10
王からの手紙を受けて、ディディオンは会場へと足を運んでいた。
ダニエルはそれを見て嫌そうな顔をしたが、自分が壇上に上がり、ディディオンが壇上に上がってこないことを見ると、勝ち誇ったように笑った。
王はダニエル王子の奇行には目もくれず、参加者もダニエル王子が何をしようと興味のないように眺めるだけだった。
王は挨拶を終えると、一度ためを作り、大きな声を出した。
「次期王をディディオンに任せようと思う。ダニエルについては気を揉ませることも多かったと思うが、ダニエルは王とならない。
今までのことは水に流し、忘れてくれ。
本当の後継者は、我が息子のディディオンである!」
ダニエル王子はギョッとした。
「ち、父上!どういうことですか!なぜあいつが、王になどーー」
「お前が本当に王になれるとでも?魔力でも知力でも全くもって相応しくない。だからレティシアをあてがったのだ。それをお前はあのような...」
「レティシアか!レティシアがいれば俺が王か!」
ダニエル王子はズカズカとレティシアの方へ歩いてきた。
「おい、お前と結婚する。」
レティシアはダニエル王子の言うことが分かっていたかのように、うんざりとした表情をした。
「イヤです。」
「お前、なにをーーこの俺がお前と結婚すると言っているのだぞ?!そもそもお前はそのために教育され、俺との結婚も喜んでいたではないか!!」
「はぁ、あのですね、私はもう王族なんですよ?あなたの言いなりになることもありませんし...」
レティシアは、一体いつ自分が喜んだのか...と呆れた顔をした。
こんな男が従兄妹では、レティシアも相当恥ずかしいだろう。
かろうじて国に残っていた他国の者や、民衆は、あのスキャンダルにまみれたダニエル王子が王とならないことに喜びの声をあげた。
ディディオンについて知っていた者は、王として相応しい男が帰ってきたと、歓迎の言葉をかけた。
しかし、ディディオンは冷たい表情のまま、ピクリとも動かなかった。
ゆっくりと壇上へ上がり、口を開いた。
「王は今すぐ王座を降りて下さい。」
「まあ待て。いずれお前に譲るのだ。そう焦るでない。」
王はディディオンの肩に手を置こうとしたが、避けられた。
「王座を辞しては頂けないのですね?」
「あと数十年は待てば、辞すことも考えよう。」
ディディオンは、すうっと息を吸った。
「王よ。あなたは、幼児であった私やレティシアから魔力を吸い取り、それを自分の魔力として偽っていましたね。」
会場がざわめいた。
「王であろうと罪は罪。残念ですが王座どころではありませんね。」
「な、なにを!証拠でもあるのか!」
当時は幼児だったディディオンとレティシアの証言だけでは、王を罪に問うには弱かった。
レティシアのチョーカーにしても、魔力が王家へと供給されたことが明らかになっても、幼児期からだったとは証明できない。
「私が証人となろう。」
王の元へと進み出たのは、ディオゲネス公だった。
「ここに、幼少期からレティシアを見守っていた者の記録がある。」
「そ、そんなものでっち上げだ!」
王はディオゲネス公から奪い、切り裂こうとした。
「レティシアの素行調査のために付けていた、王家お抱えの密偵。彼も証言してくれるはずです。」
王はその場に崩れ落ちたが、兵士も王を捕らえられるわけもなく、どうしていいのか分からずに微妙な距離を保っていた。
だが、一度公の場で暴かれてしまった以上、これまでの悪行は全て日の元に晒されるだろう。
ディディオンは王を冷めた目で見ると、会場に向かって宣言した。
「私は王族から抜けた身。王になる気はありません。私が抜けた今、レティシア様が次期王です。」
「ディディオン!」
王の制止も聞かず、ディディオンは壇上から降りた。
「せいぜいこの国で足掻けばいい。」
レティシアの耳元でぼそりとつぶやくと、ディディオンは姿を消した。