20.
一人きりで馬車に乗り、ルカは事態を飲み込めないまま屋敷へと帰ってきた。
「ど、どういうことなのですか!?」
ルカは父親に詰め寄った。
「どういう?なにがだ?」
父親は不思議そうな顔をした。
「ルカくん?どうしたの?」
ルカは話したこともない、マリアンヌの母に声をかけられ驚いた。
ハイドローザ家に平然とマリアンヌの母が存在していた。
「ぼ、僕と姉上は血が繋がっていないとーー?」
ルカはレティシアと自分が腹違いの姉弟だと思っていた。
だからこそ、姉であるレティシアにあんな気持ちを持ったことを恥じーー
「そうよ?あなたは私の子なの。マリアンヌの弟よ。」
マリアンヌの母は微笑んだ。
ルカはその笑みにゾッとした。
あのマリアンヌ様と血が繋がっていて嬉しいはずなのに、ルカは全く喜べなかった。
マリアンヌ様が王族でないと聞いて、途端にマリアンヌを尊敬していた気持ちもなにもかもがなくなってしまったのだ。
ルカは気分が悪くなり、部屋へと戻った。
慣れ親しんだはずの家が、知らないもののように感じた。
そのとき、レティシアの気配がしないことに気がついた。
ルカはレティシアの部屋へと向かった。
レティシアの部屋へ行くのは、子供の頃以来だった。
ルカはレティシアの部屋を意図的に避けていた。
レティシアに甘えていた子供時代を思い出してしまうからーー
「あら、ルカくん?」
マリアンヌの母、いや、ルカの母が部屋から出てきた。
「どうしたの?」
「姉上を探しにーー」
「あなたの姉はもうマリアンヌよ?ここにはいないわ。」
「れ、レティシア様は?」
「レティシア?ああ、部屋にはいなかったわね。」
レティシアの部屋はマリアンヌの母によって荒らされていた。
ルカはマリアンヌの母から、後ずさりした。
マリアンヌの母は、ルカにベタベタと接触してきた。
ハイドローザ公は、久々に会えた息子との再会を喜んでいるだけだ、と思っていたが、ルカにはそれ以上の意味を含んでいる気がしてならなかった。
ルカはどうしても彼女を母だと思うことができなかった。
ーーその日から、ルカはできる限り母に接触しないよう生活するようになる。
すぐにハイドローザ夫人として屋敷を我が物顔で歩くようになり、
部屋に篭っていたルカも、レティシアの安全を確認するため王宮へ向かうことにした。
父には何を言っても、レティシアの話は取り合ってくれなかったからだ。
ルカはいつの間にか、レティシアが心配で堪らなくなっていた。
その時マリアンヌがどうなっているかなんてことは、気にすることもなくーー
「父上!」
「なんだ、ルカ。ーーああ、暇ならこれを読んでおけ。」
ルカに渡されたのは、王からの緊急の書面だった。
「これは、なんの手紙ですか?」
「知らん。」
ハイドローザ公と夫人は、酒を飲み始めてしまった。
ルカは慎重に開封した。
「ーーち、父上!」
「なんだルカ、騒々しい。」
ハイドローザ公は思わず眉を顰めた。
「あ、明日、王宮に来るようにと。」
そこには有無を言わせない招集命令が書かれていた。
ハイドローザ公は聞いているのかいないのか、生返事ばかりしていた。
ルカは独断で返事を送り返した。