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仮題「シャングリラ」第三章
作:月読天舞



第17話「フェイク」


馬鹿な私は私だ。俺?いや、なんだ?ウロタエルナ。連中の探りに過ぎないわ。誰だ?私?私は私。落着いて、あなたは役目を果たすのよ。
「ハハハ」
ジョー・アルシュは急に高笑いをした。
「冗談が過ぎましたか?あなた方の描くシナリオがあまりに滑稽だから私も少し付き合いましたが、悪乗りし過ぎましたかね。」
「しぶといな。」
アレクシーナがそう言った。
「あなた方には私が世界を滅ぼす者のように見えている訳だ。」
 ジョー・アルシュはそう言って、自分の右腕の痣に左手を添えた。そして、ビリビリと666の痣を剥がした。その下には何も無い無垢な肌が露出していた。
「ご覧の通り、この痣はフェイクです。驚きましたか?」
 アレクシーナ、紫炎、リーンがムスッとした顔でジョー・アルシュを見詰めた。リューヤと小夜子が少し驚いた表情をする。西城は最初からムスッとしたままだった。
「こんな痣に自分の人生を縛られるほど私はバカじゃない。そういう痣があるというなら整形でもして消せばいいわけです。それで、自分のそういう属性を消してしまう。それだけでいい事でしょう?そもそも、本気で世界制服を企むような人間が、こんな場所でそんな痣を見せたりする訳がない。違いますか?あなた方があまりに私を異質に見るから、私もちょっと悪ふざけをしてみただけです。そもそも私がそんな者だと言うなら死者を復活させるほどの神の使いとその仲間に囲まれた場所にノコノコ現れるはずがない?違いますか?まあ、私は死者の復活などという馬鹿げた事は信じませんがね・・・・」
 おかしい・・・・・ジョーはこんな立場に着く前に確かに痣の事で紫炎に相談にきていた。当時のジョーがわざわざそんな事をするはずはない・・・・・そもそもそんな悪ふざけをする意味がない。リューヤはそう思って首を捻った。ジョーはそのリューヤの考えを見透かしたように言葉を続ける。
「怪訝な顔をされていますな。確かに、紫炎教の教祖とあなたの前で私はそれを相談する素振りを見せた・・・・・・確かにそういう事をするメリットは私にはないように見える・・・・・・・・ですが・・・・・・」
「?」
小夜子が首をかしげた。
「あなた方が本物かどうか私が非常に興味を持っていたらどうです?世界の命運に関わると言われるあなた方がインチキな人間だとすると、あなた方は世界中を謀っていた事になる。あなた方のようなインチキな人間が世界が動くという場で権力を握る。それを看過することが出来ないと考えている組織があったとしたら??もちろん、あなた方が本物であったならば、その組織もこういう風には動かなかったでしょうが・・・・・・・・」
「痣はあったのです・・・・・・・・」
 紫炎が静かに言った。
「我々は、リューヤアルデベータが起こした奇跡も、紫炎の預言も、β能力者も何一つそんなインチキな物は信じていない。立場は反対でしたが、我々の考えはラスア・エラーラの考えに非常に近かったといえます。」
「お前の言った通り、痣を整形で消したという事も十分にありえる。」
「確かに・・・・・・ですが、その証拠は何処にも無く、実際、今の私の何処にもそんな痣はない。それが現実なのです。」
「なるほど・・・・・な」
「アレクシーナ女王、貴女ほどの方が、このようなインチキマジナイシのいう事を鵜呑みにするなどあってはならない事なのです。どうか、考えを改め我々の元に返ってきてはもらえませんか?」
「どういうトリックなのだ?」
 アレクシーナは静かに言った。
「彼らより私をお疑いになるのですね・・・・・・悲しい事です。」
「私は体験主義者だ。自分の体験は信じる事に決めている。」
「それが錯覚ではないと言う保障が何処にあるのです?ある種の団体がβ能力者の存在を演出し、リューヤ・アルデベータの奇跡を演出した。確かに多少の直感の鋭さはあるのかも知れませんが、実際はそれ以上の物でもなんでもない。そういう事はありえませんか?」
「馬鹿な?ではリーン・サンドライトが生き返ったという事実はどう説明するのだ?」
「まず、あなたに手渡された遺伝子データが本物だったとして、遺伝子が同じというだけ。それが同一人物だという確証にはこの場合はならない・・・・・・・・何故なら、リーン・サンドライトは研究施設で育てられている・・・・・・・・・」
「クローン???」
「そういう可能性もあるという事です。オカルトなど信じずとも幾らでも事象の説明はつく。双子であって一人はあなたに知らされていなかったとかあなたに手渡された結果が全て改竄されたものであったとか・・・・・・・不思議ではありませんか?復活したリーン・サンドライトは命を賭ける程愛したリューヤ・アルデベータに会う事を拒んでいる・・・・・それは取りも直さず別人である事を知られぬ為・・・・・・そう考えれば納得がいくでしょう。」
「そんな事はありません!」
 リーンが叫んだ。
「少し待ってくれぬか・・・・・・・・」
 アレクシーナが頬杖を付き疲れたように言った。
「何が事実で何が嘘か分からなくなるな・・・・・・・・」
アレクシーナの表情が曇り、一同に懐疑の目を向ける。自分が大掛かりなトリックに引っかかっている事、その可能性を捨てきれなくなったのだ。
「見事なものです。」
