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能力都市の守護者達

作者: 毬禰


いついかなる時であっても朝は眠たいものだ。

それがまだ春の陽気を残している今の季節ならなおのこと。

だが、それで遅刻をすればそれ相応の代償を払わなくてはいけないわけで、それが私が今憂き目に合っている理由でもあるのだが。


ーーーー


ーー


「……休日出勤とか私の仕事じゃないのにー」


『いいから早く来てくださいよ!こっちは割りとヤバイんですからね、あとどれくらいでこれそうですか?』


「あと5分くらいかな?建物は見える位置だし」


『了解しました。それでこっちは調整しておきます!』


通信が切れたデバイスをポケットにねじ込むと前に座ってスクーターを運転している男のヘルメットをコンコースと叩いた。


「5分で着きそうか?」


「一応確認してから時間を言えよ!まあそれくらいで着きそうではあるけどな」


丁度青に替わった信号を右折し、大通りに入ると遠くに人が集まっている場所が見えた。

さらに近づくと喧騒が大きくなり二人の目的地であることが見てとれた。


「退いてくださいよーと!」


エンジン音とクラクションで野次馬をかきわけ、スクーターを滑り込ませると、規制線の前で急停止させると後ろに乗っていた少女はひょいと飛び降りると規制線を越えて中に入っていた。


「俺はスクーター置いたらすぐに向かうな。」


少女は男にヒラヒラと手を降って答えると、中に居る警察に一枚のカードを見せると何も言われずに素通りし、先ほどの電話の相手であった少女に声をかけた。


「あまっちゃん着いたよー」


「あっ、夜見先輩意外と早かったですね、着いたならこきつかうのでさっさと準備しちゃってください」


「いや、そんないい笑顔で言われても……、私一応先輩だよ?」


「先輩ならそれ相応の威厳と言うものを見せてください、ほら、今回なんていい機会ですよ?」


えー、文句をいいながら渋々準備を始める夜見を横目に、司令官を担当している彼女は全線に無線で指示を送った。


「これから最高戦力を送り込むから場所を開けて、一気に畳み掛けるよ」


了解の言う返事を聞くと、夜見の方をもう一度見た。


「夜見先輩、準備はいいですか?いいですよね、いいに決まってますよね!」


「……眠たい」


「私の機嫌がこれ以上悪くなる前に早く行ってくださいね?」


笑顔だが目が笑っていない彼女の顔を見て、はぁ、というため息を1つ吐くと、浮かない顔ながらも目の前の建物へと入っていった。


「怪我をしたくないやつはどっかに行っておいてねー」







建物はコンクリート製の四階建てで、今では使われていないためかコンクリートが剥き出しの床や割れた窓が目に入った。

涼華は耳に着けた無線に通信をつなぎ、司令官である後輩の天野に状況を聞く。


「今どんな感じになってるの?」


『立てこもり犯は三階の奥の部屋を陣取って人質を取っています。犯人の能力はトラップだと思われます、部屋意外にも至るところに設置されているようですので注意して下さい。うちの班からもそれによって何人かの怪我人が出ています。』


「りょーかいりょーかい、でもあまっちゃんの部下のお陰で大体のトラップは無くなってるね」


『……あの馬鹿トリオがところ構わず走り回ったせいでトラップ発動しまくりましたからね、そのせいで回りの部下にも被害が出るし』


「私としてはありがたいことだけどねー、」


一階から二階に通じる階段にトラップが多かったのか、至るところに血の後が見え半壊して崩れ落ちそうになっている姿がその凄惨さを物語っていた。

二階に入ると、先ず始めに通路の真ん中にぽっかりと空いた大きな穴が目に入り、その先はさらに凄惨さ有り様だった。

内戦が起こっている地域のビルがこんな感じだったなと思いながらとトラップが発動し終わったと思われる場所を中心に通り抜け、三階の奥へと通じる階段の前に到着する。


「この階段を登ったたら直ぐだったっけ?」


『はい、その先の部屋が立てこもり犯のいる場所になります。三階への階段もトラップは少なくなっていると思いますが部屋の前、中は踏み込めないほどのトラップが仕込まれているようで容易に立ち入るのは難しいと思われます。』


