十七
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「ディオゲネス公!遠征に行ってしまわれるとは本当ですか?」
「ああ。六年は帰って来られぬだろう。」
「そんな...私たち、結婚したばかりなのですよ!?」
「ああ、マリアンヌはまだ小さい。だからお前を娶ったのだ。」
そう行って、ディオゲネス公は遠征へと旅立ちました。
私は、王宮での知り合いはおらず、幼いマリアンヌを育てなければいけませんでした。
一人でマリアンヌを育てようとしたのですが、マリアンヌはとてもワガママで性格の悪い子でした。
私の手には負えない...そう思いました。
そんなとき、出会ったのがハイドローザ公でした。彼は、私のことを本当に大切にしてくれて、私を色んなところへ連れ出してくれました。
そしていつしか、二人の間に愛情が湧くようになっていました。
そんなある日、私のお腹の中に新たな命が宿っていることが分かったのです。
しかし、私はまだディオゲネス公と結婚している身。
ディオゲネス公が不在の中生まれた子は、どんな辛い目に会うのでしょう。
それも王族である私が、この子を育てていけるはずもありませんでした。
「ああ、私の可愛い子...」
「...私、この子を手放すだなんて...そんなことできません!」
「...そうだな...その子は君が育てるといい。マリアンヌは私が預かろう。私の子として育てる。」
「でも...」
「大丈夫。君たち親子のためだ。この子の名前がマリアンヌになろうと、私の娘であることに変わりはない。」
そう言って、生まれたばかりの我が子を撫でました。
だから、前妻との子であるマリアンヌをハイドローザ公に引き渡し、故郷でこっそり産んだ子をマリアンヌとして連れて帰りました。
ディオゲネス公が不在の中、私たち親子に興味を持つ人は少なく、離宮に引きこもった私たちに近づく者はほとんどいなかったのです。
次に出て来た時に、赤ん坊が少し変わっていることにも、誰も気が付くはずがありませんでした。
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「そうして、私とハイドローザ公の子供がマリアンヌとして、マリアンヌであったディオゲネス公の子はハイドローザ公の子供として育てられたのです。」
ママは涙を流した。
「ディオゲネス公、申し訳ありません。ですが、私は彼を愛してしまったのです...」
「いえ、俺が彼女を...」
王族の方は、誰もが放心状態。
私の隣にいるダニエル王子も、あんぐりと口を開けたまま固まっている。
「よい、もうよい。ならば、この場をもって離縁としよう。」
ディオゲネス公だけは、こうなることが分かっていたかのように平然と話を進めた。
この中の何人が事実を把握できたのか。
突然のことで誰もが飲み込めない中、お開きとなった。
ハイドローザ公とディオゲネス夫人だけが嬉しそうにしていた。
...その愛の終わりが近づいていることに、気づかぬまま...