第16話「一つの欠片」
コンコンというドアをノックする音が聞こえ、衛士の声が響く。
「ジョー・アルシュ様をお連れしました。」
「お通ししろ。」
アレクシーナの声がこだまし、それに続いてドアが開く。ジョー・アルシュの登場である。6人がそれぞれ複雑な表情をしている。扉が閉まると同時にジョーが口を開いた。
「このような意味深い会合に招かれた事を深く感謝します。クイーン・アレクシーナ。」
リーンがクスリと笑った。
「大仰な事ですね、ミスタージョー。この会合の意味をあなたはお知りで?」
「失礼ですが、あなたは?」
「これは失礼しました。私はリーン・サンドライト。あなたに言わせれば双子の片割れでしょうか?」
ジョーがクックと笑う。
「これはこれは、黄泉の国からのプリンセス殿でしたか。私は現実主義者でしてね。死人が生き返ろうがなんであろうが、事実は事実として受け入れますよ、確証さえあればね・・・・・・」
「信じろと言う方が無理ですわね。目の前で現実を見せられない限りは・・・・・あなたのような方は・・・・」
ジョーが再びクックと笑う。
「人形遊びの好きな連中の手駒にしては面白い事を言われますな。」
「私が人形なら、あなたもまた人形では?」
「私が人形ならば、全ての責任は私には無い訳だ。」
ジョーは三度クックと笑った。
「化かし合いはいい加減にしてもらおう。」
アレクシーナが、二人の間に入り言葉を止めた。
「ジョー・アルシュ、座ってくれないか?」
「ええ。」
ジョーは素直にアレクシーナの言葉に従った。
「全員集まった所で議題に入る。」
全員の目がアレクシーナに集まる。
「まず、最初の議題、ジョー・アルシュの処遇をどうするかだ。」
リューヤと小夜子、そしてジョー・アルシュが驚きの目をアレクシーナに向けた。事前予告なしで本人の目の前でその対応を決めようというのだ。しかもあえて「処遇」という言葉を使っている。
リーン・サンドライトが手を上げる。
「リーン・サンドライト、発言をどうぞ。」
「ジョー・アルシュに関しては放置でよくはありませんか?どうせたいした事など彼には出来ませんから。」
紫炎が手を上げる。
「紫炎、発言をどうぞ。」
「ジョー・アルシュの問題は彼の問題というより、彼の背後にいる干渉者達の問題でしょう。そしてその更に奥で意図を引く者の存在。彼らがどう考えて何をしたがっているかが問題です。」
「彼らの意図とは?」
アレクシーナがそう聞いた。
「この世界の口減らし、そして預言の成就でしょう・・・・・・・ジョー・アルシュはこれらの問題の表層の形に過ぎない。また、これらは人間にとっても大きな問題です。何をどう出来るかやってみる事は意味があると思います。その為にはジョー・アルシュも干渉者も邪魔です。」
ジョーが手を上げた。
「ジョー・アルシュ発言をどうぞ。」
「あなた方は普通の方法で間に合うと思っているのか?馬鹿馬鹿しい楽観論にしか私には思えない。」
「だからと言って核戦争などやり過ぎであろう。」
「人間自身にその自覚がありさえすれば、そんな手段は選ばずに済んだ・・・・・・いや、私が力を持つ事すらなかったはずだ。そもそも、普通にやって人間はその道を選び取れるのか?人間は目の前の欲望に弱すぎる、自分の事は棚に上げて非難する、表面上はともかく本質的な意味で思いやり合う事などない。自らの罪で自らが滅びるのは勝手だ。だからといって、そうでない者を巻き込む必要はないだろう。」
「それを、お前が選ぼうと言うのか?」
「選ぶのは神だ。私はナンバーオブビースト。私の行動は神の計画の上にあるものだ。」
ジョー・アルシュが右腕の袖をまくり、腕を巻いていた包帯を外し666の痣を見せる。
「その痣がなんだというのだ・・・・・・・お前はそんな痣を刻んだ者や干渉者の思惑によって動くと言うのか?」
「違う・・・・・私は世界を救いたいのだ。その思いがたまたま干渉者の思惑と一致した。それだけの事だ。」
「お前の世界を救うと言うのは世界を滅ぼす事か?」
「破壊の中にこそ再生がある。ここまで来てしまった世界は滅ぶ事でしか救われない。」
「だから・・・・・・だから多くの人間の命を奪うと言うのか?」
リューヤが口を開いた。
「子供は黙っていろ!」
「俺が子供かお前が子供か、いずれどちらも子供なのだろうな。だが、諦めるという言葉は俺にはない。よく覚えておく事だ、ジョー・アルシュ・・・・・いやさ、ナンバーオブビースト」
「リューヤ、お前は知らない、この世界の穢れを・・・・・・・様々な裏側を・・・・・・本当に狂っている人間がこの世界には巣食っている・・・・・・そいつらがこの世界を壊し続けるのだ・・・・真に大事な事は亜流へとおき、目の前の自らの利得のみを追求する事を当たり前としそれを正義に包み隠し、次から次へと不幸を生み出して行く連中の事を・・・・・・しかも、そいつらは本気で自分が正しいと信じている・・・・・・・そういう連中に説得が通用すると思うか?・・・・・・・何故、私がすぐ連合の長に立てたか分かるか?β能力者を通して、彼らの利権を保証し正義を吹聴したからだ。私は見続けたのだ・・・・・そして、ここで私が立たねばどうなるか?その未来を私は見たのだ・・・・・・・この世界は生きながら腐っていく・・・・・・・・」
「そう説得されたのだな・・・・お前は・・・・・・・」
アレクシーナが少し悲しげな目でジョーを見詰めた。
「違う!俺は自分でそう考えたのだ!他者の意思ではない。」
「私はお前と話をしているのではない!「私」を出すのだな・・・・・・」
「何!・・・・・・・俺は・・・・・・・違う・・・・私は・・・・・・・・・・」
ジョー・アルシュが頭を振る。
「俺は!」「私は・・・・・」「違う、私は」「俺は・・・・・・・俺は・・・・・・・・」
リューヤが立ち上がる。
「どういう事だ?」
紫炎が静かに答える。
「彼に痣と共に打ち込まれた人格が・・・・・・・「俺」なのです。ジョー・アルシュは「俺」と「私」という二つの一人称を内在させる事でナンバーオブビーストとして完成させられていた訳です。」 |