悪夢
最近、変な夢を見る。
だだっ広い原っぱで、ぽつんと独りぼっちになっている夢だ。
かと思えば、いきなり老婆に追いかけられたりする。
そうして、あと少しで老婆に掴まってしまう……というところで、はっと目が覚める。なんという悪夢。
そういえば昔、幼い頃にも知らない女に追いかけられる夢をよくみたっけ。
お母ちゃん、怖い夢をみたよ、なんて母親に泣きついて、頭を撫でてもらったっけ。
怖かったでしょう、可哀想に……なんてね。
もしも、誰かが隣で眠ってくれていたなら、うなされている私の体を揺すって起こしてくれたりするのだろう。
怖かったでしょう、可哀想に……なんていいながら、頭を撫でてくれたりするのだろう。
生憎、私は独りぼっちだ。
寝ても覚めても、広い世界で、ぽつんと生きて、ぽつんと眠りにつくのだ。
今日も、同じような夢を見た。
同じような、というのはつまり、いつもと少し違ったという意味だ。
今日は、老婆が私を掴まえたのだ。
「なぜ逃げる?」老婆が問いかける。
私は「どうして追いかけるの?」と聞き返した。
「独りぼっちが怖いからだ」と、老婆は答えた。「独りぼっちになって不安で仕方なかったからだ。たとえ現実でなくてもいいから、誰かと一緒に居たかったのだ。こんなに悲しいことはないだろう。こんなに悲しいことは。こんなに広い世界で独りぼっちなんて、これ以上の悪夢はないだろう?」
ジリジリリリリ……。
目覚まし時計の音が邪魔をする。
ああ、覚めたくない。
どっちが悪夢なのか分からない。
本当だ、本当だ。
現実じゃなくてもいいから、誰でもいいから、独りぼっちになりたくない。
私は、ふと 目についた幼い少女を追いかけた。
待って、行かないで。
お願いだから、独りぼっちにしないで。
怯えたような表情の少女を、無我夢中で追いかけた。
「お母ちゃん、怖い夢をみたよ」少女が泣きじゃくり、母親に抱きつく。「怖い女の人が追いかけてくるの」
母親は優しく微笑み、頭を撫でてやる。「怖かったでしょう、可哀想に……」
こんな風に、甘えられるなら悪夢も悪くないなと少女は思った。