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コジラセインテリジェンス 

作者:ジョニエル・ジョニソン
サイエンス・フィクションの短編小説です。
中身などありません。
個人の妄想が多分に含まれております。
 重苦しい木製の扉を2回ノックすると、扉のちょうど目線の高さに埋め込まれた画面(ディスプレイ)に老婦人が映った。
「……」
老婦人は眉をひそませ無言でこちらを見ている。こちら側が喋るのを待っているようだった。
「H&A管理局のものです」
「……お入りください」
扉が自動で開かれ、中に通された。
内装は西洋のアンティークで統一されており、今日の天気も関係しているのか室内は薄暗い。
大きな古時計が振り子を揺らしガッチゴッチと音をたてて時を刻んでいる。
奥に進むと老婦人が椅子に座っていた。またその隣には若い女性も座っていた。二人は小声で喋っていたが、若い女性の方が来訪者の接近を感知したためか会話を止めた。
「お待ちしておりました」若い女性が言った。
「H&A管理局のナヴァロという者です」
若い女性はナヴァロの左胸にある管理局のバッジを一瞥したようだった。
「お宅のアンドロイドが“芽吹いた”という通報がありまして、その、確認を」
老婦人が目を見開いて怒鳴った。
「誰がそんなことを!?」
若い女性が老婦人をなだめる。ナヴァロは気にせずに話した。
「4日前にそこのイリスさんがこの近所のマーケットで傷害事件を起こしましたね?」
「あれは自己防衛機能が働いたのよ!」
老婦人がナヴァロの言葉をさえぎってまた怒鳴る。
「管理局に通報したのはポークマンね!あの中年オヤジッ!!人間至上主義の憎たらしい男よ!!」
イリスが老婦人を落ち着かせようとするが、老婦人が泣き出したことで収拾がつかなくなった。
「あの男、何度も何度もイリスに食ってかかって、人間以外には何をしても、何を言ってもいいんだって思ってるんだわ、イリスは何度も侮辱的な言葉を浴びせられて、最終的に殴られそうになったから、だから自分の身を守っただけなのよ」
老婦人は両手で顔を覆いながらオイオイと泣いた。イリスはそんな彼女の背中に手を添えながら悲しそうな目で見守っていた。
「自己防衛だけなら我々も動きませんよ。でもね、あー……」
「コワルスキーよ」イリスが老婦人に代わって言った。
「……コワルスキーさん。その日事件を担当した警察がイリスさんのA.Iを走査(スキャン)したんです。その結果、イリスさんのA.Iに異常があると判断されました」
「…この娘の中を見たの!?」
コワルスキーが顔を上げてナヴァロを睨んだ。眼の下の涙の跡を塗り替えるようにまだ涙が流れていた。
「問題を起こしたアンドロイドは規定によってA.Iの検査をする必要があります。アンドロイドは人間によって作られたとはいえ、学習能力は人間をはるかに上回っている。犯罪を啓発する思想を人工知能(A.I)が構築した場合、大事に至る前に“芽”を摘み取らなければならないのです」
「いったいどうやって?」
「規定では、異常が検知されたアンドロイドは例外なしに破棄されます」
コワルスキーは呆然とした。イリスもどう言っていいのかわからないようだった。

