十
連投です。
「ユリウス様。ダニエル王子からすぐ来るように、と...」
「どうせ大した用ではない。後で向かうと返事をしておいてくれ。」
ユリウスはダニエル王子からの再三の要請を、何度も断り続けていた。
ここは学術室。
生まれたときから宰相となることを決められた私だが、学術師に対する憧れを捨てきれず、どうにか末端で働かせてもらっている。
学術師としての才能だけはどうにもできず、魔式を理解することもできなかったが、あの演算機だけはどうにか習得できそうだ。
宰相となるため働く一方、学術師として働くことを反対していた父もこれにはとても驚いていた。
実は他にも仕事をしているのだが、それは父にも秘密にしている。
それでなくとも、宰相の仕事が疎かになるのでは、と心配しているのだから...
「ユリウス様、ダニエル王子と仲がいいんだと思ってました。」
学術師が研究を続けながら話しかける。
その手のスピードはまるで落ちない。
天才だと言われた育った自分が、ここでは恥ずかしく思えた。
「そうだな。学園では仲良くしてるよ。」
次期宰相である自分は、次期王であるダニエルと仲良くしておくことが一番の課題だった。しかし、ある程度の信頼関係ができた今、着いて回る必要はないだろう。
「ダニエル王子、また技術師へ抗議文送ってきたらしいっすよ。」
「一番人気の彼に、だろ?お前のせいでこんなことになってんだ!って言ってやりたいね。」
「おいおい、あんまり言うとしょっぴかれるぞ。」
ハハハハ、と笑い声が響く。
ユリウスはこの空間が好きだった。
ダニエル王子の顔色を伺う必要もなく、本音で言いたいことが言える関係にあった。
今まではダニエル王子の取り巻きとしてではなく、実力を認められつつある。
安易な気持ちで入った自分も、いつの間にかここの一員になっていた。
ユリウスは今でも昔の自分を思い出し、恥ずかしい気持ちになるのであった。
「終わったー!」
「政務に回ってた分、こっちに帰ってきててやり易いっすね!」
「ユリウスもおつかれ!」
仕事終わり、やっとダニエル王子のために時間をさくことができた。
いつもなら、仕事終わりも親睦を深めるために酒を飲みに行ったりするのだが...
正直ダニエル王子のために使いたい時間など、微塵もなかった。
「ダニエル?入りますよ?」
どうせマリアンヌと一緒だと予想し、大きな音を立ててノックをする。
「ユリウス!待っていたぞ。」
「だ、ダニエル、どうしたんですか?」
ダニエル王子が切羽詰まった様子で駆け寄ってきた。
「わ!ユリウス久しぶり!」
「マリアンヌ、お久しぶりです。」
「楽師が婚約披露パーティーに出れないと言うのだ!何か知ってるか?」
「そういえば、父上が演算師が出勤しなくなったと言っていましたね....」
「演算師が!?どうなってるんだ...」
マリアンヌが頬を膨らませる。
最近気が緩んでいるのか、気を引きたいからなのか....
仮にも王妃になる可能性があるんですから、そんなバカみたいな仕草はやめた方がいいですよ?
「ねぇ、どうするのー?もう招待状出しちゃったよ?」
「そうだ、もうすぐ婚約披露パーティーなんだ。」
私は困ったような顔をしておいた。
技術師などの内情を知っていても、誰にも口外しないと約束をしている。
まだ、私はダニエル王子の配下にはない。
まだ、好きにできる。
演算師のことはいい。
どうせダニエル王子は演算師について興味もないだろう。彼には十分な教育がなされていない。もしかすると、このまま必要のない可能性も...
いや、今のダニエル王子には楽師のことが大切だろう。
「パーティーまでに考えを変えてくれるよう頼むしか...」
「頼む!?俺が?」
「ええ。」
ユリウスでもこんな馬鹿げたことを言うことがあるのか...俺の次には賢いやつだと思ってたが、思い違いだったな、
と思ってるのが顔に出てますよ。
言っておきますが、魔力の差で負けたことはあっても、自頭の差で負けたことはありませんから。
ダニエルとマリアンヌはなにをどう話し合ったのか、
「来なければ、無理やり連れてこればいい。」
「そうね!そうしましょう。」
という結論に至ったらしい。
どうしてそうなった...
私は頭を抱えるしかなかった。
次回は楽しい(私が)マリアンヌ様の回です。