みやげは引きこもりを卒業するそうです!
「これからどうしようか……」
朝食の後片付けしながらつぶやく。
親の衝撃的発言によって、ぼくの今まで創り上げた生活が崩壊した。
それはまるで、ビルの爆破解体の様にいきなりで、一瞬の出来事だった。
リビングの時計を見てみる。
「9時……」
もう1時間経過したのか…、時間は経つのが早い。
正直、ぼくは現実を受け入れるのが遅い…。
今でも、衝撃的発言が母の天然による勘違いや、夢であることを願ってしまっている。
そう、これは何かの間違え、間違えだーーーーー!!!
プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル――――――
再び、リビングの電話機が鳴る。
まさか…! 母さんから! ふふふ、やはり間違いだったか。
母さんが天然でよかった~~~!
心臓には悪いけど…。
電話に出たら何て言おうか。
ガチャッ
怒っていてもしょうがない。許してあげるか。
「もしもし! も~、冗談きついよ~。母さ―――」
電話機の向こう側から声が聞こえてくる。
『父さん、なのだが……』
一瞬、世界が凍りついた…。
『おい、四葉。聞こえているか?』
「あっ、ちゃんと聞こえているよ。それよりどうしたの、夫婦そろって息子に電話してくるなんて」
我に返った。
『そのことなんだが…』
「?」
まさか…。
『さっき…、母さんから電話、あったよな』
「う…うん、あったよ…」
ぼくはゆっくりと息を呑んだ。
『その話、全部―――』
嘘だと言ってくれ。
『本当のことだ』
ぼくはダメ押しの一撃を受けた。
「なっ、なんで同じことで二人とも連絡してくるのさ!?」
正直、二度の精神的ダメージは欲しくなかった…。
『母さんに頼んでしまったからだよ』
「へ?」
『かあさんは、えー何というか…。天然? だからな、お前がこのことは母さんが天然だからきっと勘違いないと、思うのではないか。ということでお前にダメ押しの連絡した』
考えが読まれている!?
「でもっ、いくらなんでも今日から仕送りストップは厳しいかと…」
そういえば、もう冷蔵庫の中は空だ、ここでストップを食らうと仕送りも底を尽き、本当に不味い。
『厳しい? よく言うな、四葉』
『半年間、仕送りされていただけありがたく思え、実際のところお前が引きこもると言ったときに父さんは仕送りを止めようとした、しかしな、母さんが泣いて頼むから仕方なしに続けることにしたんだ』
母さん…、ありがとう。
「でっ、何で今さら仕送りをストップしようと?」
何で半年なんだろう、一年でもよかったはず…。
『……』
ん? どうしたんだろう。
『実はな…、四葉。父さんたち…、ここに移住することにした』
「はっ!?」
なっ、何いっているんだ!! 父さんはっ!!
『母さんがここをとても気に入ってな、移住の準備期間、つまり半年間だけ息子に情けを掛けてやってくれと言うから…』
それで半年…。あのクソ母親、結局は自分の私利私欲が一番で息子が二番か。
感謝して損した……。
『まあ、そんなに母さんを責めるな、母さんは仕送りゼロのところをどうにか、半年にしてくれたんだぞ。それだけでも十分じゃないか』
そのゼロにしようとしていた張本人が、そういうことをいわないで欲しい…。
『おっと、もうこんな時間か…。すまないな、四葉…父さんたちを恨まないでくれ。
これもお前の成長のため』
「えっ!? もう切るの!」
これを切られたお仕舞いだ!
何とかして命綱を留めないと!!!
「父さん、ぼく…父さんに言わないといけない事があるんだ!!!」
『悪いが時間が無い、まあ…、短い話なら聞いてやれるがどのぐらい時間が掛かるんだ?』
これはチャンス!!!!
「えっと…、いっ、1時間ぐらい………」
ガチャッ… ツ――ツ――ツ――ツ――
今…、命綱が切れる音が聞こえた……。
これで完全に仕送りがストップしてしまった…。
「やっぱり、仕事を探すしかないのか…」
ほとんど、家具が置かれていない殺風景なリビングで一人呟く。
仕事か…、こんな引きこもり男を拾ってくれる職場が在るのだろうか…。
「こんなところで考えていてもしょうがないし、部屋に戻るか…」
重い足取りでぼくは、自分の部屋へ戻った。
「そんなに都合のいい仕事は無いか…」
自室にあるパソコンの画面を見て、ため息をつく。
「接客業…、接客業…、接客業……、何でこんなに接客業が多いんだっ!!」
人と接するのが嫌で引きこもっているんだ。いまさらその信念は曲げられない。
「もっと少ない人間としか接さない仕事は無いのかっ!?」
パソコンの電源を消す。
インターネットの求人検索サイトを探しても、なかなかいい仕事が見つからない。
「この際、贅沢は言っていられないな…」
今日中に何か仕事を探さないと、明日から少なくとも食料はゼロだ。
こんな事が長く続けば、流石に餓死してしまう。
今度は雑誌の山に手を伸ばす。
「本当にどっかに、ぼくに合った仕事は無いのかっ!」
雑誌の求人欄をものすごい速さで読んでいく。
1時間後…
「やっぱり無い……」
ぼくは愕然とした。
何でこれだけ探しても見つけられないんだ、理想の仕事。
思わず手に持ていた求人雑誌を投げ出した。
バスッ…… ドドドドドドドドドドッッ!!!――――――
「えっ!?」
積み上げられた雑誌やゴミの山が倒壊し始めたっ!!!
まっ、不味い……。ぼくはゴミの波に消えていった……。
あ……、ここで死ぬのか…ぼくは。
きっと、その内の新聞に『引きこもり高校生自宅で変死!!』なんて記事が出るんだろうな……。
「てっ…、死んでたまるかーーーーーっっ!!」
埋もれながらもどうにか、生き返った。
「てゆうか普通、死なないだろ」
何で自分にツッコミを入れているんだ……。
ふさっ…
「?」
山が倒壊したため何かが落ちてきた。
求人募集
・使用人募集! あなたも中帝財閥の使用人になってみませんか!
・時給〇〇万円から!
・当日面接可!!
下に地図が書いてある。
「時給〇〇万円っっ!!!」
なんつーーー仕事だっっ!
使用人か…、これだったらいけるかも!
「でも、中帝財閥って何だ?」
聞いたことが無い。
まあ、これだけ時給のいい仕事はそうそうあるものでの無いし、面接を受けに行ってみよう。
「と……その前に」
面接を受けるときの服装はどうすればいいか……。
髪は半年間の結果、肩まで伸びているし、服も一昔前のダサダサなやつだし。
髪を切りに行くにも、服を買いなおすにも、金が無いしな……。
「大金目当てなだけだし、当たって砕けろだな!!!」
今、珍しくポジティブになった気がする! 砕けちゃいけないけど……。
着替えが終わった。求人の紙に書いてある地図をあらためて確認する。
「意外と近いな……」
場所的にここから30分ほどのところだった。
この近くに金持ちが住んでいるなんて聞いたこと無いけど。
玄関に移動した。
久しぶりに靴を履く。
ぼくは恐る恐るドアノブに手を伸ばした。
ギィィ……
ドアが開く。
ぼくはこうして外の世界への一歩を踏み出した。
「これで引きこもりは、卒業か……」
次回からはいよいよメイドが出ます!!
引きこもりの話ばかりですいません。