅びに向かわせると言うなら俺は戦う・・・・・」
「「干渉者」や「眺める者」がいるとして、お前は一人でそれに立ち向かい勝つ気でいるのか?思いだけで世界の運命を変えるなど・・・・・出来る事ではないだろう。」
ジョー・アルシュが言葉を挟んだ。
「なら、何もせずに諦めろって言うのか?」
「何が出来るのだと言っているのだ。お前はラスア・エラーラのおかげで一躍有名になった。とはいえ、一介のエージェントに過ぎない。神の写し身だの、救世主だの言われて舞い上がっているのか?」
「関係ないなそんな事・・・・・・・・・俺がそんな存在であろうとそうでなかろうと、俺は俺の生きる道を行かなきゃならない。俺の側で俺を支えてくれた人間の為にも・・・・・・例え、「神」が俺を作ったのだとしても、この世界で生きた記憶は、俺が俺の生き筋を選んだ事は、「神」の意思じゃない。俺が選んだ事だ!」
「仮にも救世主と呼ばれる男がこんなに子供っぽい男だとはな。現実にあるパワーバランスはどうするつもりだ。世界全部がお前の思いに同調すると思っているのか。もし、私がお前達の思っているような男だとしたら・・・・・この歴然とした権力の差をどう埋めるつもりだ。私が持っている手駒達に幾らお前が「特別」な力を持っているとしても、かなうものか・・・・・・リーン・サンドライトの言葉によれば、「神」も「干渉者」も世界を滅ぼす事を決めている。お前一人の思いなどで止めれる物じゃないのは火をみるより明らかだろう。」
「そうなのかもな。世界はお前の言うとおり滅ぶのかもしれない。例えそうだとしても、俺は自分の道を選んで歩く。後で諦めた事を悔いる生き方など俺はごめんだ。」
「お前が世界の滅びを阻止したとしても、そのせいで、より多くの滅びを生み出す。お前の言ってる事はそういう事だ。」
「お前こそ勘違いしてる。俺は世界の滅びの全てを止めると言ってるんだ。」
「馬鹿な・・・・・・・アレクシーナ閣下でさえ、間に合わなかったのだぞ。」
「だからって、リューヤに出来ねーとは限らねーんじゃねーか?」
西城がぽつねんと言った。ジョー・アルシュは「忌々しいヤツめ」と心の中で毒づいた。
「俺が特別な存在だと言うならその全てを使う。「神」が与えた運命も力も俺の意思も全部だ。」
「出来るものか。」
ジョーが呟く。
「覚悟を決められたのですね?」
紫炎が微笑み小さく頷く。
「リューヤの覚悟は決まってる・・・・・・・・ずっと前から・・・・・・」
小夜子が涙の跡をそのままに頷いた。
「俺は止める・・・・戦争も・・・・・世界の崩壊も・・・・・・」
「もっとも困難な運命を・・・・・・・もっとも難しい道を・・・・そうと分かっていて進む・・・・・・そうですね・・・・・ならば・・・・・・」
「ならば?」
リーンの言葉にリューヤが返す。
「もしかすると、世界の破壊は最小限ですむかもしれません。人の覚悟と意思が道を切り拓く・・・・・それは今までの歴史でも証明されている事です。だけど、それは私を救おうと運命に立ち向かった時より遥かに厳しく困難な道です。その覚悟はありますか?」
「ああ、俺は俺の存在の全てを賭ける。そしてきっと世界の崩壊を止める・・・・・・・・・」
「ならば、歩み自分の全てを賭けなさい・・・・・・世界の運命が変わるように・・・・・・神が運命を変えて下さるように・・・・・・・」
リーンは厳しい顔のまま静かに響く声でそう言った。 |