パーティ後5
「ディディオン?あの、帰りたいんだけどーー」
レティシアはディディオンを見つけると恐る恐る声をかけた。
「帰る?どこに。」
ディディオンは冷たい目でレティシアを見下ろした。
「ずっとここに居ればいい。」
ディディオンは一度もレティシアと目を合わせようとはしなかった。
「ディオゲネス公が心配してるわ。」
レティシアは案外、新しい父親のことを気に入っていた。
今までのことは水に流し、あの感情表現の不器用な父親と上手くやっていたのである。
正直なところ、ハイドローザ公に比べてディオゲネス公が素敵に見えたということもあるがーー
「は?ーーあの人はお前とマリアンヌが入れ替えられてたこと知ってたをだぜ?それで、ほっといた。そんなやつが心配してるわけねーだろ。」
ディディオンは吐き捨てるように言った。
確かにレティシアも気にはなっていた。
なぜ、ディオゲネス公は私を取り戻してくれなかったのかと。
ただ、なんとなく分かったのだ。
仕方ない理由があったと。
ディオゲネス公がレティシアを見る目は、いつも柔らかなものだった。
いくら顔が無表情で冷徹に見えたとしても、レティシアにとっては優しい父親そのものだったのだ。
「お前さ、俺にも利用されてたって、分かってんの?」
「どういう、こと?」
ディディオンの冷めた目が、レティシアを射抜いた。
「お前にチョーカー付けたのが俺だって、忘れてんのか?王の命令でお前の魔力を吸い取ってたんだよ。」
「う、嘘よ。王は十分魔力を持ってるじゃない。」
「あれは元々俺の魔力だ。俺は俺の魔力を渡すのが嫌で、お前を生贄にしてたんだよ。」
ディディオンはまた、ニヤリと笑った。
レティシアはここから出られないのでは、という気までしていた。
心を休めようにも、寝ると悪夢を見るレティシアは寝ることができなかった。
昔マリアンヌの母に育てられていたと知ってからは、マリアンヌの母に虐げられていた過去らしき夢ばかりを見ていた。
子どもには辛い過去だったからか、レティシアの記憶に今まで存在しないものだった。
いつも意地悪をされては、庭に逃げ、慰められる。
そんな夢だった。
成長するに連れ、逃げることも上手くなっていき、庭で過ごすことが多かったようだが、なぜかレティシアの記憶にはその時のこともあまり残ってはいなかった。
それほどマリアンヌの母の行為は、幼いレティシアの負担となっていたのだろうか。
レティシアはだんだんとやつれていった。