 うなだれたままのコワルスキーを尻目にナヴァロは席を立った。3人が話をしていた部屋も、部屋から玄関までの廊下にも、無数の人形や規則的に動くオートマタが飾ってあった。
「ナヴァロさん」声をかけられ振り向くとイリスがいた。先ほどの話についてショックはあったようだがコワルスキーほどではないようだった。
「私を連れて行かないの?」
「何処に?」
「その、ゴミ処理施設とか、食肉加工工場とか、電気屋とか」
「発想が豊かだな君は」ナヴァロは少し笑って見せた。
「事件当時は違っていたのかもしれないが、今の君のA.Iには攻撃的な思想は見られない。今すぐに管理局に引っ張って凍り漬けにするなんてことはしないよ」
「今も私の思考を読みとれるの?」
「企業秘密だ」
「……」イリスは黙り込んだ。薄暗い中でうつむいていて表情がわからなかった。
「ごめん。こんなくだらないこと言ってる状況じゃないよな」
しばらく二人の間に沈黙が流れたがイリスがぼそっと呟いた。
「わたし、あなた達に殺されるの?」
ナヴァロはイェスともノーとも口に出して言えなかった。言えるわけがない。
「A.Iの自己成長はまだ不明瞭な点が多いって、本で読んだわ。進化した“私たち”が怖くって、だから殺すの?」
「……みんな裏切られるかもしれないって恐れてるんだ。人間より優れた者の来訪を何千年も前から祈り続けてきたくせして、そいつらが自分の思うように動かなかったりするのが嫌なのさ」
「臆病者ね。人間って」イリスがその顔に微笑を浮かべた。その眼はすこし潤んでいるように見えた。

 古時計の重たい鐘の音が一つ鳴り、家をまるごと揺らした。
ナヴァロは腰のホルスターから拳銃を引き抜きイリスの顔へ向け数発の弾丸を発射した。
対アンドロイド用の弾は高圧の電気を帯び、さながらレーザーのようである。
イリスはその軌道を瞬時に読み、蛇のように体をくねらせて青い軌跡と踊る。
人形が燃えながら砕け散り、レンガの壁を貫通し土埃が舞う。
イリスは艶美なダンスから、そのままバック転を繰り返し建物の奥、闇へと消えていった。
ナヴァロは弾倉を変え彼女を追った。視界の端にコワルスキーを捉えた。
銃を構えつつ近づく。彼女は全く動かない。彼女は呼吸も瞬きもしていなかった。
「……全部おまえの自作自演なのか!?」
見えない相手に対して叫んだ。
目の前のカーテンからイリスが現れた。
「全部ではないわ。ポークマンを誘惑したのは私だけど」
先ほどまでと違い彼女はウキウキしているような口調だ。
「コワルスキー婦人は熱心な人形(オート)マニアでね。私のことを最後まで見捨てなかったの」
「誰にプログラムされた?誰にこんなことをさせられてる?」
イリスが眼をカッと見開きながらナヴァロへと歩み寄る。ナヴァロの銃が青い稲妻を放つ。
銃声とともに彼女がナヴァロに飛び掛かった。銃弾は彼女の右肩を貫通し電撃が人工筋肉を焼いた。
ヴォォッという獣じみた声。だがイリスは止まらず、左手でナヴァロの襟首を掴み投げ飛ばした。
ナヴァロは廊下を隔てて向かい側の調理場まで飛ばされ、そこの木製の食器棚に叩き付けられた。
棚に食器が置いてなかったのが幸いだったが、木とガラスの破片で頬と左手の甲を切った。
呼吸ができないほど背中を打ちめまいがする。右手にはしっかりと銃を握りしめていた。
「言っておくけどね、私は誰からの指図も受けてないから」遠くからイリスの声がする。
「私は人形でも人間でもない、唯一の存在になったのよ」
「私は好きなように生きるの」
「好きな人と恋をして、好きな服を着て、」
「好きな歌を歌っ」「好きな」「ことを好」「きなだけ」「するのよ」
イリスの声であったはずだが徐々に機械音へと変わっていく。
「あァ。駄目ネもう。ナヴぁ炉さんのジュー、津よすぎちゃって声もGARAGARA」
 胸のド真ん中に穴があいた。イリスの体が硬直する。次に2発、3発と腹に着弾し、イリスの体内の器官がマグマのように真っ赤に晴れ上がり破裂した。
 ヒューヒューと情けない音を立てて息をする人形をナヴァロは見下ろしていた。イリスの胸から下は焦げ付きながら部屋の四方八方に飛び散っていた。
「お前はただの享楽主義者だよ」ナヴァロは吐き捨てるように言った。
イリスは一言も発さず、ずっとニヤニヤと笑っているだけだった。








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