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部屋には、ハイドローザ公とマリアンヌの母が連れて来られ、王家の者はほとんどが参加していた。
ルカから「父は書類に目を通す気さえない」と返事を貰ったため、ハイドローザ公は無理やり連れてくるしかないという結論に至っていた。
司法院の手が出る前に、王家の中で解決しようとしたのである。
「ハイドローザ公、レティシアとマリアンヌをすり替え、育てたという話は誠か?」
「はい、致し方なかったのです。」
「ーー致し方なかったとは?」
「レティシアは、育ての親である彼女にひどい態度を取っていたのでーー」
ハイドローザ公は隣に座るマリアンヌの母をチラリと見た。
「ーー幼児が、か。」
王はため息をついた。
レティシアが当時の育ての親であったマリアンヌの母を虐めていたと....そのときレティシアは何歳なのか、考えればうんざりとする言い訳だ。
それを鵜呑みにして、レティシアを冷遇し続けたハイドローザ公。
まさかレティシアもそんな理由だったとは思ってもみなかっただろう。
現に、ぽかんとした顔で聞いている。
幼過ぎて記憶にすらないだろう。
「それで、「ハイドローザ夫人と。」ーーハイドローザ夫人も、これを認めるのだな?」
「ええ、もちろんです。レティシアはそちらにお返しします。」
ハイドローザ夫人は堂々と話した。
「そして、あなたは不貞行為の末、マリアンヌを産んだと。」
「不貞行為?あの方は私がなにしようと気になさらないですわ。たぶん、このことを知ったからといって、私を罰するなんて、うふふ。」
と、笑ってみせた。
それをシラっとした顔で、ディオゲネス公も聞いていた。
ディオゲネス公の意識は、隣に座るレティシアに注がれており、他の誰かが何を言おうと、ほとんど事務的に聞くだけだった。
ディオゲネス公は確かに、不貞行為に及ぼうが全く気にしてはいなかった。
そして、マリアンヌがよその子であることも、ある時から気づいていた。
それを利用していたディオゲネス公であったが、表情には出さず、騙されていた公爵を演じていた。
だが、ディオゲネス公が彼女の不貞行為を見逃したからとはいえ、それで終わることはできない。
そんな考えは二人の頭に欠片もなかった。
取り替えていたものを返す。
それだけの話だと思っていたのだ。
「ーーそうか、王家の子供を勝手に連れ出し、我々に偽り、育てていたというのだな?」
「まあ、そんな言い方なさらないで。レティシアだってちゃんと育ったじゃありませんか。」
王は頭を抱えそうになった。
今までにないことで、やはり王の手には負えそうになかった。
二人は明らかに大きな罪を犯している。
しかし、今この時点で断罪するには、まだ準備が十分でなかった。
そして、今だマリアンヌを婚約者とするか迷っていたのだ。
マリアンヌにはこの両親がついてくることを考え、マリアンヌも同じように成長すると思えば、辞めるのが正解だと分かるものだがーーー
「ーー発言をお許し頂けますか。」
手を上げたのはユリウスだった。
ユリウスは宰相としての仕事を覚え、父親の補佐として王の仕事に関与するまでになっていた。
自分の息子と見比べて、なんども残念な気持ちになったものだ。
「よかろう。前へ。」
ユリウスは礼儀正しく、前へと進み出た。
「マリアンヌ様の教育費として、王宮からお金が支払われていたかと思います。レティシア様と入れ替えられたその日からの分は、お返し頂きたいと思います。」
「な、なにをーー」
ハイドローザ公は、まさかこんな子供から意見されるとは思ってもみなかった。
「あら、マリアンヌは未来の王妃なのよ?レティシアに王妃として教育がされていたように、マリアンヌにもされていたと思えばいいでしょう?」
マリアンヌの母は、さも当然といったように話した。
王は頭痛がした。
マリアンヌを王子の婚約者にすることは、二人が勝手に言っていること。
王は一度も正式な許可をしていないのだ。
「マリアンヌ様が王妃に、ですか。」
王家に関わるものはみな、呆れた顔をした。
マリアンヌが全くもって王妃に相応しくないことは、誰の目にも明らかだったからである。
王になるには未熟すぎるダニエル王子には、レティシアくらいしっかりとして知的な女性でないと、未来を託せないというのが皆の見解だった。