第18話「変貌」
かわした・・・・・・・かわしたはずだ・・・・・・こう主張しておけば、自分は不可知論者で通る。この場が論理的な話をするのであれば、お互いの話は平行線になるはずだ。例え、連中の言う事が正しくても「信じない」と言うだけですむ・・・・・・・真実などどうでもいい・・・・この場を乗り切ることが先だ。厳密な意味で過去は調べようはない・・・・ならば、私がアレクシーナ以外全員をインチキだと思っている事にすればいい。簡単な話だ。いや、現状で自分が不可知論者でも困る。この場はいいとしても、先々が困るのだ。もう一押ししておくか・・・・・・・
「もちろん、私が先のような話をしたからと言って私が無神論者という訳ではない。ただ、あなた方が本物だという保障もない。むしろ、あなた方がインチキだという可能性も高いのですよ。そもそも、あなた方が呼んでいる「創造の主」とやらが、本当にこの世界を作った者だと何故言えるのです?魔女の力と神の奇跡とは私のような凡人には見分けがつかないのですよ。」
「見分けがつかないのなら黙ってりゃいいだろ。」
西城が不貞腐れたような顔で言った。不貞腐れたその顔が既に脅しの顔である。
「おまえさんの言い分を聞いてると、屁理屈にしか聞こえねーな。俺だってオカルトなんぞ信じられねーし、正直今でも尻がむず痒い。だが、俺だってエージェントの端くれだ、どっちが事実に基いてるかなんて俺でも分かるぜ。お前の言う事を聞いてると、最低でもF国とクライ王国の全員がこぞってアレクシーナ女王を騙してなきゃならねー。オカルトを信じられんのにそんな事は信じるのか?お前こそどーかしてんじゃねーか?」
ジョーが目を吊り上げ、西城の方を見る。
「君は?」
「西城真治・・・・・・クライ王国の末端調査員さ・・・・・・」
「一介のエージェント風情が随分たいそうな口をきいてくれるな。」
「まあ、権力はなくたって口がありゃー喋れるわな。」
ジョーのこめかみがヒクヒクと動く。
「ハハハハ」
アレクシーナの高笑いが室内に響いた。
「まったくその通りだ。F国も私の部下もそんな事で私を騙す必要がない。権力という立場にいると、当たり前の事に目が向かなくなるらしい。疑心暗鬼は毒だ。」
「アレクシーナ陛下、なんの権限でこんな一般人がこの場に紛れ込んでいるのですか?」
ジョーが歯噛みしている。
「円卓というのはそもそも同じ立場で喋るという約束を加味している。今回の場合は特にそうだ。それに、この会合にサイジョーが加わることはきちんと私の署名で伝えてある?西城は我々にはない視点をくれるのでこの会議に特別に私が呼んだのだ。」
西城は軽く頭を下げた。
「そういう事です。西城さんの言うとおり、あなたの言い分などこのさいどうでもいいのです。」
リーンが静かに高い音域の声を発した。
どうする、搦め手があるか?一時的に騙したりかわすだけなら方法は幾らでもある。ですが・・・・そうね、相手の出方が分からないわ。それにこの瞬間も作戦は続行中だ。少しでも時間を稼ぐ方法。それを考えるのだ。その為には・・・・相手を・・・・・・・・・ならば・・・・・・
「なるほど。私を呼んだのは私の主張を聞く訳ではないと・・・・・・まあ、いいでしょう。とにかく、私の考えはそういう事です。」
興奮したような態度を取って立ち上がっていたジョー・アルシュが落ち着きを取り戻したように座った。
「私も度が過ぎたかな?本人の前で処遇をきめるなどと・・・・・」
アレクシーナが薄く微笑んだ。
「本来の議題に入る。この世界の先に我々がどう動いていくか?忌憚の無い意見を聞きたい。」
アレクシーナが再び音頭をとる。
「一人一人の意見が聞きたい。まず、リーン。」
リーンも薄く笑う。
「本当に本当の事を聞きたいのですか?」
アレクシーナが頷く。リューヤは腕を組み視線を落としており、紫炎は目の前の白地で名前の書かれた三角錐を見ていた。
「私は、ここまできた流れを変える事は不可能だと思います。ジョー・アルシュがこのような存在に近づいたのも、既に手遅れだから。「神」の裁きを受け、新たなる新世界の到来を待つべきだと思います。」