 紫炎が静かに言った。
「そのような論法を使えば誰でも自己を揺らされる事でしょう。」
「新興宗教の教祖のあなたにそんな事を言われる覚えはないですな。」
「私達は事実を突きつけ合わせ道を先へと進ませるものです。確かに過程として自己を揺らす事はありますが・・・・・・あなたのように悪しき目的を持ってはやりません。」
「あなたが善悪の判別を出来る人だと仮定しても、あなたが嘘を言っていない保障にはならないでしょう。私が話したのは全て事実に基いた本筋的仮説。オカルトなどなくても説明はつくという事。むしろ死者が蘇るとか未来が分かるとか・・・・・・そんな事が現実にあり得る訳が無い。」
「それは、唯物論、不可知主義に基く妄念ではありませんか?いえ、そう考える事を元にしたあなたの洗脳プランでしょう。」
「そうですかね?私にはあなた方こそが、人々を洗脳し「神」の名を語り、世界を支配しようとしているように見えるのですよ。事実・・・・・・あなたは私の偽物の痣に対してトンチンカンな答えをした。」
「私達は「神」という言葉を振り回してなどいません。そもそも、広義で言う神は、創造神といえど宗教によって違う。我々が知り得たのは「干渉者」の存在「創造の主」の事です。それもほんの僅かなことしか分かっていない。」
「それを私はあなたがたが利用しているのではないのかと言っているのです。そもそも、あなた方が嘘をついていないとしても、それがあなた方の幻覚でないという保証はどこにも無い。」
「過去とは過ぎ去りし時空、どのような奇跡が起ころうと疑うことは可能だし、我々は少なくとも過去には戻れない。そして記録という物は幾らでも改竄出来る。そう言いたいのですか?」
「記憶も・・・・・ですがね。」
「ですが、世界の9割以上の人間が何らかの「神」を信奉しているのです。あなたの言ってる事は近代唯物論によって築かれた強固な論理的妄想に過ぎない。それについての自覚はありますか?」
「確かに、世界の9割以上の人間がなんらかの「神」を信奉している。しかし、それは数字上の話。実際にはまるっきり無信心で、そんなものなど信用していないという人間も数多く含まれているでしょう・・・・・・・・百歩譲ってこの世界を「神」が作ったとしても我々がそれに従わねばならない道理がない。事実、リューヤ・アルデベータもそのような思想だと聞きますが?そして、私は思う。「神」がいるのならば、何故この世は「愛」と「正義」に満ちない?この世界を作り、「神」の言葉を信じるならば、この世は不条理に満ち満ちている。「神」はこの世界を作っていないか、最初に作った後に放置しているとしか思えない。」
「別にそんな事は不思議ではないでしょう。普遍的宗教のどれもが「こう生きなさい」と示唆はくれています。ですが、それは元来報われる為のものではないのです。不思議な事にこの世界が天国であるとはどんな宗教も言っていない。恐らく、この世界は「天国」に近づける事は許されているが、その為には数多くの試練をくぐらねばならない。そういう世界なのです。」
「恐らく・・・・・・ですか・・・・・しかも報われる事がないと・・・・・・・」
「厳密に報われない・・・・・という意味ではないのですが・・・・・・それをあなたのような人間に説明する事は難しいのです。」
「いえ、是非ご拝聴させて頂きたい。」
 ジョーは真面目なようなふざけたようななんとも言えない口調でそう言った。
「ならば、言います。「報われる」とはどういう事ですか?」
「なるほど、そう来ましたか・・・・・」
「身近な例を挙げますが・・・・・・」
 紫炎はリューヤの方を見た。リューヤは微かな予感に震え、頷いた。
「リューヤ・アルデベータの為に身を投げ出したリーン・サンドライトは死にました。生き返っていなかったとして、「報われなかった」のでしょうか?」
「最愛の人を残し早世そうせいしたのだ、報われたとは言い難い。」
「世間的にはそうでしょう。だからと言って報われない人生とあなたは言い切れますか?」
「それは・・・・・・確かに・・・・難しいですな・・・・ですが、その場合のリューヤ・アルデベータはどうなるのですか?彼もまた自分の命を賭けて最悪の結末を回避しようとしたはずだ。結果は彼にとって自分が死ぬ事よりも最悪だった。」
「信じ生きる事・・・・それ事態が報われた生き方とは言えませんか?金や権力を得る事を幸福と考える生き方に私は賛同できません。金を得たところで権力を得たところで世界一の美青年と結ばれたところで、幸せで報われた人生とは限りません。」
「詭弁だ。金が無ければ生きていけない。権力がゼロなら一生惨め。そうでしょう。」
「そうですね、それらがまるで無くては不幸になりやすいのも事実ではあります。ですが、生きる以上にそれらの力を手に入れたらどうするか?どう使うかそれを試されるのもこの世の試練ではないのか?私はそう考えています。」
「なるほど・・・・たいしたものだ。その考えが本物ならば、是非この先の世界の構築に手を貸してもらいたいものだ・・・・・あなたがインチキ霊能者でなければ・・・・・・・・ですがな・・・・・・」
ジョー・アルシュはそう言って言葉を切った。


来週の頭、二日ほど用事があるので休みます。
水曜以降に乞うご期待!











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