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ダニエル王子は崖っぷちに立たされていた。
マリアンヌは捉えられ、ダニエルも勝手に披露宴の招待状を出したことにより、罰を受ける羽目になった。
マリアンヌとの婚約が上手くいっていれば、勝手にしたこともうやむやになり終わっていただろう。
罰はダニエル王子の心に響くものではなかったが、レティシアの魔力とディディオンの存在はダニエル王子に大きな影響を与えた。
「ーーですから、ダニエル王子、マリアンヌ様がいない今、マリアンヌ様に対して使ったお金はダニエルが返さねばなりません。王家と関係のないものに、あれほど大量のお金を....聞けば、レティシア様には一ペラさえも使わなかったそうじゃないですかーー」
レティシア....あんな魔力を隠していたとは。
しかも、ディディオンだと?
俺に兄がいたなんて....それも王族として席も残っているようだ。
ディディオンは王族を抜けたかったそうじゃないか!
どうして父上はディディオンの存在を残しているんだ!
いくら兄とはいえ、俺の邪魔をするやつは許さないーー
「ーーですから、王家にはもうお金もないのです。あなた自身が償っていかねばーーダニエル王子?聞いていますか?ーー
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ディディオンが帰ってこないと思えば、レティシアと繋がっていたとは....
ディディオンには煮え湯を飲まされてばかりだ。
あの時も、今回も。
だが、これで決まりだ。
ディディオンを次期王として呼び戻し、レティシアと結婚してもらおう。
これでこの国の魔力に問題はなくなるな。
まだ王座は譲り渡す気はないが、次期王となれば王族としての義務を果たさなければならない。
婚約者であるレティシアからも今まで通り魔力が貰えるな。
聞いた話によると、演算機などの権利もレティシアに移っているそうじゃないか。
これは、ディディオンとレティシアの結婚は確実だな。
なんとも思っていない相手に譲り渡せるようなものじゃない....
あの時の様にならぬよう、注意せねば...
「父上!彼女からも魔力を吸い取るとは本当なのですか!?」
「彼女?ああ、マリアンヌか。そうだ。生まれた時に気付いたのだ。あれは凄い魔力を秘めているーー」
王はニヤリと笑った。
今のレティシアのことだ。
「そんな、まだ子供じゃないですか!私の魔力だけでは足りないのですか!?」
「ディディオンよ、良いか?魔力はあって困ることはない。あればあるほど良いのだ。」
ディディオンは怒りで魔力が膨れ上がった。
「まあ待て、もう少し待ってやろう。ディオゲネスもまだ帰ってこぬことだしな。それまでにバレない方法を考えようではないか。」
王はディオゲネス公からの反対に合い、どうにか気づかれないように魔力を吸い取る方法を考えていた。
ディディオンはどうにか止められないかと、魔力の研究も始めることになった。
そして、マリアンヌと呼ばれていた今のレティシアが入れ替えられ、ディディオンは王族にいる理由がなくなる。
王族から離れたといっても監視下にあったディディオンは、自分の作り出したものを元に本格的に王族から身を隠したのだった。
王はそのときのことを思い出し、しかめっ面になった。
当時は、まさかディディオンの復讐で国が弱体化しているとは思わなかったのだ。
演算機も鍵盤機も、実際に使うことのない王には、だれが製作者かなんて気にすらならなかった。
....だが、あれでも私の息子だ。話せば分かるだろう...
王は今度こそディディオンと円満な関係を築こうと、書面で送った。