リューヤの視線が上がり、口が開かれた。
「本気でそう言ってるのか?」
「リューヤ・・・・・・・私は死ぬ事によってこの世界の理を知ったわ。そして、その理の中で生きる以上、この世界が破滅するのは必然なの。ジョー・アルシュが先程言った通り、この世界の多くの部分が膿み、科学は中途半端に進歩し、世界は壊され続けるわ。誰かがなんとかしなければならない。それはそうなのかもしれない。でも、環境の問題も食料の問題も遥かに前から警鐘を受けているのに、誰もどうにも出来なかった。誰かが何とかしていく、その為にも時間が必要なの・・・・・・・・その為にはやはり、この世界の人口は多すぎる・・・・・・・そんな現実的な事以外でも」
「もうよしてくれ・・・・・・死ぬのが誰で生きるのが誰で、それを決めるのが人間以外で・・・・そんなこと・・・・・」
「そうかしら?それを決めるのが人間である方がおかしいわ。では、人間自身が誰が生き、誰が死ぬかを決めるの?そんな無慈悲な事を「神」はなされません。人間にそれを決めろと言う方が余程残酷だと私は思うけど・・・・・・・」
「だが、その前に我々が出来る事をしたっていいはずだ。」
小夜子が体を抑え震えているリューヤを庇いながら言葉を返した。リューヤにとってリーンの変貌は耐え難いものだった。
「やれる事を誰もがやったかしら・・・・・・・一部の人間は少しでもよくと考えて動きはしたかも・・・・・でも、それが人間の総体としての意思だった?むしろ、目の前の利得に溺れ、全てを先送りにする。次々と現れる兆候を目の当たりにしても、多くの人間がそれを笑い事にした。それで間に合うとでも思っていたのかしら?「神」はずっと告げてきた。でも聞かなかったのはあなた達だわ。全てが滅ぶより上澄みだけでも残してくれる分、感謝するべきだとも思うわ。実際、アレクシーナ女王が立たれた時も自分の目の前の事だけを考え、疑い、ジョー・アルシュに主導権を渡した。それは人類が選んだこと・・・・・・・・・選んだ事には責任が伴う。それは当然の事でしょう。知らないならともかく、知った私は「神」を恨もうとは思わない・・・・・・・・例えどんな運命であろうとも・・・・・・」
「だからと言って、目の前で死んでいく人間を見捨てていいというのか?いや、見捨てられると言うのか?」
「人間らしく・・・・・・・・本当に人間の善性を信じ、行った者がどれ程いるというの?あなたは、ジョー・アルシュがつけ込んだ人間達を真の意味で知らない。それを知って「彼等」を人間と呼べて?私に言わせれば「彼等」こそ文字通りの意味でケモノだと思うわ・・・・・・・・人間は不思議だわ。酷くなろうと思えば何処までも酷くなれる。因果応報という言葉を知ってる?それが今なだけだわ。」
「リーン・・・・・・・・・」
リューヤが震えを止め静かに呟いた。いつからリーンはこうなのだ?何の為に生き返ったのだ。辛辣な現実を受け止めさせるために使われし神の使い・・・・・・・「悪魔」なのか?いや、人間に不都合だからと言ってそれが「悪魔」だとは限らない。むしろ事実を告げるものは「天使」と呼ばれるのだろう。
「「神」にも「悪魔」にも見捨てられた・・・・・・それが俺達だって言うのか・・・・・・・・」
「見捨てられた人間も多くいるでしょう。でも、総体としてはお救いになられるおつもりよ。「神」は真の意味で救われるべき者を決して見捨てはしない。」
「何様のつもりだ。そんな馬鹿げた話!」
小夜子が叫んだ。
「私はその最後のチャンスを与えると同時に、その事実を伝えに戻ったの。「神」にとっても最後の賭けだったわ。そのチャンスを蹴って反アレクシーナ組織の陰謀に乗ったのは私じゃないわ。何様のつもりと聞くけど?「神」に言わせればあなた達こそ何様のつもりなの?与えられたチャンスは一度や二度じゃないのよ!自分達の力で自分達の破滅も止めれない・・・・・・・そのあなた達が何を言ってるの?」
「俺は・・・・・・どうすればいい・・・・・・・・・」
リューヤが力無く言った。
「あなたの道はあなたが選んで・・・・・・・・私が忠告できるのはそれだけ」
リーンは悲しそうな表情でそう告げた。 |