【襲校 漆】 キルト
校舎を何の警戒も無しに出て行くのは幾らバカな私でも危険だと気づいた。流石に《飛島グループ》だってあれだけの事を言っておきながら何の処置も取っていないとは考え難い。ただ、これだけ大々的なテロを起こしておきながら、妙におざなりな警戒だ、と今更気づいた。まあ、単に体育館にいる人質を優先するためと言えば、校舎の方に人員を割く必要は無いのだが……そもそも奴らの目的は何だろう? 金? ……しか思いつかないところだが、私の考えは違う。恐らく、奴らの目的それは―――私。厳密に言えば私の命だ。飛島茅夏が奴らのトップにいる事は間違い無いのだから、私を殺すためにテロ部隊を組織したと考えられない事じゃない。
時間はいよいよ無くなってきただろう。脱出すべきなんだろうが……どこから出るべきか。昇降口から出て地雷原を歩く? ……私の運なら可能かも知れないが、その場合マスコミ共に要らぬ映像を見せつけてしまう破目になる。できる事なら、誰の眼にも映らない場所を……
考えるが、私の頭はそんな上手い具合にできていない。すぐに煮詰まり、沸騰しそうになる。
歩きながら考えていると、……後ろに気配を感じ、足を止める。
振り返らなくても、そこにいる奴が誰か位、すぐに分かった。
「……何の用?」
「……おまえに、代われと言ってやがんだ」
流天はそう言い、重たい足を引き摺って私に歩み寄って来る。私が振り返ると、さっきまでの涙は拭ったのか、どこか重病人の趣を纏った流天が立っていた。手には、携帯電話が握られている。通話中らしく、液晶画面が光っていた。
「……誰?」
「飛島、って名乗った」
―――飛島。
彼女が、直に私に電話を?
でも、何故流天の電話番号を知ってる? ……疑問は多々あったが、それは置いておく。分からない事を考えるのは得意じゃない。引っ手繰るように流天から携帯電話を奪うと、耳に押し当てる。
「……代わったわ」
『ハロー、あんたが逢魔キルト? 昨日逢ったんだから憶えてるよねー? あーたーしー飛島茅夏でーっす』
明るく、明朗で、快活な声が鼓膜を打つ。……とても、人殺しの声とは思えない。
怪訝に思いながらも、私も言を返す。
「……学校にテロを送り込むなんて、凄い」
『あっはっはー♪ まっあねー♪ あたしにできない事は無い〜なーんて! それでさーキルキル〜。あんたさー、そこで殺されてくんない? そしたら、楽なんだけどなー、このゲーム』
……やっぱりそうか。ならば、私はやっぱり戦わなくちゃならないのか。
「私を殺すつもりなら、私も殺すつもりで行くだけ」
『そんな事言っても無駄っつーかー、そこ後十分も経たないで爆破すんだよねー。どう脱出すんの? 消えるの? 飛んじゃうの? それとも瞬間移動でもすんのー? できないよねー? なら、潔く死ねよ。とっても嬉しい事に、彼氏が看取ってくれるじゃん。それでいいでしょ?』
……彼氏? ……ああ、流天の事か。
「あいつに看取ってもらっても嬉しくは無い」
『またまた〜♪ そんな訳で、最後に話せて好かったよキルキル♪ じゃっあねー!』
通話が切れ、液晶画面に待ち受け画面が戻ってくる。
私は携帯電話をぞんざいに放り投げ、流天がそれを片手で受け取る。
「……どういう事か説明しろよ、キルト」
「……何が?」
「惚けんな。……今の奴は誰だ。おまえは、何に巻き込まれてやがる?」
流天が怒りを耐えるようにして私を睨んでくる。それを見ても何も思う事が無い。ただ、どうしてそんな事でそんなに怒りを感じるんだろうこいつは、くらいは考える。不思議な男だ。
惚けてるつもりは無いけど、私はどう応えるべきか悩む。一応、答えられる事は答えておく事にする。
「今の奴は、飛島茅夏。……だと思う」
「……それは分かった。じゃあ、何でそいつに命を狙われてやがる?」
「殺し合えって言われたからじゃない?」
「おまえは殺し合えと言われたら殺し合うのか? 死ねと言われたら死ぬのか!」
流天の怒号。本気で怒ってるのは分かるけど、その理由が分からない。私を怒る意味が分からない。意味も分からず怒られたら、私だって気分が悪い。
だから、言い返した。
「―――じゃあ、あんたは生きろと言われたら死ぬの?」
「っ、屁理屈言ってんじゃねェよ! そんな問題じゃねェだろが! ……ッ、もういい! テメエの考えは全く以て分かんねェよ! サッパリだ! だがな、俺は決めた今決めた! 俺がテメエを守る!」
……訳が分からない。
流天を不審な眼で見つめると、流天は怒りでも感じてるのか眉間に皺を寄せて私を睨み返してきた。
「何とでも言え! テメエが何をしようが勝手だよ俺も文句は言わねェ! だったら俺も好きにさせてもらうそれだけだ! 分かったな!」
「……おまえ、バカだろ?」
「―――うっせェな! 言われなくても分かってんだよボケ! ああもう、ンな事言ってる場合じゃねェだろ! 爆発すんだろここ! なら、早く出ようぜ!」
「……さっき私そう言ったんだけど」
「ええいっ、つべこべ言うんじゃねェ! 行くぞ!」
駆け出そうとする流天が私の手を引いた時、脇腹に痛みが駆け走り、思わず呻いたが、こいつは気づいてない。……変な奴だ。心底そう思う。……でも、嫌いじゃないとも思った。
こいつは変な奴だけど、嫌いじゃない。それだけは、確かなようだった。
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