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染色体プルーフ
作:ゆんち


 先生、私は個人でありたいのです。
 集団に埋もれて自己を隠したくないのです、失いたくないのです。
 「友達」と称したそれらと似たような笑顔を張り付けて生きるのは、死にそうなのです。仮面は、生き易いけれど、呼吸がし難いのです。



 五日前、小学校一年生のときに書いた宿題の日記を見つけて、読んでみました。
 くずれた汚い平仮名ばかりでとても読みづらかったけれど、そこには今でも変わらない本音が書いてあったのです。今、恥ずかしかったり強がったり作ったりして口に出せなくなってしまった本音が、書いてあったのです。自分が変わったのだということを実感すればするほど悲しくなりました。本音さえも口にできなくなった自分に、本音を口に出せなくした周りの環境に。
 先生はどう思いますか? 変わってしまった今の自分をどう捉えていますか? 私には暗闇しか視えないのです。
 教えて下さい先生。
 私は何を見据えて生きて行けばいいのですか?
 夢も希望も何もないこの世界で、何の為に生きていけばいいのですか?
 「私」は死にたいと願ってやまないのです。例えば此処に銃があったなら、迷わず私はこのこめかみを打ち抜くでしょう。

 ねぇ、先生。つまらなくて仕様がありません。最近ではそのつまらない理由さえ明確にわからないのです。考えようとする思考回路の先には真っ黒い壁があり立ちはだかっていて、答えを出せないのです。

 先生、私に言葉を下さい。正しくなくたっていいのです。言葉を下さい。
 でなければ私は自己というものを失ってしまいそうです。
 やらなければいけないことは沢山あるけれど、やらなければいけない理由がわからないのです。だから誰かに教えて欲しいのです。
 他力本願ですか? なじられてもどうしようもないのです。


 先生。なぜ人類は進化しようとするのですか。高尚なものに成ろうとするのですか。変わろうと必死なのですか。
 自然の美しさを奪ってまで必要なものなのですか。どれほどの価値があるというのですか。あのあたたかみのない塊に。いずれ廃れるだろうあれらに。
 進化への代償は、二度と還っては来ないというのに。


 世にはびこる悪に、例えば「殺人」と言い、例えばその罪を死を以て罰するのに、なぜ戦争を仕掛ける政府は生きるのですか。あれは大量殺戮ではないのですか。自分の手は汚さずに権力にものを言わせ奪い合うのは、罪ではないのですか。
 「殺人者」を死刑と以て在る命を奪うことが、なぜ良しといえますか。
 なにが正義。なにが防衛。
 虫酸が走る思いです。

 道徳なんて誰に決められますか。
 正義なんて。悪なんて。

 ルールがあるのです。個人に。
 なぜ侵そうとするのですか。
 なぜ壊そうとするのですか。

 尊重をしてほしいのです。個人を。貴き命のすべてを。


 汚れた世界は、どうしたら綺麗になりますか?

 無くしたものは、どうしたら取り戻せますか?

 どれだけ考えても、答えは出ないのです。


 このちっぽけな集まりを脅威だと思わないで下さい。

 平等ではないことくらい知っているのです。



 学校で、同じことを同じように教えることの意味は何ですか? 子供を同じようにつくりあげたいのですか?
 私にはそれが、お前じゃなくてもいいと言われているようで、悲しいのです。


 先生。
 私は可哀相でありたいのです。なぐさめになるから。
 この気持ちを先生はわかってくれますか。いえ、わかってくれなくてもいいのです。だけど否定をしないで欲しいのです。


 先生、尊重されるべき個人でありたいのです。


 混じわりたくないのです。
 侵されたくないのです。
 代わりのある存在なんて嫌なのです。
 特別でありたいのです。
 正真正銘のオリジナルでありたいのです。

 誰かにとって唯一無二のかけがえのない存在でありたいと願うのは、愚かですか?

 必要とされたいのです。
 私でなければ駄目だと、思って欲しいのです。



 ひとけのない静かな場所で生きていけれたらと。
 そう、思ったりするのです。

 独りでいたいというわけではありません。
 もちろん一人になりたいときはあるけれど、独りは嫌なんです。
 誰かと寄り添い生きていきたいと思うのです。願うのです。



 先生。
 愛とは。自由とは。国とは。光とは。夢とは。喜びとは何ですか。
 人類を。この血を。染色体を。すべてのものの意味を。




 教えてください、先生。






ここまで読んでいただきありがとうございました。














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