第20話「西城の疑問」
「これで私の言いたい事は全て言いました。」
紫炎はリューヤから目を逸らし、アレクシーナの方を見た。
「では・・・・・・・・・」
アレクシーナはそう言って周りを見回した。そして西城の前で目線を止めた。
「サイジョー・・・・・・この問題を語ってくれないか?」
西城は仏頂面を上げ、うーんと唸ってから口を開いた。
「俺は、はっきり申し上げてここにいる連中ほど、事実に肉薄してない。取り留めのない事しか言えないと思いますが・・・・・・・・」
「それで、構わん。サイジョーなりの考えを語ってくれればいい。」
アレクシーナが促した。
「それじゃー言わせて貰いますがね・・・・・・・」
西城はそう言ってぼつぼつと喋り始めた。
「はっきり言って、俺はここにいる連中の言ってる事が半分も信じられない。「神」がどーのとか「干渉者」がどーのとか「眺める者」がどーのとかどうだっていい話なんだわな。だからって、この世界がどうなってもいいって事じゃねー。だが、日本で育った俺は御多分に漏れず、無神論者な訳で。正直、こんなとこに呼ばれて困惑してる訳だ。」
西城はそう言って一息ついた。
「だがな、今の話を聞いてると正直、絶望的な状況という事は分かる。まず、本当に神さんは我々を滅ぼすおつもりなのかね?」
西城がリーンの方を向く。
「イエスでありノーであると言えるでしょう。」
リーンは目線を受け、答えた。
「その持って回った言い方が俺には分からねーんだ。もう少し詳しく話してくれねーか?」
「地を破壊する者を滅ぼす・・・・・・・これは約束です・・・・・・これはこの国の聖書に関わらず、キリスト教のバイブルにも書かれている事です。もちろん、これ以上の破壊が進んでいけば、戦争を待たずに全滅ですが・・・・・・」
「地を破壊する者ね・・・・・・・・・それが今の人類にあたる訳だな・・・・・・なるほど。」
「ただ、選ばれた民はその後の地上で神の約束の世界を生きる事になります。全員を生かした場合は全滅・・・・・・・・・アレクシーナ様が上げられたような問題。食料、エネルギー、環境の問題で世界は人間の住めぬ環境になるでしょう。そうでなくとも、食料とエネルギーの問題は「戦争」の原因としては十分です。このまま進めば、いずれ破滅は避けられない。」
「なる程な、さすが神さんだ。よく考えていらっしゃるよ。滅ぶのは自滅で必然・・・・・・・全部を滅ぼさぬ為の犠牲・・・・・・・・よく出来ちゃいる。犠牲なくして間に合わない・・・・・それも分からんじゃない・・・・・・だけどな」
「だけど?」
リーンが鸚鵡返しした。
「どうにか、誰も死なねー方法はねーもんなのか?」
「恐らく、そう考え、問題に立ち向かって行く人間こそが救われるのでしょう・・・・・・・」
「恐らく・・・・・ねえ・・・・・・・」
「私にも完全に与えられた物とそうでない物があります。そして言えない事も・・・・・・」
「夥しい死体の上にのっかった「理想郷」なんぞを素直に喜べるかい?」
「死人が出ない方がいいと?それは神だってそうでしょう・・・・・・・・あなたも情報部の人間ならばジョー・アルシュに限らず、様々な人間の悪を見てきたはずです・・・・世の中には本当に死んだ方がましな人間だっています。」
「だからって、死なしちゃ終わりだろ。」
「死が終わりなのは、そこを終わりと考えている存在にだけに有効です。「主」にとっては、この世界での魂の行程は、途中に過ぎない。死が終わりという考えは、それらの事を知りえぬ者だけに有効なのです。「神」にとって、死はけして終わりではない。」
「じゃあ、人類は座して滅ぶしかないってのか?」
「座して滅びを選べば、それこそ終わりでしょう。」
紫炎が口を挟んだ。
「そういう事です。無駄に見える一つ一つの事を積み重ねる。それ以外に人類に残された道はどちらにせよないのです。全ての人類が自覚するならともかくそんな事は恐らくありえない・・・・・・だから、どうしても滅ぶのです・・・・・・・」
「俺みたいな人間にゃどうしようもないって事かい。」
「ようやく理解したか」
ジョー・アルシュが聞こえない程度の声でぼそりと言った。
「サイジョーさん、そう考えるのは自分を過小評価しています・・・・・・いえ、それは全ての人に言える事なのですが・・・・・・自分の立場が弱いからと言って、この世界の運命を変える事が出来ないというのは思い込みです。全ての人はこの世界の運命に意識、無意識に関わらず大きく関わっています。影響力の大きさは人によって違いますが、多かれ少なかれ人は人に関わり、繋がっています。普通の人でさえ、家族がおり友人がおり恋人がおり、相互に影響し合っているのです。その影響が世界を変え得る・・・・・・・それは事実です。全は個であり個はまた全なのです。」
「なら、俺にも出来る事があるってことか・・・・・・」
「そういう事です。」
「少し、考えさせてくれ。」
西城はそう言って押し黙った。 |