「なにそれ、普通にめんどくさいんだけど」


階段をひょいひょいと乗り越え部屋の前、五歩ほどの距離で立ち止まる。


(あー、ヤバイなこれ。普通にやったら確実に死ぬやつだね。)


明らかに禍々しい、とりあえず詰め込めるだけ詰め込みましたと言わんばかりの雰囲気が漂う扉は恐らくあと一歩近づくだけでも体が木っ端微塵になるだろうと思われた。

本来ならばどれだけ凶悪な犯人であってもこれだけ能力を仕込むことはないのだがよっぽど焦っていたのだろうが涼華からすると迷惑な話であった。

さらに部屋には同じだけのトラップと人質まで居るとなるとかなり面倒な話であった。

ジジッと言うノイズと共に耳に付けていた無線に連絡が入る。


『おーい、涼華。こっちは準備出来たぞー』


「時間かかりすぎなんだけど?なにやってたのさ」


『スクーター置くとこがなかなか見つからなくてな、まあ天野と俺のコンボなら一瞬だけどな』


『大きな笑い声たててないでさっさと行って欲しいんですが?蕨先輩。』


「んじゃやるよ?蕨ちょっとと合わせてねー」


任せろと言う威勢のよい声を聞き、扉へと向き直り、涼華は能力を発動する。


「扉よ、『流転』しろ。」


涼華の言葉に合わせるように扉はどろりと溶け水へと替わり、部屋に穴を開けた。


「っつ!なんだ貴様は!」


「俺ら?俺らはちょっとした救世主だよ」


目は血走り、口の端からは泡のようなもの飛ばす犯人は前から現れたものとは別に本来ならば人質が居る場所から聞こえるはずのない男の声に驚き後ろを振り替える。


「はっはっは、遅いぜ、おっさん。涼華と俺を『置換』せよ!」


芝居かかった蕨の言葉と共に二人の場所が入れ替わる。


「悪事も終わりだよ、おじさん。止めは私だ、この部屋すべて『流転』せよ!」


涼華の言葉と共に部屋は木っ端微塵に爆発した。


ーーー


ーー



「いやはやちょっと失敗しちゃったねー」


服を所々焦がし、煤にまみれながら疲れたように涼華が建物からのっそりと出てきた。


「いやいや、ちょっとじゃないですからね!大惨事ですよ、先輩!危うく犯人殺すところだったんですからね!」


「俺も結構ヤバかったんだけどな……」


「おや、蕨先輩は死んでもよかったんですよ?」


「さらっと笑顔でエグいこと言うのやめてくれんから、天野さんよ」


同じように煤にまみれて姿を現したら蕨に天野の辛辣な言葉をかける。


「司令、車の準備が出来ました。」


「分かりました、では私はもう行くので二人も帰宅してもらって大丈夫です。明日は休みで良いのでゆっくり寝てもらって大丈夫ですよ、夜見先輩。」


そう言い残すと護送車に乗り込み天野は去っていった。


「ふふ、今夜はのんびり寝れそうだぜ~」


「天野のやつ、さらっと俺のこと無視しやがったな……」










その日の深夜、大音量の緊急連絡の着信で涼華は叩き起こされた。

時計を見ればまだ12時前ではあったが、昼間の疲れのせいで早々と寝ていた涼華はすっかり夢の中だった。

こんな時間にいったいなんなのだ、と思いながら電話に出ると焦ったような天野の声が流れてくる。


『夜見先輩、緊急事態ですので来てもらえますか?地図は今から送りますから!』


「ええっと、私って休みじゃなかったっけ?」


『まだ今日なのでセーフですね。ではよろしくお願いします。』


その言葉で電話は切れると端末に地図が送られてくる。

その画面を見ながらため息を一つつくと涼華はしぶしぶ身支度を始めた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 休日出勤に対する主人公と天野の対応が面白かったです。休日出勤が嫌という主人公の考え方は読者としても共感できますが、主人公にも出てもらわなければならないという天野側の背景も見え隠れしていると…
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